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2018年もありがほー



2018年も今日で終わり、平成最後の年越しだほ! それでは、トーハクの2018年をプレイバックだほ!


今年も1月2日から開館したわ。  今年の干支にちなみ、戌(いぬ)をテーマとした作品が展示されていたわね。


1月16日からは特別展「仁和寺と御室派のみほとけー天平と真言密教の名宝」が開幕したほ。秘仏や本尊を含む仏像など66体が集まったんだほ。


1週間後には「アラビアの道-サウジアラビア王国の至宝」が開幕だったね。
アラビックコーヒー美味しかったほ!


春には毎年恒例の「博物館でお花見を」を行ったわ。今年の春の庭園開放の期間は過去最長だったのよ。
庭園のライトアップもきれいだったほ。




  4月13日からは、特別展「名作誕生-つながる日本美術」が開幕。若冲、宗達、等伯、まさに名作しかなかったわね。


今年の夏はとても暑かったほ。でも、夏の展覧会もとても熱かったほ!
そうね、7月3日からの特別展「縄文―1万年の美の鼓動」は、縄文時代の国宝全6件が初めて揃うなど、見所満載だったわ。


ほほーい! 7月24日から始まった、NHK Eテレ「びじゅチューン!」とのコラボレーション企画として開催された、親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」もとっても楽しかったほ。そういえばイーブイにも会えたほ。


暑い夏にぴったりのBEER NIGHTが今年もあったわね。
まだ暑さが残る中、9月4日から、「博物館でアジアの旅」が始まったほ。テーマは「インドネシア」。みんなジャランジャランしたほ?


博物館でアジアの旅開催中に、毎年恒例の「博物館で野外シネマ」があったね。細田守監督のヒット作、『サマーウォーズ』(2009年)、楽しかったわ。


そして10月2日(日)から2つの特別展が開幕したほ!
特別展「マルセル・デュシャンと日本美術」展と特別展「京都 大報恩 快慶・定慶のみほとけ」ね。


会期中の10月14日に群馬県藤岡市で開催された「群馬古墳フェスタ2018」に行ってきたほ。群馬でもたくさんトーハクをPRしてきたほ。
トーハクくんだけ行って、ずるかった・・・。
ユリちゃん、11月24日に「世界キャラクターさみっとin羽生」に一緒に行ったから、勘弁してほ。

 
まっ、いっかな。少し戻って、10月30日からは特別企画「中国近代絵画の巨匠 斉白石」が始まったね。  斉白石は中国ではかなり有名な中国近代絵画を代表する巨匠なのよ。


2018年の締めくくりは、去年も実施した「トーハク感謝DAY」だほ。ぼくとユリちゃんも登場したほ! ユリちゃん、2019年のお正月の告知をお願いだほ!
すっかり定番の「博物館に初もうで」を1月2日から開催します。2日・3日は和太鼓や獅子舞のイベント、そして、特集「博物館に初もうで イノシシ 勢いのある年に」をお楽しみください。
僕たちも1月2日に登場予定だほ!


2018年もご来館いただき、ありがとうございました。2019年もトーハクにぜひお越しください!

カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん

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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2018年12月31日 (月)

 

松林図の世界を間近で体感! ~高精細複製品によるあたらしい屛風体験

こんにちは、文化財活用センターの小島です。
まもなく新しい年を迎えますが、みなさま新年はどのように過ごされますか?

トーハクではお正月の定番「博物館に初もうで」が開催され、1月2日(水)から1月14日(月・祝)には国宝「松林図屛風」が2年ぶりに本館2室(国宝室)で展示されます。

国宝 松林図屏風
国宝 松林図屛風 長谷川等伯筆 安土桃山時代・16世紀
2019年1月2日(水)~1月14日(月・祝)、本館2室(国宝室)にて展示


松林図屛風は日本の水墨画の最高傑作と称えられる作品で、松の樹が勢いのある筆の動きと墨の濃淡だけで描かれています。霞の間から松が見え隠れする様子や、冷たく湿った大気などその場の雰囲気が表現されています。

今回の「博物館で初もうで」(2019年1月2日(水)~2019年1月27日(日))では国宝の展示に合わせて、本館1階の特別4室にも高精細複製品の「松林図屛風」を展示します。松林図の世界を体感いただくために、高精細複製品にプロジェクションマッピングで映像が映し出される体験型の展示です。

オープニング映像の一場面
オープニング映像の一場面
 
屏風には晩冬の松林の一日は映し出されます。朝もやの中から松林が浮かび上がり、陽の光によって松の色が変化し、雪が降り積もり、夜を迎えます。みなさまの記憶の中に現れる光景と重ねてみることで、作品の音や空気を感じることができるかもしれません。

朝もやの中の松林
朝もやの中の松林
 
屏風の前には20枚の畳を敷き詰めた広間があります。ぜひ、靴を脱いで、畳に座り、作品の世界にはいりこんでゆっくりと情景をお楽しみください。

そして、1月14日(月・祝)までは体験型展示をお楽しみいただいた後に、国宝の松林図屛風をもう一度ご覧いただければ、とてもうれしく思います。ぜひこの機会に、松林図の世界をお楽しみくださいませ。

高精細複製品によるあたらしい屛風体験「国宝 松林図屛風」は1月2日(水)から2月3日(日)の間、本館特別4室で展示しています。

カテゴリ:催し物絵画

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posted by 小島有紀子(文化財活用センター研究員) at 2018年12月26日 (水)

 

トーハクくん、童子切安綱で刀剣の凄みを知る!

ほほーい、ぼくトーハクくん。
今日は刀剣の部屋に来たんだほ。この間の「大包平」にも負けず劣らずの、すごい刀剣が展示されてると聞いて、さっそく、すっかり友達、酒井研究員に会いにいくんだほ。


ごめん、トーハクくん。ちょっと仕事がたてこんでて、「童子切安綱」を案内する時間がないんだ。また今度にしてくれる?

(ガーン)せっかく来たのに、それはないんだほー!

トーハクくん、僕でよかったら案内するよ。

ほ!? その声は10月にトーハクへ来た佐藤研究員!
やったほー、これでまた刀剣に詳しくなれるほ。

それじゃあ大包平と並び “日本刀の横綱” といわれる天下の名刀、「童子切安綱」を見に行くほ!

(なんだかこの人、ノリが良さそうだほ…)

トーハクくん、これが今回ぜひ紹介したい国宝「太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)」です。
さて、この題箋に書かれている名前、どう読むか分かるかい?

国宝 太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱) 平安時代・10~12世紀



むっ、佐藤研究員、こう見えて僕は広報大使なんだほ。トーハクの文化財のことは任せてほ。えーと…
こくほう たち はく(うーん)なんとかかんとか めいぶつ なんとか?

正解はルビにあるとおり、「こくほう たち ほうきやすつな(めいぶつ どうじぎりやすつな)」だよ。

(ズコっ。ルビがあったほ)
ということは、古備前包平ふうに考えると、伯耆の安綱さんっていうこと? 伯耆ってなんだほ?

うん、その「ふう」の考えは間違ってないね。「ほうきやすつな」、伯耆は地名で安綱は人名。
安綱は、今から約千年前、平安時代の終わり頃に、伯耆国、現在の鳥取県西部で活躍した刀工です。
実は伯耆国は、備前国(岡山県)や山城国(京都府)のような、メジャーな刀剣産地ではないんだけど、ここは良質な鉄の産地で、その素材の良さが名工・名刀を生み出したんだね。

茎に打たれた銘「安綱」

ふーん、いい素材がある地にはいい刀工…、うん納得だほ。
じゃあ、そのあとの「名物 童子切安綱」っていうのはなんだほ?

まず、名物っていうのは分かるかい?

むっ、佐藤研究員まただほ! 見くびってもらっては困るんだほ。
その土地にしかないような特産品、早い話が、おいしいお菓子のお土産のことだほ。

 ・・・

(ちょっと空気が変わったほ)

  「名物」というのは、江戸時代に八代将軍徳川吉宗が、家来に命じて作らせた名刀リストである『享保名物帳』に掲載された刀剣のことを指すんだ。

 あの暴れん坊がそんな刀剣カタログを作ってたんだほ。

そう、暴れん坊が作った刀剣カタログ。そこには「名物 ○○」と名刀がいくつも記載されているんだ。
トーハクくんは、酒呑童子って聞いたことあるかい?

お酒が好きな子供? まあまあ不良だほ。

惜しい(わけない、全然)。童子切安綱の童子は、丹波国(京都府)の大江山にいたという酒呑童子と呼ばれた鬼のこと。

 鬼?

そう。藤原道長に仕えた武将源頼光が、この安綱の太刀で酒呑童子を斬ったという伝説が名前の由来なんだよ。

 童子を切った安綱… えーっ! 今ここに展示してあるのは、酒呑童子を斬ったホンモノなんだほ!

でも、すごく大きかった大包平に比べると、安綱さんが作ったこの太刀は細い感じがするけど…

そうだね、でもよーく見てみて。
まず姿。すらりとした刀身が強く弓なりに反って緊張感のある曲線を描いている。そして地鉄と刃文。パッと見は地味に見えるけど、じっくり見ていくと複雑で細やかな変化に富んでいることが分かる。
目が肥えると見えてくることがたくさんある、通好みの作風ともいえるんだよ。
展示室にはこの童子切安綱のほかにも、それぞれに特徴がある刀剣が多く展示されているから、見比べてみてほしいな。


小乱(こみだれ)と呼ばれる不規則で複雑な変化に富んだ波文

うんうん

安綱の作風には、備前刀工の躍動美、山城刀工の端正美とは異なる、いい意味での素朴さ、野趣があるといわれてるんだ。その最高傑作がこの「童子切安綱」。

ぼくにも見えてきたほ。でも、通好みだから国宝になったほ?

酒井研究員に聞いたと思うけど、国宝に選ばれる文化財は、美術品として優れているだけでなく、華麗なる由来伝来を持ち合わせているんだよ。
「童子切安綱」は安綱の最高傑作であり、その造形の素晴らしさが酒呑童子伝説と結び付いたっていうのは今言った通り。そして、 “天下五剣” の一つとして古くから名高く、足利将軍家→豊臣秀吉→徳川家康・秀忠→越前松平家→津山松平家と伝えられてきたという。
さらに保存状態が抜群にいい。その証拠に茎(なかご)の目釘穴が一つしかなくて、製作当初の姿をほぼ留めていることが分かるね。これは文化財としてとても重要なことなんだ。
いかに大切にされてきたか分かってもらえるかな。

童子切安綱の茎には目釘穴が一つしかない


重要文化財 太刀(部分) 備前景依 鎌倉時代・12~13世紀
拵(こしらえ)が作り直されるたび、柄を固定する目釘の穴があけられている
[本館13室(刀剣)にて、2019年2月17日(日)まで展示中]


うん、分かるんだほ。それで、実際に手に取った感じはどうなんだほ?

「童子切安綱」は数十口ほど現存する安綱の作刀の中でも群を抜いた、いわば破格の造形。だからこそ作風や由来伝来に応じた名前「童子切安綱」が付けられたんだけど…。
うーん、そういうものには神が宿る。
僕には刀身から何か気が放たれているように感じるよ。実際、展示するときに鞘から抜いた瞬間、ビビッとくるからね。
「童子切安綱」や「大包平」など「名物 ○○」のような名前が付けられたものは、もう単なるモノではなくて、この世で一つの命を吹き込まれた存在とも言えるんじゃないかな。

なんだか、とーっても凄みを感じる刀に見えてきたほ。もっとトーハクファンのみんなに教えたいほ!

そうだね。またとない機会だから、僕もぜひみんなに見に来て欲しいんだほ。

良い作品は良い研究員を育てる。ついでに、トーハクくんに触れた研究員はトーハクくんのファンになる。佐藤研究員が熱くなるのもムリないほ。

国宝「太刀 伯耆安綱(名物 童子切安綱)」は、本館13室(刀剣)で2019年2月17日(日)まで展示してるから、年末年始にトーハクに遊びに来たときは、ぜひ見ていってほしいんだほー!


※東京国立博物館は、年末は2018年12月25日(火)まで、年始は2019年1月2日(水)から開館します。
 

カテゴリ:研究員のイチオシトーハクくん&ユリノキちゃん

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posted by トーハクくん at 2018年12月21日 (金)

 

カンシャ・カンシャー・カンシェストの3日間、トーハク感謝DAY2018

さて、早いもので今年も12月となり、クリスマスが目前に迫ってきました。
今年のご予定はお決まりですか?
突然ですが、昨年同様トーハクのクリスマスは「トーハク感謝DAY」となりました。

いや、そもそもトーハクとクリスマスに何の関係があるのだ、と
昨年も自らに問うた深淵なる命題がそこには横たわっているわけですが、そのあたりはさて置き、今年「も」クリスマス、トーハクは入館無料!
正確に言うと、年内最後の開館となる12月23日から25日の3日間は入館無料!
クリスマスムードに便乗しようなどという、よこしまな気持ちは一切ありません。
今年「も」たまたまクリスマスと被っただけです!

というわけで、トーハクが年内最後の開館となるこの3日間、すべての来館者の皆様に感謝を込めてお贈りする「トーハク感謝DAY 2018」。
昨年よりもちょっぴりパワーアップした各種催しを簡単にご紹介させていただきましょう。



まずは今年もやります、クリスマスコンサート
もちろん無料でお楽しみいただけます。館員一同の感謝の気持ちを音楽に託したものですが、まさにクリスマスシーズンぴったり。
出演は、ジュスカ・グランペール、園田亮さん、Kさんがなんと日替わりで館内各所を駆け巡ります。


ジュスカ・グランペール(ギター・高井博章さんとバイオリン・ひろせまことさんのアコースティックデュオ)


園田亮(ソノダオーケストラ、ピアニスト・キーボーディスト・作曲家・編曲家)


K(韓国・ソウル出身のJ-POPシンガーソングライター)

約30分という短い時間ですが、一流アーティストの無料コンサートを館内各所でお楽しみいただける贅沢な機会!
ダイワハウス工業の協力により、12月23日(日・祝)は法隆寺宝物館が燈火器によって幻想的な空間に変わります!
実施時間・場所などの詳細はウェブサイトでご確認ください。

25日までご覧いただける日中平和友好条約締結40周年記念 特別企画「中国近代絵画の巨匠 斉白石」へもぜひお立ち寄りください。
中国近代絵画の巨匠・斉白石(せいはくせき)の人と芸術を紹介する作品の数々が東京で見られるのも、残りわずかとなっております。

25日はトーハクくん、ユリノキちゃんも年内最後のごあいさつに登場予定。


登場はいずれも本館エントランス 11:30~、13:15~、14:45~(各30分程度)
 
ただいまお休みを頂戴している本館1階のミュージアムショップも、感謝DAYにあわせて現在急ピッチで改修を行っております!
展示を見終わって最後にお立ち寄りいただき、心に残った作品や楽しかった1日を思い出せるお手伝いを誠心誠意させていただきます。
 
また、普段は12:30~15:30の間だけ行っております託児サービスについても、トーハク感謝DAY2018の期間はご利用時間を10:00~13:00、14:00~17:00に拡大いたします。

そして、今年のトーハク感謝DAY2018最大のポイント、スタンプラリー「トーハク探偵:トーハクの秘密を探せ!」についてご紹介しましょう。

特別展を見終わった後、総合文化展をすべて見るには中々体力と時間が…という方、彫刻や刀剣などお好きなジャンル以外は何かきっかけがないと…いう方にとって、5つの建物にまたがる総合文化展の会場をすべて回るのはハードルが高いと思います。
(かく言う私も全ての展示室を制覇するには時間がかかりました…)

そんな皆様にとって改めてトーハクの魅力を感じていただこうと、全ての展示館をめぐるスタンプラリーを実施いたします。
各展示館のどこかに1つずつあるスタンプには、展示物以外でもこんなところにも注目してほしいと思ったポイントが描かれています。


デザイナーの樽見星爾さんとイラストレーターのたかはたまさおさんによる素敵なコラボです。

普段皆様が何気なくご覧になられている展示室や建物に隠された「トーハクの秘密」。
トーハク探偵たちと発見すれば、ちょっとドヤ顔でご家族やご友人に自慢できること間違いなし!

全てのスタンプを集められた方には各日先着1,000名様に来年の干支である「猪」を描いたポストカードをプレゼントいたします。


重要文化財「埴輪 猪」モチーフにした可愛いポストカード

いかがでしたでしょうか。
今年もトーハクは感謝の気持ちを込めて、皆様が素敵な思い出を残せる様、精一杯お手伝いをさせていただきます。
おひとりでも、カップルでも、ご家族でも、年の瀬とクリスマスをお楽しみいただけますよう、クリスマスイブイブ、クリスマスイブ、クリスマスの3日間、トーハク感謝DAY2018に皆様のご来場を心よりお待ちしております。

カテゴリ:news催し物

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posted by 岡部孝之(総務課) at 2018年12月19日 (水)

 

斉白石作品のたのしみかた

現在、東洋館第8室では、北京画院所蔵の斉白石(1864~1957)作品が展示されています。
この北京画院は、斉白石が最晩年に名誉院長を務めた美術アカデミーです。日本で、いわば「本場」の斉白石作品がまとまって見られる機会はなかなかありませんので、ぜひ足を運んでいただければと思います。

といっても、斉白石は現代日本ではさほど有名な画家ではなく、今回初めてその作品を見る、という方も多いのではないでしょうか。
そんな方々のために、本ブログでは、斉白石作品をどのようにたのしむかについて、「重なり」をキーワードにご紹介したいと思います。

1 ジャンルの「重なり」をたのしむ

斉白石は湖南省湘潭の貧しい農家の生まれで、はじめは家具に木彫をほどこす指物師として世に出、その後、画家、篆刻家、書家、と活躍分野を広げていきます。
それぞれの分野において、別の分野での経験が活かされており、作品の中にこれまでの芸術家としての経歴が複層的に「重なって」みえるのが白石の魅力の一つです。

例えば、白石の人物画には、指物師として立体物を作っていた経験をみることができるのではないでしょうか。

「清平福来図」に描かれるずんぐりむっくりした老人は、どこか漫画的でユーモラスですが、肩や腰回りは木彫りの人形のように丸味があり、しっかりとした量感を備えています。
簡略な筆致ながら、対象の立体感をおさえる、熟練した職人のまなざしが感じられます。


No.72 清平福来図
No.72 清平福来図 

また、よくいわれるのが、篆刻の彫り方と指物師の経験との関係です。

白石は篆刻において、線の片側のみから彫る単入刀法を多く用いています。
両側から彫ってなめらかな線を作る双入刀法と比べ、単入刀法の線はギザギザとしており、豪快で力強い印象を与えます。
このような彫り口は、指物師として刀に親しんでいた白石ならではの好みといえるでしょう。
本展には残念ながら白石の木彫作品は出陳されませんが、印面からその刀さばきを想像していただければと思います。


No.100 「中国長沙湘潭人也」白文方印
No.100 「中国長沙湘潭人也」白文方印 

篆刻の制作は、絵画の構図法にも影響を及ぼしたかもしれません。

白石の印の字配りは、疎密をわざと偏らせ、朱色と白色の対比を強調するところに特徴があります。
絵画においても、モチーフを片方に偏らせ、描き込みの多い部分と少ない部分を対比させる構図がしばしばみられますが、これは優れた篆刻家ならではの美意識といえるでしょう。


  
(左)No.98 「吾孤也」白文方印
(右)No.23 
葫蘆小鶏図 

また、中国伝統の考え方である「書画同源」が、白石の作品についても指摘できます。

画家として白石は、水分を多く含んだにじむ筆線と、乾いてかすれる筆線を交互に用いながら、ごつごつとした松の幹や枝の質感を表しています。
拡大してみれば、筆墨の抽象的な美しさを楽しむこともできるでしょう。

白石は同様に、書においても、時には演出過剰でないかと思えるほど、にじみとかすれを重ね、純粋に筆墨の美を追求したような作品を残しているのです。


  
(左)No.6 松図(部分)
(右)No.76 
篆書四言聯(部分)

2 個人的思い出の「重なり」をたのしむ

白石は、一般的な画題に自分の個人的思い出を「重ねて」、作品の伝えるメッセージをより味わい深いものにしていました。

例えば、蝦や蟹は、伝統的な吉祥モチーフとして知られています。
腰を自在に湾曲させる蝦は、物事が順調に進むことの寓意であり、蟹は甲羅の「甲」が、科挙の第1位合格者を示す「一甲一名」と通ずることから、立身出世の象徴でした。

白石の描く蝦や蟹の特徴は群れて重なり、時には画面からはみでるほど生き生きと動き回る姿で描かれる所にあります。
ここには、幼いころから農村で生きた蝦や蟹に親しんでいた、白石の思い出が投影されているとみることができます。


  
(左)No.49 蝦図(部分)
(右)No.55 
蟹図(部分)

さらに、蝦や蟹は白石にとっては、日々の生活を彩る食材でもありました。
「工虫画冊」では「独酌」と題して、ぽつんと置かれた酒杯と一緒に、脚のとれた茹で蟹を描いています。

酒菜としての蟹を、個人的感慨を込めて描くという行為は、明時代の文人画家・徐渭(1521~1593)に先例が見いだせます。
例えば当館所蔵の「花卉雑画図巻」は、酒を携えてやってきた知人のために、やや酔っぱらいながら一気呵成に仕上げたと、徐渭自ら記す作品です。
白石は徐渭に私淑しており、「工虫画冊」にみられる、輪郭線を用いず、色面のにじみだけで蟹を造形する手法は、徐渭の系統に連なるものです。


  
(左)No.37 工虫画冊(第2図)
(右)
花卉雑画図巻(部分) 徐渭筆 東京国立博物館蔵 
※本展には展示されていません


白石の工夫は、文人風の、草々とした筆致による蟹に、非常に精緻に写されたコオロギを組み合わせた点にあります。
この小さな虫のリアリティにより、「工虫画冊」にはまさに目の前の情景を写した、という実感が備わり、鑑賞者は斉白石をより身近に感じることができるのです。

白石作品は、蟹というモチーフについて、吉祥モチーフとしての伝統的意味、農村の思い出、徐渭を学んだ記憶、「今」の生活の一コマ、といった、意味の「重なり」合いを提供しています。
その複層的な味わいもまた、斉白石の魅力の一つといえるでしょう。



No.37 工虫画冊(第2図)(部分)

「中国近代絵画の巨匠 斉白石」展は、11月27日(火)より後期展示となり64作品が新たに展示されています。
前期をご覧になった方も是非、もう一度ご来場いただき、ご自分なりの「斉白石作品のたのしみかた」を見つけていただければ幸いです。

 

 

カテゴリ:研究員のイチオシ中国の絵画・書跡特別企画

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posted by 植松瑞希(出版企画室研究員) at 2018年12月11日 (火)