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「3.11大津波と文化財の再生」見どころ・聴きどころ

特別展「3.11大津波と文化財の再生」には「見どころ」だけではなく「聴きどころ」があります。

大津波によって奇跡的に残った高田松原の一本松の写真を背景に、本館大階段の踊り場に一台の古風なオルガンが展示されています。
陸前高田市立博物館が所蔵するこのオルガンは、東日本大震災当日は博物館の2階収蔵庫に保管されていました。
津波により収蔵庫扉はなくなりましたが、庫内への瓦礫の流入は思ったほど多くはなく、美術品、国登録有形民俗資料の漁撈用具やその他の民具、大量のマンガ、新聞などの紙資料、高田歌舞伎関連資料などとともに庫内で渾然一体といった状況から救出されました。


修理前のリードオルガン
オルガンが保管されていた収蔵庫は津波によりぐちゃぐちゃの状態でした


このオルガンは、岩手県陸前高田市における幼児教育の先駆者である村上斐(あや)氏が購入・使用していたものです。
村上氏は明治20年、現在の陸前高田市気仙町に生まれ、同39年から現在の陸前高田市域に所在した3つの小学校での勤務を経て、昭和6年に退職。同年私財を投じて私立高田幼稚園を開園します。戦後昭和23年には福祉施設「私立高田保育園」として再スタートし、同33年に市へ移管された後も初代園長に就任。没後半世紀を経た現在も斐先生と敬愛される、陸前高田市の幼児教育の母ともいえる方です。
オルガンは平成16年にご子息より博物館に寄贈されました。

幼児教育で活躍したこのオルガンは、三省堂機械標本部が明治末年からの限られた期間、海保オルガン社に委託して製造・販売していたリード(吸気式)オルガンです。日本リードオルガン協会によれば、このオルガンは海保オルガンのなかでも7個のストップ(特定のパイプへの送風を閉塞することで音色を選択する機構)を有するものとして現存する唯一の実物資料であるとされています。


リードオルガン
三省堂機械標本部製造 明治~大正時代・20世紀
岩手・陸前高田市立博物館蔵



救出後、リードオルガン協会の支援のもと、和久井工房(長野県)において修復が行われ、再生を遂げました。解体した後、全ての部品を点検しながらドライクリーニング法で汚れを取り除き、リードなど金属部分に発生した錆は丁寧に除去しました。過去に行われた修理痕はできる限り尊重して温存し、新たな部品の取り替えを必要最小限に留め、文化財としての修理を行いました。あわせて往時の音の再生を図りました。


1月31日はピアニストで作曲家の中村由利子さんによる演奏です。
どうぞお楽しみに!


展覧会の会期中、1月31日(土)2月21日(土)3月14日(土)にはこのリードオルガンの演奏会を行います。
初回1月31日(明日です!)はピアニストで作曲家の中村由利子さんがオリジナル曲の「天に響け」や「アメイジング・グレイス」などを演奏します。
どんな音が響くか、どうぞご期待ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2014年度の特別展

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posted by 神庭信幸(保存修復課長) at 2015年01月30日 (金)