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140周年ありがとうブログ

機会をくれて、ありがとう!

保存修復課環境保存室の荒木臣紀(あらきとみのり)と申します。
この11月で奉職4年になります。
所属します保存修復課では所蔵文化財の保存を 
(1)予防
(2)点検調査診断
(3)修理
という三つ柱を循環するシステムで文化財を守っており、
私の仕事は主に(1)予防と(2)点検調査診断を仲間と共に担っています。
詳しくは以下のホームページをご覧ください。

東京国立博物館 文化財を守る―保存と修理―
科学研究費補助金 成果報告|東京国立博物館

私はトーハクという家からみると “ 出戻り ” なのです。
1999年から非常勤事務補佐員として現在の保存修復課の前身にあたる部署で働きはじめました。
1999年当時の私はアメリカで写真を中心とした文化財の保存と修理の勉強をして帰国したところで、保存の一役を担う修理について、世界でも指折りの日本の保存修理技術を1日でも若いうちに体に叩き込みたいと考えていました。
そこで、トーハクを1年で辞め、京都にある伝統的な文化財修理技術を持つ工房に就職し、修理技術者として修行の日々を送りました。


ポートレイト 撮影・マーク・オスターマン 感材製作と現像・荒木臣紀 アンブロタイプ 1999年 個人蔵 

修理をする作品には調査の段階から親しみが沸き、作品への理解が深まるにつれてその思いは育まれ大きくなります。
(現場では“作品とお友達になる”と言われています)
修理中は常に作品と会話し、弱った作品を労わりながら修理を行います。
その為、修理後にも担当作品の事をふと思い出すのですが、修理後に修理技術者が作品と関わることは殆どありません。

しかし、4年前までお客様だったトーハクへ転職した ( 出戻った ) 私は、所蔵品を取り巻く様々な環境を整え、
劣化を予防する仕事に転身し、前職で修理した作品達を継続してケアすることができるのです(上記(3)修理 ⇒ (1)予防)。

もちろん、トーハクには公称約11万件の作品があるので、修理した作品だけに関わっているわけではありません。
しかし、約11万件の中のいくつかの作品を自らの手で調査記録し、修理を行い、保存と展示を行いながら作品を未来へつなげる仕事の機会を与えられた私は、これまでの修理技術者が味わったことのない経験をさせてもらっており幸せものです。

これは場としてのトーハクが存続しているから可能になったことで、
このような機会を与えてくれている場、トーハクに「機会をくれて」ありがとうと言いたいです。

将来、私のような変わった転身をする人間が現れた際、再び幸せを提供できる場として、懐の深いトーハクが繁栄、存在し続けてくれることを祈ります。


夢殿 安田靫彦筆 絹本着色 掛軸装 大正時代(展示の予定はありません)
私が勝手にお友達になった作品の一つ。

カテゴリ:2012年11月

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posted by 荒木臣紀(保存修復課環境保存室) at 2012年11月10日 (土)