このページの本文へ移動

140周年ありがとうブログ

静けさにありがとう

東京国立博物館には音がほとんどありません。
もちろん音楽もありません。
お客様の多い休日の本館でも、皆様とても穏やかに観覧されていますし、法隆寺宝物館ではかすかに「こつっ」と靴の音がするほかは、空気もひんやりとして、それは静かです。
その音のなさ、ある種の密やかさが、どこへ行っても音があふれ、音楽が鳴っている都会のなかではとても好ましく感じられます。
いえ、平成館2階の盛況な特別展会場では、お客様の熱気が「ざわっ」と聞こえることはあります。
しかし、そんな日も、その熱気を帯びた会場のすぐ下、平成館1階の考古展示室は、2階の混雑ぶりからは考えられないくらい人もまばら、どこまでも「しん」としています。

でも、そんなに静かな考古展示室で、ある日、かすかに音が、より正確に言えば音楽が聞こえてきたことがありました。


左から、
埴輪 太鼓を叩く男子 群馬県伊勢崎市境上武士出土 古墳時代・6世紀
埴輪 楽器を鳴らす女子 群馬県伊勢崎市下触出土 古墳時代・6世紀
埴輪 琴を弾く男子 栃木県真岡市 鶏塚古墳出土 古墳時代・6世紀 大塚尚平氏寄贈
埴輪 鼓を打つ人物 群馬県伊勢崎市境上武士出土 古墳時代・6世紀
(全て展示予定は未定)

耳をすますと確かに聞こえてくる、琴の音、太鼓の響き、打楽器を打ち鳴らしながらの歌声。
そう、埴輪たちの演奏が静けさの中からふわっと浮かび上がってくるように、聞こえたのです。


左から、
重要文化財 埴輪 腰かける巫女 群馬県邑楽郡大泉町大字古海出土 古墳時代・6世紀 (~2012年6月10日展示)
埴輪 踊る人々 埼玉県熊谷市野原字宮脇 野原古墳出土 古墳時代・6世紀 (通年展示)
埴輪の中で耳を傾ける筆者

気づくと、音楽に聴きほれている埴輪や、小躍りしている埴輪までいるではありませんか。

社会も生活も今とはなにもかも異なっていた遠い昔。
でもやっぱり人びとは、今と同じように歌をうたい、楽器を奏で、音楽を楽しんでいたのだ、
と思い、少しだけほっとしました。

はるかな音楽、遠い歌声。それを聞かせてくれた博物館の静けさにありがとう。

カテゴリ:2012年4月

| 記事URL |

posted by 小澤靖(経理課) at 2012年04月15日 (日)