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特別展「和様の書」を楽しむために─鑑賞編2 四大手鑑

特別展「和様の書」では、四大手鑑(よんだいてかがみ)が揃います。

手鑑とは、
手(筆跡のこと)のアルバムです。
その手鑑で国宝に指定されているのが、4つのみ。
それを四大手鑑と呼びます。

手鑑は、
台紙に、一枚から三枚ほどの古筆切(こひつぎれ)が貼り付けられています。
その台紙を50枚ほどつなげて、帖(じょう)に仕立ててあります。

手鑑を作ることは、江戸時代に流行しました。
それには、古筆の鑑定を家業とする古筆家(こひつけ)が関係しました。
手鑑には通常、古筆切の右上に伝称筆者(でんしょうひっしゃ)を示す極札(きわめふだ)が付いています。その極札を書くのが古筆家の仕事でした。

極札の例
極札の例

また、手鑑に貼る古筆切の配列(順序)はおおよそ決められていましたが、
古筆家は、その配列と伝称筆者を示す本を出版しています。


四大手鑑のうち、三つまで、古筆家が関わった手鑑です。

藻塩草
国宝 手鑑 藻塩草 奈良~室町時代・8~16世紀 京都国立博物館蔵
[展示期間:2013年7月13日(土)~8月12日(月)]


手鑑「藻塩草」(もしおぐさ、京都国立博物館蔵)は、
古筆本家に伝わった手鑑で、鑑定の手控帳と言われています。
極札はなく代わりに、古筆本家10代目の古筆了伴(りょうはん、1790~1853)が
書いた目録が附属しています。

この「藻塩草」と関連するのが、
手鑑「見努世友」(みぬよのとも、東京・出光美術館蔵)です。

見努世友
国宝 手鑑 見努世友 奈良~室町時代・8~16世紀 出光美術館蔵
[展示期間:2013年8月13日(火)~8月25日(日)]


表紙や金具などが「藻塩草」と同じで、
極札の代わりに、古筆了伴が筆者名を書いています。

そして、
古筆別家(こひつべっけ)の3代目・古筆了仲(りょうちゅう、1656~1736)が
持っていた手鑑が、手鑑「翰墨城」(かんぼくじょう、静岡・MOA美術館蔵)です。

翰墨城
国宝  手鑑 翰墨城 奈良~室町時代・8~16世紀 MOA美術館蔵
[展示期間:2013年7月13日(土)~8月12日(月)]


これらの、古筆家が持っていた3つの手鑑は、
手鑑の基本のかたちを示すものですし、
収められた古筆切も、充実しています。

さらに、その質や量も上回る手鑑を、
近衞家凞(このえいえひろ、1667~1736)が作りました。
「大手鑑」(おおてかがみ、京都・陽明文庫蔵)です。

大手鑑
国宝 大手鑑 奈良~室町時代・8~16世紀 陽明文庫蔵
[展示期間:2013年8月13日(火)~9月8日(日)] 頁替あり
右:右上の筆者名は近衞家凞の筆です。


五摂家(ごせっけ)の筆頭である近衞家には、
さまざまな文書や古筆、絵画、工芸品がたくさん伝わっています。
現在は、陽明文庫としてそれらを大切に保管されており、
特別展「和様の書」でも、陽明文庫の宝物をいろいろとご紹介します。

近衞家凞は、近衞家第21代目ですが、
書や絵画、工芸品にも造詣が深かったようです。
とくに書については、生涯にわたって貴重な古筆を模写・臨書しています。
その臨書の技量は、すばらしいものでした。

模写や臨書をすることは、
その書をじっくりと鑑賞することになり、
自分の手で書を感じることにもなります。
その作業によって培われた眼で、家凞は「大手鑑」を作ったのです。

通常より大きい台紙に、通常より大きい古筆切が、
ぞんぶんに収納されています。
まさに、「大」手鑑と呼ぶにふさわしいものです。


手鑑とは、
書を鑑賞するための、ひとつのかたちです。
でも、そこには、写真アルバムと同じように、手鑑を作った人々の愛情も込められています。
手鑑を御覧になるときに、作った人のことも少し思い出してみてください。

 

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カテゴリ:2013年度の特別展

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2013年06月30日 (日)