このページの本文へ移動

1089ブログ

色鮮やかで美しい二つの近世仏画

伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」(11月21日(日)まで)の閉幕が近づいてまいりました。
特別展はあっという間です。
本展の第2会場・第6章では、「現代へのつながり―江戸時代の天台宗」というテーマで、関東地方の有力な天台宗寺院である、浅草寺・輪王寺・寛永寺に伝わった御寺宝を展示し、東京会場の特色を出しています。

今回は栃木県日光市の輪王寺に所蔵される二つの仏画をご紹介します(図1)。
仏画というと、難しいし、時代が古いものは絵の具が剥落したり退色したり、あるいは画面が汚れていたりしていてよく見えない!という感想をお持ちの方も多いと思います。
ですが、こちらの作品はいかがでしょう。目を見張る鮮やかさです!ともに江戸時代に制作されました。 


図1
第2会場 展示風景

向かって左が「法華経曼荼羅図」です(図2)。


図2
法華経曼荼羅図
木村了琢筆 江戸時代・寛永17年(1640) 栃木・輪王寺蔵
展示期間=11月2日(火)~21日(日)

『法華経』「見宝塔品」の内容を描いたもので、釈迦如来と多宝如来が宝塔に並んでお説法をしています。
周囲にはありがたいお話を聞くために、いろいろな菩薩や釈迦の弟子たちが集まっています。

一方、右側に展示しているのが「仏眼曼荼羅図」です(図3)。


図3
仏眼曼荼羅図
木村了琢筆 江戸時代・17世紀 栃木・輪王寺蔵
展示期間=11月2日(火)~21日(日)

穏やかに過ごすことや安産を願って行われた「仏眼法」という密教修法の本尊に用いられました。
仏眼仏母という仏を中心に、周囲に様々な仏が、花が咲くように広がって位置しています。

ともに良質な絵の具が用いられ、華麗で美しい作品です。
華やかさの理由の一つが、随所にみられる金色です。
金箔を細く切って模様の形に貼り付けたり、金を絵の具のように用いて文様を描いています。
今は色あせてしまった平安時代の仏画も、描かれた当時はこのような輝きを持っていました。

また、表装部分も注目です。描表装(かきびょうそう)といって、絵の周囲もすべて描いています。
表装部分は通常、裂地を用いますが、仏画の場合、この二つの作例のように、風帯と呼ばれる掛軸上端から垂れ下がる裂や、裂地の文様にあたる部分までも丁寧に描き出した例がみられます。
ただ、どうしても傷んでくるので、裂地に代わることが多いです。
古い仏画では描表装が周囲に少しだけ残っている作例が散見されます。

そして、この二つの作品、以前使われていた軸や表装裏の墨書から、「木村了琢」という絵仏師が描いたことがわかります。
この木村家、江戸時代を代表する絵仏師の家系です。
二つの作品を比べると、確かに顔立ちがよく似ている仏がいたりします(図4・5)。


図4法華経曼荼羅図(部分)
木村了琢筆 江戸時代・寛永17年(1640) 栃木・輪王寺蔵


図5
仏眼曼荼羅図(部分)
木村了琢筆 江戸時代・17世紀 栃木・輪王寺蔵
(図4・5を比較すると、目尻の上がった顔立ちは似ていますが、鼻筋を入れる、入れないの違いがみられます。この違いをどのように考えるか……今後の課題としたいと思います)



木村了琢の画風を知る手掛かりです。皆様も会場でじっくりと見比べてみてください。
近世仏画は古代・中世の仏画を考えるうえでも重要です。
ご紹介した二つの作例は、仏画が本来持つ華やかさ、美しさを今に伝えてくれています。



※会期は11月21日(日)まで。会期中、一部作品の展示替えを行います。
また、本展は事前予約制を導入しています。
展示作品やチケットの詳細については、
展覧会公式サイトをご確認ください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ絵画2021年度の特別展

| 記事URL |

posted by 古川攝一(平常展調整室) at 2021年11月12日 (金)

 

「聖徳太子及び天台高僧像」勢ぞろい!!

現在開催中の伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」、本展覧会の見どころの一つが、「聖徳太子及び天台高僧像」(一乗寺蔵)全10幅が勢ぞろいすることです!!
 
国宝 聖徳太子及び天台高僧像(一部複製)
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵
※展示期間は各幅ごとに異なります。展示期間は作品リストでご確認ください(PDFが開きます)
 
第1会場・第1室に展示されるこの作品は、天台の教えを築き、受け継いだお坊さんたちが描かれています。
制作されたのはおよそ千年前、平安時代・11世紀です。
11世紀に制作された現存する仏画は数える程しかありません。
ですから、本作品に描かれた最澄像は、現存最古の最澄の肖像画です(図1)。


図1
国宝 聖徳太子及び天台高僧像 十幅のうち 最澄
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵 画像提供:東京文化財研究所
展示期間=11月7日(日)まで

本展覧会の主役である最澄は、平安時代前半に活躍したお坊さんで、比叡山に延暦寺を創建し天台宗を打ち立てました。
最澄さん、かなりのイケメンであったことが、「慈覚大師伝」(じかくだいしでん)という記録から知ることができます(図2)。

図2
重要文化財 慈覚大師伝(巻首部分)
平安時代・12世紀 京都・三千院蔵
 
「顔の色は素白にして、長け6、7尺」とあって(図2青枠箇所)、色白で背が180㎝程あったみたいです。
肖像を見ると確かにお顔は白いですね。
 
この作品、最澄のほかに9人の僧侶と聖徳太子がセットになっています。
最澄のお姿とよく似ているのが智顗(ちぎ)というお坊さんです(図3)。

図3
国宝 聖徳太子及び天台高僧像 十幅のうち 智顗
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵 画像提供:東京文化財研究所
展示期間=11月2日(火)~11月21日(日)

天台大師(てんだいだいし)とも呼ばれるのですが、文字通り、中国で天台の教えを築いた、まさに天台宗の生みの親です。
お顔の部分をよく見ると、描き直した痕跡のような丸い形が見られます(図4)。

図4
国宝 聖徳太子及び天台高僧像 十幅のうち 智顗(部分)
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵 画像提供:東京文化財研究所

天台の教えは智顗から最澄へと受け継がれていることを示すために、いつの時代にか、両者が兄弟のように似た姿となるよう描き直したのかもしれません。

ちなみに、天台のお坊さんではない聖徳太子が入っているのは、平安時代、太子が智顗の師匠である慧思(えし)の生まれ変わりであると信じられていたためです。
篤く仏教を信仰し、『法華経』を大切にしていたことから、最澄自身も聖徳太子を敬っていました。

この作品、描かれたお坊さんたちのファッションも注目です。
暖色系の色味を使った、様々な文様を見ることができます。
慧思の靴の模様や、智顗の靴の中敷きの模様は愛らしくおススメです。
 
作品の保存上、展示期間を限っていますが、11月2日(火)~7日(日)の6日間は全10幅が同時に公開されます。
天台の教えの壮大な連なりを感じることができます。


※会期は11月21日(日)まで。会期中、一部作品の展示替えを行います。
また、本展は事前予約制を導入しています。
展示作品やチケットの詳細については、展覧会公式サイトをご確認ください。   
 

カテゴリ:研究員のイチオシ絵画2021年度の特別展

| 記事URL |

posted by 古川攝一(平常展調整室) at 2021年10月29日 (金)

 

特別展「ポンペイ」見どころを紹介するほ!


特別展「ポンペイ」ポスター

ほほーい!ぼく、トーハクくん。博物館ニュースはこれからの展示や今の展示を知るのに便利だほ。おっ、これはなんだほ、2022年1月14日(金)から4月3日(日)まで特別展「ポンペイ」っていう展覧会が開催するほ。「ポンペイ」ってなんだほ?
「ポンペイ」はイタリアの南のほうにあった、古代都市の名前よ。
古代都市!?どれくらい昔ほ?
約2000年前くらいにあった都市だわ。でもね、紀元後79年にポンペイの近くのヴェスヴィオ山が噴火して、町は地中に埋まってしまったの。
・・・(絶句だほ)
でもね、その埋まってしまったものの発掘は18世紀ごろからはじまって今も続いているの。発掘した膨大な遺物をコレクションしているのがナポリ国立考古学博物館。そのナポリ国立考古学博物館の至宝約150点をこの展覧会で紹介するのよ。
長い間埋まっていたなら、ボロボロになっていると思うほ。展示できるものがあるほ!?
見てごらん。


通称「青の壺」

とてもきれいだほ。細かい模様もあってすごいほ!
カメオ・ガラスと呼ばれる技法で制作された容器で、完全な形のまま残っているのはとても貴重らしいわ。
どんな作品がくるかわくわくしてきたほ。こういうポンペイの人たちが使っていた作品を展示するほ?
ポンペイの街にあった施設に関係するものや、暮らしや仕事ぶりがうかがえるもの、ポンペイが栄えた歴史を示すものなどが展示されるのよ。
ポスターに書いてある「そこにいた。」ものを見つけられそうな気がしてきたほ。ユリノキちゃん、ほかの作品も教えてほ!
じゃあ、いくわよ!まず、ポンペイの街の施設に関係する作品よ。


辻音楽師

チラシに載っている作品だほ。まん中の人はカスタネットみたいなものもっているほ。
喜劇の仮面をかぶって、楽器を演奏する小さな楽団が、どこかの家を訪問している場面らしいわ。今の日本だと想像しにくい場面だけど、ポンペイがあった地方は演劇が盛んだったのよ。
ほー。ということはなんだほ?
演劇の会場となる劇場が賑わう様子を想像できない!? 次は、ポンペイの人びとに関係する、こちらの作品よ。


書字板と尖筆を持つ女性(通称「サッフォー」)

女の人の絵だほ。何かメモしようとしているほ?
そうね、筆をもっているし、何か考えているような表情だわ。ナポリ国立考古学博物館で最も有名な肖像の一つなのよ。
とてもかしこそうにもみえるほ。頭の髪飾りも金に見えて、豪華だほ。
次は暮らしに関係する作品よ。


パン屋の店先


炭化したパン

パン屋さんとこれはパン?2000年前にもパン屋さんがあったなんてびっくりだほ。
当時も主食はパンだったのよ。この絵に描かれたものと似た形のパンを発掘できたから、あわせて展示するの。最後はポンペイが栄えた歴史に関係する作品よ。


踊るファウヌス

誰だほ?
牧神ファウヌスとされるブロンズ像よ。ポンペイで最も大きくて、とっても古い家から発見されたの。この像があったからこの家は「ファウヌスの家」と名づけられたのよ。ほかにも「竪琴奏者の家」、「悲劇詩人の家」っていう、ポンペイが栄えた歴史を示す家に関連した作品や、その頃の家の様子の一部を会場内に再現するのよ。
すごい気合の入れようだほ。
すごいのよ。「ポンペイ」展は日本、そして世界のいろいろな博物館で開催しているけど、特に「ファウヌスの家」に関連した作品がナポリ国立考古学博物館を出て、まとめて展示されることがとても珍しいの。最大の見どころだと思うわ。
ユリノキちゃん、なんか今回はいつにもまして詳しいほ。なんかずるしているほ?
あれ、トーハクくんは10月18日(月)に開催した報道発表会に行かなかったの?私はそこに行って予習したのよ。
がーんだほ。見逃したほ。
展覧会公式Twitterでも作品を紹介しています。皆様そちらもぜひご覧くださいね。

※所蔵表記のない作品図版はすべてナポリ国立考古学博物館蔵 Photos©Luciano and Marco Pedicini
※日時指定券は2022年1月5日(水)より販売開始予定。
「日時指定券」の事前のご購入・ご予約(オンラインのみ)をお勧めしています。会場でも当日券をご購入いただけますが、混雑状況により入場をお待ちいただく場合や、当日券の販売が終了してている場合があります。
詳細は展覧会公式ウェブサイトでお知らせします。

 

カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん2022年度の特別展

| 記事URL |

posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2021年10月29日 (金)

 

早くも残りひと月!特別展「最澄と天台宗のすべて」のみどころをご案内



去る10月12日(火)、平成館の特別展示室にて、伝教大師1200年大遠忌記念 特別展「最澄と天台宗のすべて」(11月21日(日)まで)が幕を開けました。
それからあっという間に2週間が経ち、6週間の会期のうち、早くも三分の一が過ぎ去ったことに……。
そう、本展は当館の特別展としては開催期間が短めなのです。
「秋の日は釣瓶落とし」と申しますが、うかうかしているうちに本展の閉幕もすぐそばまで来てしまいそう。

会期が残りひと月を切ったところで、会場の様子を少しだけご覧いただきながら、改めて本展のみどころをご紹介いたします。



平安時代のはじめに日本天台宗を開いた最澄の1200年大遠忌を記念し、天台の名宝を通じて、天台宗の歴史と広がりをご紹介する本展。
当館での開催後は、九州国立博物館と京都国立博物館へ巡回しますが、各地の地域的な特色を示すべく、作品のラインナップは会場ごとに大きく異なります。
そうしたなか、東京会場のみどころのひとつが、会場入口からほど近い位置にずらりと並ぶ、こちらの平安絵画です。


国宝 聖徳太子及び天台高僧像(一部複製)
平安時代・11世紀 兵庫・一乗寺蔵
※原品の展示期間は各幅ごとに異なります。展示期間は作品リストでご確認ください(PDFが開きます)

インド・中国・日本の天台ゆかりの人物たちを描いた、全10幅の作品です。
11世紀の仏画はとても稀少なうえ、現存最古の最澄の肖像画(写真右から2幅目)を含むという点でも貴重とされます。
会期中に入れ替えを挟みつつではありますが、10幅すべてを展示するのは3会場のうち当館だけ。
さらに、11月2日(火)~7日(日)の6日間限定で、10幅の原品を揃ってご覧いただくことが可能です!
またその前後の期間も、写真のとおり複製を交えて展示しているため、10幅のスケールを体感していただけます。

会場の先へ歩を進めると、そこには、寺外初公開となる京都・法界寺の秘仏本尊が皆様を待ち受けています。
像内に最澄自刻の薬師像を納めていた、最澄にとてもゆかりの深い像です。


重要文化財 薬師如来立像
平安時代・11世紀 京都・法界寺蔵

厨子の奥深くで守り伝えられてきた秘仏と東京で対面し、360度からその姿を堪能できる贅沢。
ポスターやチラシにも登場する像ですが、写真で見る以上にほっそりとして優美な腕まわりや、光を受けてきらりと輝く截金(きりかね)文様は、ぐるりと回りながら拝観してこそ味わえるものです。
東京会場には、こうした秘仏が全部で9件もお出ましいただいています。
なかには京都・真正極楽寺(真如堂)の阿弥陀如来立像(11月3日(水・祝)まで)のように展示期間に限りのある秘仏も含まれるため、ご来館の際にはご注意ください。

法界寺の秘仏に別れを告げてさらに進めば、最澄の後を継ぎ、密教を取り入れながら日本天台宗の教えを発展させた弟子たちにちなむ文化財の数々が並びます。
天台宗の歴史を時系列に沿ってご紹介しているのも、本展のポイントです。


重要文化財 不動明王坐像
平安時代・10世紀 滋賀・伊崎寺蔵

こちらは滋賀・伊崎寺の秘仏本尊です。
平安時代前期に活躍し、千日回峰行を創始したと伝わる相応和尚(そうおうかしょう)にゆかりがあるとされます。
目をカッと見開き、下の歯で上唇を噛んだ、凄まじい形相が印象的。
ちなみに、荒行として名高い千日回峰行に挑む行者の壮絶な様子は、展示室内のモニターでも映像にてご覧いただけます。


重要文化財 紺紙金銀交書法華経 八巻のうち巻第七(部分)
平安時代・11世紀 滋賀・延暦寺蔵

天台宗の教えの根本を担うのが、「悟りに至る道はすべての人に開かれている」という平等思想を説いた『法華経』です。
10世紀になると、末法の世を背景に天台浄土教が大成され、多くの人々から支持を得るようになります。
極楽往生を願う平安貴族たちは、功徳を得るために『法華経』を読み、書写することに精を出したそう。
「紺紙金銀交書法華経」のように装飾性の高い写経は、救いを求める平安貴族の想いを体現したものです。
本作品では、金泥と銀泥を1行ごとに使い分けながら、紺紙に『法華経』が書き写されています。

そして中世の天台宗は、『法華経』の思想から多様な展開を遂げることになります。
日本の神々の元の姿は仏であったとする「本地垂迹説(ほんじすいじゃくせつ)」のもと、比叡山の鎮守である日吉山王社への信仰が盛んになり、「山王神道」と呼ばれる天台宗特有の神仏習合思想が生まれました。
本展ではこうした中世における天台宗の様相もご紹介します。



さらに時代が下り江戸時代になると、東叡山寛永寺が創建され、関東での天台宗発展の基礎が築かれました。
なんといっても当館は寛永寺のお膝元!
そうした立地を活かし、華麗な江戸天台の美術をまとめてご覧いただける点も、東京会場の特長です。
特に絵画は色彩が鮮やかに残っている作品も多く、ひときわ目を楽しませてくれます。


左 熾盛光曼荼羅図
江戸時代・寛永9年(1632) 栃木・輪王寺蔵
展示期間=10月12日(火)~31日(日)
右 摩多羅神二童子像
江戸時代・元和3年(1617) 栃木・輪王寺蔵
展示期間=10月12日(火)~31日(日)

そうそう、本展には撮影可能なエリアもあります!
それがこちらの、延暦寺根本中堂の再現展示です。


延暦寺 国宝 根本中堂(内陣中央の厨子)の再現

「根本中堂」とは、最澄が建てた草庵に由来する比叡山延暦寺の総本堂です。
堂内には、最澄自刻と伝わる薬師如来像と、最澄が灯して以来消えたことのない「不滅の法灯」が安置されています。
今回は堂内の様子を、部分的にではありますが、原寸大で展示室に再現しました。
写真手前に3基並んでいるのは、かつて根本中堂内で「不滅の法灯」を納めており、今は現役を退いた先代の燈籠です。
堂内の厳かな空気が伝わってきます。



再現展示エリアを抜ければ、全国各地で大切に守り伝えられてきた尊像の数々が皆様をお迎えします。
天台宗が比叡山延暦寺から東国へと広まっていった、その足跡を窺わせるラインナップです。
なかには、最澄が延暦寺根本中堂の薬師如来像と同じ木から掘り出したと伝えられる秘仏や、驚きの大きさを誇る秘仏も!
その姿は、会場にてご自身の目でお確かめください。

はるかな時を超え、たくさんの人々を介して伝えられてきた天台の教え、そしてその精神を表す宝物は、今を生きる皆様にはどのように見えるでしょう。
ぜひ、1200年の厚みと凄みを本展で体感していただければと思います。


※会期は11月21日(日)まで。会期中、一部作品の展示替えを行います。
また、本展は事前予約制を導入しています。
展示作品やチケットの詳細については、展覧会公式サイトをご確認ください。

カテゴリ:彫刻絵画2021年度の特別展

| 記事URL |

posted by 新井千尋(広報室) at 2021年10月26日 (火)

 

博物館でアジアの旅―空想動物園― 魅力あふれる空想動物たち

「博物館でアジアの旅」(通称「アジ旅」)は、さながら時空を越えてアジア各地を旅するように、トーハク東洋館の各展示室を巡りながら、そこに散りばめられた様々な対象作品を探しつつご観覧いただく、という趣旨の企画です。

「空想動物」をテーマとした今年のアジ旅は、企画名称を「博物館でアジアの旅 空想動物園」(10月17日(日)まで)といたしました。近くの上野動物園に行くと、園外にも動物たちの鳴き声が聞こえてきます。大人も子供も入園前から心が躍り、普段は見られない多くの動物たちに実際に出会うと感激もひとしお。アジ旅での空想動物たちとの出会いも、ぜひ動物園のようにワクワクしながら楽しんでいただきたい、企画名称にはそのようなメッセ―ジも込められています。
企画をより楽しんでいただくために、今年はアジ旅専用の「調査ノート&シール」をご用意しました。イベントページをご参照のうえ、ぜひご利用いただけますと幸いです。

 

さて、前回のアジ旅ブログでは、主役級の空想動物「龍」と、龍とは異なる運命をたどった「饕餮」に注目して、それぞれの歴史的な歩みをご紹介しました。
今回は登場する残りの空想動物をできるだけ多くご紹介し、その魅力についてお伝えできればと思います。


 

鳳凰
龍と並ぶ主役級の空想動物として、真っ先に思い浮かぶのは鳳凰かもしれません。東アジアでは、慶事を告げる(象徴する)瑞鳥の総称として、鳳凰はさまざまな場面に登場します。
また中国や日本では、すぐれた人物のことをたとえて「龍鳳」とも言うように、古来、鳳凰は龍とともに尊い存在(イメージを共有できるという意味では、尊くも身近な存在)と考えられてきたのでしょう。
生活を彩る器物にあしらった模様は、当時の人びとにとって鳳凰が身近な存在であったことを想起させます。

 

 
 
五彩龍鳳文面盆 中国、景徳鎮窯「大明万暦年製」銘 明時代・万暦年間(1573~1620年) 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

どこかシュッとした印象のこちらの鳳凰。白地に、下絵付の青と上絵具の赤・緑・黄によって、華麗な姿が浮かび上がります。陶磁器の色鮮やかな五彩の表現は、中国古代の字書『爾雅』の注釈書に「五彩(色)」と記される鳳凰の色味にピッタリの技法と言えそうです。
同書は鳳凰の形状について、鶏の頭と蛇の頸、燕の頷と亀の背、魚の尾をもつ、と記しますが、文献によって記述内容には異同があり、美術作品に表された形もまた然り。これは他の空想動物にも言えることで、多様な表現に人びとの想像の広がりを感じることができます。



青花鳳凰形皿 中国、景徳鎮窯 明時代・17世紀 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

こちらは、天空を優雅に舞うかのような姿の鳳凰。つぶらな眼や丸みを帯びたシルエットは、愛嬌たっぷりです。お皿として実際に使用されているところを想像すると、食べ物を置いたそばから食べられちゃいそうな、、、躍動感ある表現です。



白玉鳳凰合子 中国 清時代・18~19世紀 神谷伝兵衛氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館9室にて通期展示

打って変わって、白い鳳凰には、どこか神聖な趣が漂います。古来、神聖視され珍重されてきた、美しい石の代表とも言うべき玉で作られています。鳳凰をかたどった、この白玉製の蓋付き容器に、清時代の人びとは何を収めたのでしょうか。


これらの器物から1500年以上遡った後漢時代。当時の画像石や揺銭樹にも鳳凰がみられます。


画像石 鳳凰 中国山東省孝堂山下石祠 後漢時代・1~2世紀 東京国立博物館蔵 東洋館6室にて通期展示

こちらの鳳凰は、故人が仙界に昇る手助けをするものと考えられており、当時の人びとにとって神聖な存在であったことが想像されます。




  
揺銭樹 中国四川省あるいはその周辺 後漢時代・1~2世紀 東京国立博物館蔵 東洋館5室にて通期展示

仙人がまたがる羊をかたどった陶製台座の上に、青銅製の樹木がそびえ、そこに神仙や龍鳳、そしてたくさんの銅銭など、神聖でおめでたいものがあしらわれています。鳳凰は樹木の頂に。その姿は実に悠然としています。よくよく見ると、クチバシで玉のようなものをくわえ、めでたさ倍増の感があります。故人が死後の世界で豊かな暮らしを送れるようにとの祈りは、今も昔も変わらないようです。

 
 
飛び立つ四足獣
鳳凰のように、人びとは鳥の様々な特徴を、ときとして他の動物のそれと合わせて意匠化してきました。鳳凰の形状が鳥の要素が主体であるのに対して、グリフィンのように他の動物の要素が外見に強く表れた空想動物もいます。
 

グリフィン像飾板 イタリア、タラント出土 前4世紀 谷村敬介氏寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

「五彩龍鳳文面盆」の鳳凰に負けず劣らず、シュッとした姿のグリフィンです。ライオンの体に、鷲の頭部と翼をもつグリフィンは、天地それぞれの王者をかけ合わせた最強の容貌で表されます。グリフィンは古代神話に登場し、アジアの広い地域でも人気を博したようです。


 
有翼ライオン文高坏 イタリア、キウージ(クルシウム)出土 前6世紀 イタリア国立東洋美術館寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

こちらもライオンの体に翼をもつ空想動物。ですが、「グリフィン像飾板」とは対照的に、猫のような何とも愛らしい表情です。ケイタイの待ち受けにして和みたいなあ、と思わせる魅力たっぷりのゆるカワ表現です。


 
重要文化財 如来三尊仏龕 中国陝西省西安宝慶寺 唐時代・8世紀 東京国立博物館蔵 東洋館1室にて通期展示

こちらはグリフィンと馬の合成獣、ヒッポグリフ。仏様の両脇で、その上に顔を覗かせるインド神話の水棲怪物、マカラとともに侍従します。



有翼人物と人面をもつ鳥
鳥と合成されたのは、四足の獣たちだけではありません。鳥の翼をもつ人物や、人の顔をもつ鳥などのように、人の要素もまた鳥に合わせられ、空想動物の世界に広がりをもたらしています。

 
舎利容器 中国・伝スバシ 6~7世紀 大谷探検隊将来品 東京国立博物館蔵 東洋館3室にて通期展示

鳥の翼や虫の翅(はね)をそなえた人物が、宝飾を着けて楽器を演奏する様子が、舎利容器の蓋に描かれます。天使や妖精のような姿が、周囲の鮮やかな色彩とともに眼を奪います。この舎利容器は、現在の新疆ウイグル自治区の中央あたりに位置するクチャ市のスバシという寺院遺跡で出土したと伝えられます。



迦陵頻伽像 韓国、慶州出土 統一新羅時代・8世紀 小倉コレクション保存会寄贈 東京国立博物館蔵 東洋館10室にて通期展示

人の顔をもつ鳥の代表格が、極楽浄土に住み、美しい声をもつという迦陵頻伽(かりょうびんが)です。こちらの像では、手にシンバルのような楽器を持ち、枝にとまるかのように足を曲げ、足先を丸めています。細かく彫りわけられた羽毛とともに、実にリアルな表現です。



ガネーシャ
人と四足獣が合わさったような空想動物、あるいは同じような容貌の神々もみられます。象の頭をもつガネーシャはその代表格。ヒンドゥー教ではシヴァ神の子とされます。富と知恵をつかさどるとして、インドを中心に広く信仰を集め、絶大な人気を誇る神様です。
 

ガネーシャ坐像 カンボジア、ブッダのテラス北側 アンコール時代・12~13世紀 フランス極東学院交換品 東京国立博物館蔵 東洋館11室にて通期展示

人びとの願いを受け入れ、幸せをもたらしてくれそうな、立派なお鼻とふくよかなお腹。その存在感と招福度は、アジ旅メンバー随一かもしれません。いや、存在感と言えば、もうお一方、、、



謎の生き物
文献や美術作品などには、様々な空想動物が登場しますが、なかには、はっきりとはわからない謎の生き物もみられます。アジ旅空想動物園では、あえてそのような作品もメンバーに加えました。


石彫怪獣 伝中国河南省安陽市殷墟出土 殷時代・前13~前11世紀 東京国立博物館蔵 東洋館4室にて通期展示

ずんぐりむっくりとした体に、まんまるの目玉が印象的なこの怪獣。正体は不明ですが、とても魅力的な容貌で、存在感の大きさは「ガネーシャ坐像」に匹敵します。中国、殷(商)の王墓で、建築装飾などに用いられた可能性があるようです。



空想動物は、形状などが一つに定まらなかったり、何を示しているのかよくわからなかったりすることが多々あります。このことは、それぞれの時代・地域で、人びとが様々に想いをめぐらし、形にしてきた証と言えるのかもしれません。空想動物園、その洋々たる世界をお楽しみいただけますと幸いです。
博物館でアジアの旅  空想動物園

編集・発行:東京国立博物館
定価:550円(税込)
全24ページ(オールカラー)

1089ブログでご紹介できなかった作品を含む、全出品作品55点の画像を掲載。
東博に集まった世界各地の多彩な空想動物について、くわしく解説したガイドブックです。

カテゴリ:博物館でアジアの旅

| 記事URL |

posted by 六人部克典(東洋室研究員) at 2021年10月06日 (水)