過去の、未来の、名もなき「守り手」たちに、ありがとう
絵画・彫刻室で日本絵画の担当をしております金井と申します。
いわゆる学芸員(当館では研究員と呼びます)として、
東京国立博物館が収蔵している日本絵画作品全般の
展示や保存、研究、普及活動などの業務に携わっています。
毎年秋に展示する国宝「観楓図」の前で。
国宝 観楓図屏風 狩野秀頼筆 室町~安土桃山時代・16世紀
(2013年11月12日(火)~12月8日(日)本館2室 国宝室にて展示予定)
作品たちと向かいあっていると、ふと、
歴代の「名もなき守り手」たちの存在を感じることがあります。
私たちが普段扱っている日本絵画の作品たちはとても繊細です。
例えるなら、ちょっとしたことで風邪をひき、
事故に遭ってしまう幼い子どものようです。
けれど、多くの人の心を惹きつけ、魅了するという、
素晴らしい魅力とたくさんの可能性を秘めています。
そしてきちんと見守っていれば、
私たち人間よりもずっと長生きをしてくれるのです。
江戸時代以前に制作された作品のほとんどは、
その伝来が正確には明らかになっていません。
つまり記録にない「名もなき守り手」たちによって
愛され、慈しまれ、守られてきた結果、
何十年、何百年という時間を旅して今目の前にあるのです。
守り手とは、なにも持ち主や学芸員だけを指す言葉ではありません。
作品を愛するすべての人たちが、何らかの形で「守り手」になり得るのです。
作品からみれば、私たちが関われる時間はほんの少しのことでしょう。
でもいつか、この世から自分がいなくなり、忘れ去られたとしても、
自分がかかわり愛した作品たちが次の守り手たちによって永らえ、
100年後、1000年後の人々に感動を与えてくれるのならば、
こんなに嬉しく幸せなことはありません。
これまで作品を伝えてくれたたくさんの守り手たち、
そしてこれから先、
守り手になってくださるであろうすべての方々に、
心からの「ありがとう」の気持ちをお伝えしたいです。
カテゴリ:2012年12月
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posted by 金井裕子(絵画・彫刻室) at 2012年12月24日 (月)