特別企画「韓国美術の玉手箱」その3 祈りの造形が伝える、高麗王妃の生きた証




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カテゴリ:特別企画
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posted by 玉城真紀子(海外展室研究員) at 2026年04月02日 (木)
特別企画「韓国美術の玉手箱」その2 高貴なる美意識の結晶、高麗青磁
現在開催中の日韓国交正常化60周年記念 特別企画「韓国美術の玉手箱―国立中央博物館の所蔵品を迎えて―」(4月5日まで開催中)は、大きく高麗時代と朝鮮時代の2つの章から構成されています。
今回は、工芸を担当する三笠より、第1章「高麗――美と信仰」でご覧いただける韓国国立中央博物館所蔵の金銀器と高麗青磁の魅力について紹介いたします。

第1章「高麗――美と信仰」展示風景
高麗時代(918~1392)は、中国の影響を受けながら、独自の仏教文化を開花させました。それに裏づけられたハイセンスな高麗の上流階級者たちを魅了したのが、金銀器と青磁のうつわです。高麗では仏教信仰を礎に金属工芸が大きく発展したといわれていますが、金属は後世に鋳直すことが多いため、伝世品はきわめて稀少です。
なかでも上質な金銀器は日本ではなかなか目にすることはできないと思います。今回、韓国国立中央博物館から高麗の王族や貴族たちが手にした、たいへん貴重な作品をお借りすることができました。花びらをかたどり、うつわの内外に細かな装飾を刻んだ皿や盃に、当時の人びとの洗練された暮らしの一端をみることができるでしょう。



カテゴリ:特別企画
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posted by 三笠景子(東洋室長) at 2026年03月31日 (火)
特別企画「韓国美術の玉手箱」その1 ソウルで感じた、日本美術への深き理解
2月10日(火)より当館本館で開催中の特別企画「日韓国交正常化60周年記念 韓国美術の玉手箱― 国立中央博物館の所蔵品をむかえて―」(4月5日まで開催中)では韓国国立中央博物館より日本初公開の作品15件を含む所蔵品17件をご出品いただき、当館所蔵作品とともに展示しています。
韓国の歴史と文化をお伝えする本展に先立ち、日韓国交正常化から60年をむかえた昨年2025年には韓国国立中央博物館の常設展示ホール3階306号室において、「日本美術のとびらー四つのまなざし」(以下、「日本美術のとびら」)が6月17日(火)~8月10日(日)まで開催されました。
注)「日本美術のとびら」はすでに展示が終了しています

韓国国立中央博物館 外観
韓国国立中央博物館は、ソウル特別市の中央部、漢江北岸の龍山(ヨンサン)区龍山公園の最南端に位置する、世界でも有数の規模を誇る博物館です。
当館とは長年にわたり、両国の歴史と文化への理解を深めるために緊密な交流をしています。
「日本美術のとびら」では、韓国の皆様に日本美術に親しんでいただくことを目的として、当館と韓国国立中央博物館がそれぞれの所蔵品の中から厳選した合計62件の作品を展示しました。
当館からは重要文化財「小袖 白綾地秋草模様(冬木小袖)」をはじめとする名品、「武蔵野図屛風」などの日本の情景を伝える絵画作品、重要文化財「一重口水指 銘 柴庵」といった独自の美意識を示す茶道具、また重要文化財「能面 曲見」などの伝統芸能に息づく造形美を表す作品など40件を出品しました。
韓国国立中央博物館 特別展「日本美術のとびらー四つのまなざし」展示会場入り口(現在は展示が終了しています)
展示は韓国国立中央博物館のチームが主となり、日本美術に内在する本質的な特徴と美意識を感じ取っていただくことを意図して、4つの視点から日本美術を眺める構成がとられました。
前半2章で装飾性と非装飾性という外形的な2つの視点、後半2章では内面的・情緒的な視点と大きく2つの視点から日本美術を眺め、更にそれぞれの視点の中で対照的な2つの視点に分ける4章構成で企画されます。
「日本美術のとびら」第1章「飾りの情熱」展示風景
「日本美術のとびら」第2章「抑制の追求」展示風景
まず第1章は「飾りの情熱」として、美に対する理想を色や形をもって象徴的に表現しようとする装飾性の視点から、縄文時代の土器からはじまり有田焼、鍋島焼の色絵陶磁器、料紙が美しい近世の書作品、華やかな彩色と形態が目を引く屏風絵などが展示され、つづく第2章では「抑制の追求」として、物の本質を追求するために装飾をそぎ落とし必要最小限まで絞りこんでいく非装飾性の視点から、井戸茶碗や黒楽茶碗といった茶道に関する作品が展示されました。
「日本美術のとびら」第3章「はかなさの美」展示風景
「日本美術のとびら」第4章「遊びの美学」展示風景
第3章は「はかなさの美」として、自然の繊細な移ろいに対する感動を表す「あわれ」の視点から、秋草などの植物をモチーフにした作品や、能面、能衣装が展示され、第4章では「遊びの美学」として、愉快で機知に富んだ美的感覚を表す「あそび」の視点から、狂言面、浮世絵などが展示されました。
どの章においても、テーマ設定の仕方と作品の選定、展示空間の設計や演出手法において、日本美術への深い理解と敬意が感じられるとても素晴らしいものでした。現地でも非常に良い展覧会として好評を博したと伺っています。
さらに、同展覧会で私が特に感心したのは、展覧会のポスターデザインです。
全体としては、白地に金で桔梗や女郎花、ススキ、菊といった秋草をポスターのほぼ全面に大きくあしらい、その草むらの中に見え隠れしながら、黒の細い直線と、漆工品の蒔絵をイメージしたであろう黒と金の配色で〇や△、▢にデザイン化されたハングル特有の文字の構成要素によって表された「日本美術」の文字がリズミカルに配された瀟洒でスタイリッシュなデザインとなっています。



カテゴリ:特別企画
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posted by 沖松健次郎(列品管理課長) at 2026年03月23日 (月)

本館11室の展示風景(入口付近)
本館11室では特別企画「大安寺の仏像」が開催中です。
奈良・大安寺は日本で最初の国立寺院です。飛鳥時代の藤原京に壮大な伽藍を構えた大官大寺(だいかんだいじ)を前身とし、奈良時代の平城京移転後には、インド、ベトナム、中国などから来日した僧侶や、中国へ留学して帰国した日本人僧侶が住む国際色豊かな環境で、仏教研究の拠点として営まれました。まさに日本仏教の源流ともいうべき歴史ある寺院です。
本展では8体の仏像を展示していますが、そのうちの7体はいずれも一木造(いちぼくづくり)で、中国から日本へ正式な戒律を伝えに来た僧・鑑真が住んだ唐招提寺と並び、奈良時代の数少ない貴重な木彫群です。

突然ですが、こちらは何の写真かお分かりになりますか。冒頭の展示風景の手前のケース内に展示されている像の胸の拡大写真です。この装飾豊かな浮き彫りは日本に類例がなく、中国・唐時代の像に見られ、大安寺の木彫群にも随所にほどこされています。

重要文化財 楊柳観音菩薩立像(ようりゅうかんのんぼさつりゅうぞう) 奈良時代・8世紀 奈良・大安寺蔵
このブログでは大安寺の木彫群の代表作である楊柳観音菩薩立像を例に、大安寺の仏像の特色をお伝えします。

目尻を吊り上げ、口を開いた厳しい表情の楊柳観音菩薩立像
慈悲の仏である菩薩でこんなに厳しい表情は珍しいですが、このような厳しい表情の仏は、仏教の一つである密教の仏であることが多いです。
平安時代に体系的な密教がもたらされる以前の奈良時代には、呪術的な要素の色濃い密教が中国から断片的にもたらされていました。国際色豊かな環境であった大安寺は、そうした新しい情報をいち早く取り入れることができたようです。
というのも、楊柳観音像の厳しい表情から、この像が密教の存在を背景に造られた像であることを物語っているからです。


全体の姿をご覧ください。
バランスよく整ったプロポーションが目をひきます。胸や下半身のほど良い張り、腰のわずかなくびれなどが美しさを際立たせています。正面だけでなく、360度どこから見ても崩れのない優れた造形感覚がうかがえます。とくに斜めから見たときのポーズが様(さま)になるのは、体の幅や厚みのボリューム感が適切に表現されているためです。

顔に注目してみると、口を開ける動きに連動して頬が張り、こめかみの筋肉が盛り上がっていることがわかります。実際の人間と同じように表情筋にまで意識がおよんでいる点に驚かされます。本像が厳しい表情なのにどこか品の良さを感じるのは、こういった筋肉の繊細な表現からかもしれません。
このように、身体のバランスや筋肉の動きを意識した表現は、奈良時代の仏像の特徴です。

楊柳観音菩薩立像の胸の飾り 拡大写真
次に、胸の飾りや腹の帯に注目してみましょう。
どちらも体と同じ木から彫り出しています。同じ木から彫り出すということはやり直しがきかない作業ですから、緊張感のあるなか高い技術によって刻まれたことでしょう。胸の飾りの花や珠のかたちが繊細に彫り出されています。

ミリメートル単位で密に刻まれた格子状の文様
日本には他に例がありません
腹の帯には斜めの格子(こうし)状の文様が密に刻まれています。線を一本一本丁寧に刻んだであろう様子がうかがえます。
またお腹のあたりに帯を結ぶ形式は非常に珍しく、中国・唐時代の形式を取り入れたものとみられます。先ほど述べました通り、奈良時代の大安寺には中国から来日した僧侶や、中国へ留学した日本人僧侶が多く住んでいたため、大陸から最新の仏教文化が伝わっていたのでしょう。
また唐招提寺に住んだ鑑真の一行のなかには、鏤刻(るこく。金属や木に文字・絵などを彫り刻むこと)の工人がいました。本像にみられる緻密な彫りの背景には、彼ら工人がもたらした鏤刻の技術があるのかもしれません。

本館11室の展示風景(出口付近)
楊柳観音菩薩立像をはじめとする大安寺の仏像では、身体表現を意識した奈良時代彫刻の伝統と、大陸からの新しい形式が融合しています。
大安寺の仏像が醸し出す奈良時代の息吹をぜひご堪能ください。
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posted by 増田政史 at 2023年02月17日 (金)
特別展室の三笠です。
今春開催予定の沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」を担当しているメンバーのひとりとして、この特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」の展示のお手伝いをさせていただきました。

昨年秋、この「手わざ」展は九州国立博物館で先行して開催されました。最終日の12月12日(日)に開かれた講演会で、那覇市歴史博物館の学芸員山田葉子さんがこんな話をされていました。
――この復元事業は琉球王国の文化を未来へつなぐためにとても大切。それと同時に、修復の技術も育てなければならない。復元と修復は、両輪で進められるべきである。――
思わず膝を何回も打ちたくなるほど、納得のお話でした。
かつて私は保存修復課に在籍していました。
保存修復課の研究員の仕事は、日々作品を点検、そしてメンテナンスが必要な作品があれば修復のためのカルテを作成し、修復の工程を考えます。じっさいに修復の現場では、時には研究員や修復家の皆さんと侃侃諤諤意見を交わしながら、博物館の収蔵品をいかに安全に、正しく未来へ伝えていくかという難しい問題と向き合います。
作品に一番近い緊張感のある部署であり、修復の材料、道具ひとつで作品の運命を決まるというような責任重大の場面もあります。それでも研究員や修復家の方がたと同じ目標のもとに仕事ができることは、非常にやりがいのあることです。博物館に着任したばかりの駆け出しの私にとって、とても大事な時間であったと思います。
特別展「琉球」出品作品の中にも、修復を経た当館所蔵作品があります。

神扇(かみおうぎ)
第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵
特別展「琉球」にて5月3日(火・祝)~5月29日(日)で展示
(注)特別企画「手わざ -琉球王国の文化-」では展示していません。
祭祀を司るノロ(女性の神官)が用いた扇で、奄美大島大和村の大和家に伝わったものです。長さ65センチ、広げると幅1メートルにもなり、とても迫力があります。本作品は劣化が進み、取り扱いが困難な状態でしたが、当館の保存修復事業(平成18年度 修理者鈴木晴彦氏・本多聡氏)によって解体修理を行い、無事に展示公開ができるようになりました。

鹿児島県の奄美大島にある宇検村生涯学習センター「元気の出る館」にて。
類例の神扇の調査をしているのは、佐々木利和先生(当館名誉館員)と当時保存修復室長であった高橋裕次氏(現大倉集古館)です。
修復に携わった鈴木さんからは、充填剤に使用されたパテを調べるため、海岸の砂浜を調べたり、骨の材料であった竹の生育を調べたり、また修理に使用した芭蕉糸について染織家を訪ねたり・・・と、とても大変で、そして思い出深い修理であったという話をうかがいました。
今回、特別展「琉球」の準備のために、沖縄に足を運ぶなかで「手わざ」、復元された作品を拝見したり、この事業に携わった沖縄県立博物館・美術館の学芸の皆さんとお話させていただいたりするなかで、ゼロからの復元がいかに過酷な作業か、そして文化財が失われることがいかに恐ろしいことか、痛感するばかりでした。
それと同時に、復元によって明らかになるかつての素晴らしい技術や丁寧な仕事の様子は、作品を修復するとき、解体して初めて具体的な材質や工程がわかるときの感動にも似ていました。さまざまな分野で修復、復元の技術が「両輪」で高まり、専門家の皆さんと我われ研究員も一緒に知恵を出し合って行けば、先人の技を未来へ繋いでいくことができるはずです。

「手わざ」展会場の「製作者の声」パネルには、復元事業の作業風景の画像や携わった方のメッセージが掲載されています。文化財を守り伝えていくことへの想いが伝わってきます。
5月3日(火・祝)~6月26日(日)で平成館特別展示室にて開催予定の特別展「琉球」、最終章は「未来へ」というテーマで復元事業をあらためて紹介する予定です。

朱漆巴紋沈金御供飯(しゅうるしともえもんちんきんうくふぁん)
平成30年度(原資料:17~18世紀) 沖縄県立博物館・美術館蔵
展示期間:2月22日(火)~3月13日(日)
特別展「琉球」でも5月3日(火・祝)~5月29日(日)で展示します。
私は復元作品を知ることで琉球王国の遺産である作品たちがより身近に、そしてどの作品もとても大切なものに思えるようになりました。この「手わざ」展、そして特別展「琉球」、ともに多くの方にご覧いただきたいと思います。
また、3月23日(水)~4月17日(日)で平成館企画展示室にて、特集「東京国立博物館コレクションの保存と修理」を開催します。
こちらもぜひ。
カテゴリ:特別企画
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posted by 三笠景子(特別展室主任研究員) at 2022年02月28日 (月)