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1089ブログ

日本書紀と七支刀

特別展「出雲と大和」は、3月8日(日)までの会期を予定しておりましたが、このたび政府の要請により、新型コロナウイルス感染防止のため、2020年2月26日(水)をもって閉幕いたしました。
本展は閉幕いたしましたが、事前に予定しておりました1089ブログをお楽しみください。
 
前売券の払い戻し方法は、公式サイトツイッター等でお知らせしております。また展覧会カタログは、2020年3月30日(月)まで、東京国立博物館ミュージアムショップのWEBサイトにてお買い求めいただけます。


特別展「出雲と大和」で展示している国宝の七支刀(しちしとう)についてご紹介します。
七支刀は、奈良県天理市に所在する石上神宮(いそのかみじんぐう)に伝わるご神宝です。


石上神宮の境内。天気が良い日には鶏とふれあうことができます

一見して、左右に互い違いに3本ずつの枝状の刃が付くという珍しい形の刀剣だと思われるでしょう。
最近は漫画やゲームで似た形状の武器が登場することがあるようですが、現実にはこのような形の刀剣は世界で1振りだけ、唯一無二の宝剣です。

さらに表裏には、金で象嵌された61もの文字が。
ただし金線の抜けが多く、判読が困難な文字が少なくありません。
文章の内容については文字が違えば変わってしまうため、これまで多くの説が唱えられてきました。
諸説ありますが、この宝剣が作られた年紀と経緯、刀のもつ力が記されていると考えられています。
朝鮮半島にあった百済の王から当時の倭国王へ贈られたものであるようです。
冒頭の年記は369年が有力視されています。


国宝 七支刀
古墳時代・4世紀 奈良・石上神宮蔵
七支刀は保護のため、横向きで展示しています


なお今回、特別展「出雲と大和」は日本書紀成立1300年を記念して開催されている展覧会ですが、この日本書紀の中にも、百済から贈られた「七枝刀(ななつさやのたち)」についての記載があります。
これが石上神宮の七支刀に当たるのでは・・・という意見も、明治時代に銘文の存在が確認されて以来提唱されてきました。
「七枝刀」の記載があるのは神功(じんぐう)皇后の52年の条項です。
神功皇后は第14代仲哀(ちゅうあい)天皇の皇后で、仲哀天皇の崩御後に政務を執ったとされます。
素直に日本書紀の年数を遡っていけば西暦252年。ここで読者の皆さんは、なんだ369年とは合わないじゃないか、と思われますね。



七支刀(表面)の冒頭に刻まれた「泰(和)四年」の銘文。東晋の太和四年とみる説が有力です

じつは日本書紀は編纂にあたり、様々な文献が引用されています。
神功皇后についての記載では魏志倭人伝が3回ほど引用されています。
つまり、日本書紀の編者たちは神功皇后の記事をまとめるにあたって邪馬台国の女王・卑弥呼を意識していたようなのです。
神功皇后と関係する事件を魏志倭人伝に記載された卑弥呼の活躍期(3世紀)に引き寄せた・・・とする説もあります。
百済王が即位した年も実際よりも古く記載されているとも言われるなど、内容を吟味すると日本書紀の記載をすべてそのままには受け取ることはできません。
しかし、百済王から当時の倭王に贈られたものであることなど、七支刀の銘文と日本書紀の記載に共通点が多い点は取り上げてよいでしょう。
このように七支刀は、古代の日本をめぐる国際関係を探るうえで一級の史料なのです。

ちなみに、文字が象嵌された古墳時代の刀剣としては七支刀を含め8振りほどが知られています。
このうち、特別展「出雲と大和」では「額田部臣(ぬかたべのおみ)」銘で有名な島根県の岡田山1号墳の円頭大刀が、平成館1階の考古展示室では熊本県江田船山古墳と奈良県東大寺山古墳の鉄製大刀が展示されており、なんと平成館で一度に4振りがそろう貴重な機会となりました。


重要文化財 銀象嵌円頭大刀(ぎんぞうがんえんとうたち)
古墳時代・6世紀 島根県松江市岡田山1号墳出土 島根・六所神社蔵(島根県立古代出雲歴史博物館寄託)


「額田卩(部)臣」の銘文が見えます


国宝 銀象嵌銘大刀(ぎんぞうがんめいたち)
古墳時代・5~6世紀 熊本県和水町江田船山古墳出土
※平成館考古展示室にて通期で展示


刀の峰には銘文が、刃関(はまち)には魚と鳥、馬などが銀で象嵌されています



国宝 金錯銘花形飾環頭大刀(きんさくめいはながたかざりかんとうたち)    
古墳時代・4世紀(刀身:中国製・2世紀)    奈良県天理市東大寺山古墳出土
※平成館考古展示室にて通期で展示


刀の峰に金象嵌で文字が刻まれています

また石上神宮には七支刀のほかにも多くのご神宝があり、このうち今回は「日の御盾」とも称される鉄製の盾を2個展示しています。
こちらも、2個のうち1個はふだん東博でお預かりし常設展示させていただいておりますので、2個そろうのは珍しい機会です。
   

七支刀の後ろに2面の鉄盾が控えます

日本のはじまりにまつわる数多くの貴重な文化財が残されている島根県と奈良県。
ぜひ足をお運びください!

日本書紀成立1300年 特別展「出雲と大和」

平成館 特別展示室
2020年1月15日(水) ~ 2020年3月8日(日)2020年2月26日(水)

特別展「出雲と大和」は、3月8日(日)までの会期を予定しておりましたが、このたび政府の要請により、新型コロナウイルス感染防止のため、2020年2月26日(水)をもって閉幕いたしました。

前売券の払い戻し方法は、公式サイトツイッター等でお知らせしております。 また展覧会カタログは、
2020年3月30日(月)まで、東京国立博物館ミュージアムショップのWEBサイトにてお買い求めいただけます。

 

カテゴリ:2019年度の特別展

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posted by 山本亮(特別展室研究員) at 2020年03月06日 (金)