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博物館は寄贈品でできている─その1

現在、11万件以上のコレクションを擁する東京国立博物館ですが、このコレクションももちろん一朝一夕で成り立ったものではありません。明治5年(1872)に博物館が歩みだした頃には、実は何もなかったと言ってよい状態でした。そもそも「博物館とは何だろう」ということを知っていた人は、当事者である博物館職員の他、日本にはまだ数えるほどしかいませんでした。ですから、博物館の最初のコレクションは、まず館員が資料を館に寄贈するところから始まったのです。

創設時の館長である町田久成(1838-1897)の寄贈になる館蔵品は100件以上にのぼります。町田は薩摩藩の高級武家の出身であるためか、寄贈品の中には甲冑や馬具、装束の他に薩摩琵琶などが含まれています。また幕末に英国留学の経験があり、当館の図書のなかには、そこで入手したらしい「町田久成献納」の印がある洋書も見られます。重要文化財の指定を受けている中世の百科事典『塵袋』も町田の寄贈です。

重要文化財 塵袋 印融写 室町時代・永正5年(1508) 町田久成氏寄贈
重要文化財 塵袋(部分) 印融写 室町時代・永正5年(1508) 町田久成氏寄贈
東京国立博物館140周年特集陳列「資料館における情報の歴史」(本館16室、2013年1月8日(火) ~ 3月3日(日))にて展示予定


町田と二人三脚で博物館を作った田中芳男(1838-1916)は、本草学者として幕府に出仕し、フランスに留学しました。田中の寄贈品リストも150件以上になり、国内外の貨幣、考古遺物、民俗的な資料などが含まれます。今回の特別公開では中国陶磁の優品「青花魚藻文壺」を展示します。
博物館初期の功労者の一人である蜷川式胤(1835-1882)からの寄贈も多く見られます。蜷川は京都の出身で故実に通じ、自らも古物の収集を手がけていましたので、博物館創設時から自分の収集品を館に献納していました。
館蔵品を確認していると時々古い札がついており、そこに明治5年に蜷川が献納した旨を自分で書いている場合があります。そんな時に私は、博物館という誰も知らない仕組みを作る仕事に身を投じた当時の職員たちのことに思いをはせ、少し襟を正します。

折形免許目録 江戸時代・18世紀 蜷川式胤氏寄贈
「壬申(明治5年)冬 蜷川式胤」の書き入れと蜷川の印のある札(右拡大部分)
折形免許目録 江戸時代・18世紀 蜷川式胤氏寄贈(展示未定)


博物館という存在とその仕事が次第に見えてくると、資料や作品を寄贈して社会的に役立ててほしいという考え方に基づいて、寄贈を申し出る人が増えてきます。それによって博物館のコレクションは豊かになってゆきます。次回(その2)はその時代のことについてご紹介します。



関連展示
東京国立博物館140周年特集陳列「秋の特別公開 贈られた名品」(本館特別1・2室、2012年9月15日(土)~9月30日(日) )では、数多くの寄贈品の中から国宝・重要文化財の指定を受けた優品を選りすぐって公開します。ぜひご覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ秋の特別公開

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posted by 田良島哲(調査研究課長) at 2012年09月10日 (月)