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1089ブログ

8月5日(日)はトーハクキッズデー!

幼稚園や学校は夏休み。
絵をかいたり、何かを作ったりするのが大好きな子どもたち。
不思議なものや歴史に興味津々の子どもたち。
まだ博物館デビュー前の子どもたち。

子どもたちみんなのために、今年もトーハクキッズデーを開催します!

トーハクキッズデー チラシ


トーハクには、たからものがいっぱい。
どれも昔の人が、つくったり、つかったりしたものです。
地面の中から発掘されたもの、あの歴史上の人物がつかっていたもの。
何につかうのか想像もつかないようなもの。なんだかとっても立派で豪華なもの。
こんなたからものを、みんなで一緒に楽しむのがキッズデー。

「これは何?」「いったいどこをみればいいの?」
ギャラリートークでは、みんなにたからもののことをお話しします。

トーハクキッズデー ギャラリートーク
去年のキッズデーのギャラリートーク
仏像のポーズにこめられたメッセージとは?



子どもたちが大好きな絵本。
たとえば「ぶんぶく茶釜」。かわいいたぬきが化けた「茶釜」ってみたことありますか?
トーハクでみることができますよ!
絵本に関連する作品の前で行う、トーハクならではの読み聞かせは新企画。

美術や歴史も楽しいけれど、音楽も楽しい!
楽器についても知ることができる、子どものためのコンサートです。

トーハクキッズデー コンサート
日本の楽器のコンサート
和太鼓の体験コーナーも大人気!



大人気勾玉つくり(当日先着順。詳細はこちら)、トーハクの名品をデザインした、団扇型のオリジナルぬりえや、アプリをつかった見学など、キッズ向けイベントが盛りだくさん。

トーハクキッズデー ぬりえ
ぬり絵はみんな大好き!
豪華な100色色鉛筆で集中して塗っています


最後に、お父さん、お母さん。保護者の皆さん。
子どもがぐずったら・・・と思うと、不安になってしまうかもしれません。
どこでご飯を食べよう、授乳はできるのかしら。いろんな心配をしますよね。
でも、キッズデーは子どものためのとくべつな一日。
キッズコーナーもあります。離乳食やミルクのためのレンジ、お湯と飲食可能スペース、授乳スペース、キッズマットの上で遊べるスペースもご用意しました。
大丈夫です。ぜひ来てください。

NHK Eテレ「びじゅチューン!」で歌になったトーハク所蔵作品の複製や映像を使った体験型展示「親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」も開催中!
キーワードは「なりきり」。絵の中の人物や、絵を描いた人になりきってびじゅつの中で遊ぼう!

お友達や家族でお出かけした博物館ってすてきなところ。
大人の方にも、子どもたちにも、そう思ってもらえたらうれしいです。
では、8月5日(日)、トーハクでお待ちしています!

 

カテゴリ:教育普及催し物

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posted by 川岸瀬里(教育普及室) at 2018年07月31日 (火)

 

【縄文】視野をひろげて縄文土器の魅力にやっと気づいた男の話

これまで僕は、縄文時代とは縁遠い人生を歩んできました。
兵庫県尼崎市の工業地帯に生まれ、はじめての遺跡訪問は弥生時代の田能(たの)遺跡。
大学に入ってからは古墳時代の横穴式石室に夢中になり、その関係で朝鮮半島そして中国の同時代の資料を研究するようになって、今では魏晋南北朝時代およびそれ以降の時代を主たる研究領域にしています。
そんな僕ですから、縄文時代とはなかなかご縁がなく、その魅力を考えることもありませんでした。

今回の特別展「縄文―1万年の美の鼓動」は、日本列島の各地から選りすぐった優品がずらりと並ぶ、空前の大縄文展。
会場を進むほどに、次から次へと縄文時代の卓越した造形美があらわれ、いやが応にも胸が高鳴ります。
縄文は縁遠いなんて言っていたことなどすっかり忘れ、頭の中はもう縄文でいっぱいです。

ズラリと縄文土器が並ぶ「第2章 美のうねり」、胸の高鳴りは最高潮に!

そうこうしながら足を踏み入れた「第3章 美の競演」は、これまでとは異なる世界がひろがっています。


「第3章 美の競演」の展示風景。
中央に縄文土器、両側に世界各地の土器を展示しています


それもそのはず。ここには、縄文時代と同じころに作られた、世界各地の土器がずらりと並んでいるのです。
縄文土器を世界のなかで相対化しようという壮大な試み。
それが「第3章 美の競演」なのです。

今回、この第3章の展示に携わりながら、そして会場内を行きつ戻りつしながら、僕は縄文土器の特質についてつらつら考えを巡らせていました。
そして次のような結論に至ったのです。

「縄文土器の特質は、触れることで出会える」

なんだか抽象的なことを言ってしまいましたが、その意味するところは明快です。
縄文土器は、世界の土器とくらべて凹凸が顕著で躍動感があり、メリハリが効いているのです。
土器の口縁部が波打っていたり、器壁が施文によってゴツゴツしたりしているのは縄文土器では当たり前。
一方の世界の土器は割合につるりさらりと単純です。
もちろん、実際には縄文時代にも凹凸の少ない土器はありますから、これはかなり乱暴な意見かもしれません。それでもそう思わしめるほどに、縄文土器は、「みる」というよりも「さわる」行為を通してその特質が顕在化してくる存在なのです。
したがって、たとえば光のまったく届かない暗闇の中に、縄文土器を含む世界各地の土器が集められていたとして、そこからパキスタンの土器は抜き出せなくとも、おそらく僕は、縄文は縁遠いなどと言いながらも、比較的簡単に縄文土器を抽出することができるでしょう。
さわって、ごつごつした感触の土器を選べばいいのですから。

 
左:重要文化財 焼町土器
群馬県渋川市 道訓前遺跡出土 縄文時代(中期)・前3000~前2000年 群馬・渋川市教育委員会蔵 写真=小川忠博
右:彩文壺
パキスタン、バローチスターン地方出土 インダス文明期・前2200~前2000年頃 東京・古代オリエント博物館蔵


こうして僕は、世界の土器と比較することで、縄文土器の特質にやっと気づくことができました。
そしてその特質は、そのまま縄文土器の魅力へとつながっていくのです。

ここまでお読みいただいて、「なるほど、縄文土器は世界的に見ても特別な存在なのか」と思われた方もおられることでしょう。
しかしそれはあくまで一つの視点からそう言っているだけの話です。視点をかえれば時に共通する面があることにも気づきます。

次の3点をご覧ください。
  

いずれも同じような形の器を上からみた写真ですが、注目していただきたいのはそこにあらわされた文様です。

小魚のような生き物が、反時計回りに旋回しているすがたを確認することができます。
表現方法はそれぞれ異なるものの、おなじような意匠が採用されているのです。
これを他人の空似と言って一蹴するのは簡単です。
でもそう考えるのではなく、影響関係の有無はさておき、なにか共通する生活様式なり考え方なりを示している可能性をまずは想起すべきでしょう。
またひとつ研究テーマができました。

ところで、この3点のうち、どれが縄文土器かはもう簡単ですね。
つるりではなく凹凸のある躍動的な口縁部をもつ一番右が縄文土器です。
*写真は左から順番に、彩陶鉢(中国、甘粛省あるいは青海省出土/馬家窯文化・前3100~前2800年頃/東京国立博物館蔵)、彩文浅鉢(パキスタン、バローチスターン地方出土/インダス文明期・前2200~前2000年頃/東京・古代オリエント博物館蔵)、動物形装飾付浅鉢形土器(神奈川県厚木市 恩名沖原遺跡出土/縄文時代(中期)・前3000~前2000年/神奈川・厚木市教育委員会蔵)

博物館で働く僕たちは、ふだんの調査研究のなかでは視覚情報はもとより、さわったときに得られる質感や重量感そして温度感も重視します。
そこから作り手あるいは使い手に近づく手がかりが得られるからです。
これらは来館されたお客様にはなかなか体験していただくことはできませんが、特別展「縄文―1万年の美の鼓動」をご覧になるときは、さわってみるつもりになってご覧ください。
また、特別展会場のある平成館の1階には、現在開催中の親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」とコラボして、火焰型土器のレプリカを設置しています(9月9日[日]まで)。
縄文土器にさわれるチャンスです! さわってみることで、縄文時代の造形に宿る美の鼓動を、その手に感じることができると思います。
 
縄文土器のどの部分が指にフィットしますか? やさしくさわってフィットする箇所を探してみてください

カテゴリ:考古2018年度の特別展

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posted by 市元塁(東洋室) at 2018年07月30日 (月)

 

トーハクにイーブイがやってきた!


「まだかなー。まだかなー。」

あれ? 今日のトーハクくんはなにやら人(?)待ち顔。一体誰を待っているのでしょうか?
正解は・・・


ポケモンのイーブイ!

じつは、トーハクは「プロジェクトイーブイ」の人気企画「イーブイの会社見学」に応募していたのです!

応募後ご連絡があり、是非「親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」をいち早く体験していただこうと、一般公開前の7月23日(月)に来館いただくことになったのでした。

では、イーブイご来館の模様を、せっかくですので実況風にお楽しみいただきましょう。

 

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まずは、イーブイ、正門に到着。
容赦なく「月曜休館」というルールの洗礼を受けます。

 
休館日は開かなイーブイです

もちろん冗談(笑)。
衛士(警備の係員)が、すぐに門扉を開けてお出迎えしました。

 


「イーブイらっしゃいませ!!」


当日、東京都内は最高気温40℃を超える猛暑。
なにはともあれ、急いで建物の中へ向かっていただきます。


と言ってるのに、ユリノキの下でひと休みするイーブイ


 

おや?
本館に人だかりが! イーブイ突然の来訪に、館のスタッフも熱烈歓迎です。
さすが、人気者!


本館ではもちろん、東京国立博物館の広報大使・トーハクくんがお出迎え。

 
「いらっしゃいませ!」 トーハクくんのお辞儀は深い


続いて、本日の案内役、小林 文化財活用センター副センター長もご挨拶。


「いらっしゃいませ!」 やはり、トーハク側のお辞儀は深い


そして、「イーブイの会社見学」恒例の2ショット。
これまで数々の企業の代表者の方たちが頭をうずめてきたという、イーブイのもふもふを…


小林副センター長が堪能します。


うしろでトーハクくんが冷ややかに見つめます。


「・・・そろそろ離れてほしいほ!!」


あまりの堪能っぷりにトーハクくんの嫉妬心に火が付き始めましたが、
気を取り直して、せっかくの機会なのでみんなで記念撮影です。



ところがその時!

イーブイのあまりの可愛さに取り乱した女性スタッフが、隠し持っていたモンスターボールを懐から取り出しました! 

危うしイーブイ!



しかし、そこに割り込んだのはトーハクくん…!

一同「トーハクくん! お客様を、イーブイを守ったんだね!」
トーハクくん「・・・ボクを。」
一同「?」
トーハクくん「よそのコをつかまえるならボクを!! ボクに!! もっとボクにかまうほ!!」
イーブイ「・・・。」
一同「・・・。」

 

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スタッフ一同が落ち着きを取り戻したところで、とりあえずトーハクくんには通常業務に戻ってもらうことになりました。



トーハクくん「楽しんでいくといいほー。・・・でも! トーハクの人気者の座は! ぜったい! ゆずらないほ!!」
イーブイ「・・・。」
広報室員「・・・さ、行こうか、トーハクくん。」

・・・トーハクくんはまだ5歳だから。
・・・多少は・・・ね。

 

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さあ、いよいよ「親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」の会場へ向かいます。



この展示は、NHK Eテレ「びじゅチューン!」とのコラボレーション企画展示。
番組内で歌になったトーハク所蔵作品を、映像を使った体験型展示で楽しめます。

いざ体験!と思ったら・・・

入口にある「見返り美人」人形と一緒に回りだすイーブイ。


・・・ かわいい!


一同メロメロになりながらも、特別5室の『体感!ザパーンドプーン北斎』にご案内します。



このコンテンツでは、特大スクリーンに葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」を拡大して映像化!
絵のなかの舟に乗る人物になりきることができます。


声の大きさで変化する波の大きさ

はたしてイーブイは…


見事「大波」! ※イーブイはさけべなかったのでスタッフが代理でさけびました

拡大投影された波の迫力にイーブイも驚いている様子でした。

同じく特別5室には、歌川広重の「名所江戸百景・大はしあたけの夕立」を題材にした浮世絵体験、『雨は愛すがどう描く?』もあり、イーブイも浮世絵の世界に興味津々の様子。



続いて、特別4室へ。

『見返らなくてもほぼ美人』は、菱川師宣の「見返り美人図」をモチーフに、モニターの中の見返り美人を、カメラの前の人が動かすことができるコンテンツ。



・・・なのですが、どうやらポケモンは対象外だったようです。
カメラ、どうやっても反応せず。

 
できなイーブイです

嫌な予感を抱きつつ、同じく特別4室の『顔パフォーマー麗子』へ。
岸田劉生の「麗子微笑」に、なんとデジタル顔はめができるというコンテンツ!

ですが、やはり・・・



ここでもカメラはイーブイを認識できず・・・。
残念ながら、こちらもポケモンは対象外だったようです。


小林麗子、もとい小林副センター長にやさしく慰められるイーブイ

さいごは18室。
ここでは「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」や「麗子微笑」の実物を見ることができます。



いろいろな視点を学んだあとで見る、ホンモノの魅力。イーブイにも伝わったかな?



もふもふのイーブイに日本の夏は厳しそうですが、夏でも涼しい博物館の中で楽しげに過ごしている様
子を見て、この暑さの中に来てもらった私たちスタッフも、少し安心したのでした。
イーブイ、来てくれて本当にありがとう!!

イーブイも大満足の「親と子のギャラリー トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」は、
7月24日(火)から9月9日(日)まで開催中。

この夏の思い出に、ぜひ皆様もご来館、ご体験ください!


【おまけ】



閉まっている展示室に入ろうとして挟まったイーブイ
 

 

 

 

カテゴリ:news教育普及

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posted by 田村淳朗(総務課) at 2018年07月27日 (金)

 

なりきり日本美術館、始めました! その1

くるくるくる、と回る見返り美人が入口の目印!
くるくるくる、と回る見返り美人が入口の目印!

東京国立博物館、教育普及室の藤田です。
7月24日(火)、夏休み恒例の展示、親と子のギャラリーが始まりました!
NHK Eテレ「びじゅチューン!」とのコラボレーション企画として、「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」が、トーハク本館にオープンしました。今日はまず、第一会場の様子をお伝えします。
ちなみに「びじゅチューン!」とは、アーティストの井上涼さんが世界の「びじゅつ」を歌とアニメーションで紹介する番組です。 トーハク所蔵の作品もいくつか取り上げられています。

トーハクの本館入口でお出迎えしてくれるのは、くるくる回る見返り美人のバルーンロボット。その横の画面からは軽快な歌声が聞こえてきます。歌っているのは、井上涼さんです。この展示のために作ってくださった曲「トーハクトラベル」のビデオが流れています。上野公園やトーハクの中を旅するように歩きながら、楽しく案内してくれる歌のビデオです。「トーハクトラベル」の映像をぜひご覧ください!

トーハクトラベル

 

入口を通って第一会場の特別5室へ入ると、「ふーじさーん!!」と大きな声が聞こえてきます。部屋の奥へと進むと、こんな大きなスクリーンが!葛飾北斎の「冨嶽三十六景・神奈川沖浪裏」の大きな波が動く映像が映し出されている「体感!ザパーンドプーン北斎」。映像の前にある船に乗っている人たちもいます。その脇では、マイクに向かって叫ぶこどもたち。そう、ここでは富士山への思いをマイクで叫ぶと、その声の大きさによって、映像の波が大きくなるのです。
びじゅチューン!では「ザパーンドプーンLOVE」という歌で、富士山に恋した波が大きく伸び上がって自分をアピールしていましたが、北斎の迫力ある波の表現をこんなふうに間近で体験してみるのも楽しい!

大きな声で「大波」、出せるかな?
大きな声で「大波」、出せるかな?

次のコーナーは「雨は愛すがどう描く?」。歌川広重の「名所江戸百景・大はしあたけの夕立」では、たくさんの細い線が描かれ、雨を表現しています。びじゅチューン!の「雨は愛すが人逃げる」という曲でも、雨が主人公になっています。ここではスタンプコーナーで、その雨や雨雲をスタンプにして、絵の上から重ねて押すことで、絵に雨を降らせることができます。作者になったつもりで、小雨を降らすのか、大雨にするのか、スタンプを選んで重ねてみてください。

スタンプで雨を降らせる体験コーナー
スタンプで雨を降らせる体験コーナー

このコーナーでは、版画の制作工程も展示されています。18の版を重ねていく過程をじっくりご覧ください。
 
こんなにたくさんの版が摺り重ねられています
こんなにたくさんの版が摺り重ねられています

以上、親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン!なりきり日本美術館」の第一会場のレポートでした。ぜひ、「びじゅつ」と遊びにトーハクにいらしてください。

次回は第二会場の様子をお伝えします。

トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館チラシ


親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」

2018年7月24日(火)~9月9日(日)
本館 特別4室・特別5室

詳しくはこちら

トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館チラシ


親と子のギャラリー「トーハク×びじゅチューン! なりきり日本美術館」

2018年7月24日(火)~9月9日(日)
本館 特別4室・特別5室

詳しくはこちら

 

カテゴリ:教育普及

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posted by 藤田千織(教育普及室長) at 2018年07月26日 (木)

 

特集「江戸の仏像から近代の彫刻へ」

彫刻担当の西木です。
今年、2018年は明治維新から150年を記念する年として各地で関連行事が行われていますが、トーハクでもさまざまな関連展示を開催しております。日本彫刻といえば、みなさまは仏像を想起されると思いますが、仏像の歴史のなかでも明治維新はとても大きな転換点となりました。
そこで、収蔵品と寄託品のなかより江戸時代から明治以降の彫刻作品を選び出し、その転換点についてご覧いただこうと企画したのが本特集「江戸の仏像から近代の彫刻へ」(2018年7月10日(火)~9月30日(日)、本館14室)です。

本館14室の特集展示の様子
本館14室 特集展示の様子

そもそも、江戸時代の彫刻といっても、あまりみなさまにはなじみがないかもしれません。歴史の教科書や仏像の入門書では、鎌倉時代で記述が終わってしまうことが多いので…
しかし、鎌倉時代以降も仏像を造る需要は途切れることなく、むしろ制作された総量としては飛躍的に増大したと考えられます。鎌倉時代までは時代ごとに個性的な仏像のスタイルが考案されてきましたが、江戸時代はむしろ鎌倉時代風を洗練させていくことで、人々の信仰を集める仏像が造られたようです。

薬師如来坐像 釈迦如来坐像
写真左:薬師如来坐像 旧寛永寺五重塔安置 江戸時代・寛永16年(1639) 東京都蔵
写真右:釈迦如来坐像 康乗作 江戸時代・寛文4年(1664) 東京・寛永寺蔵


なかでも、江戸幕府や皇室関係の造仏を担った御用仏師である七条仏師の仏像は、鎌倉風を基調とした瀟洒(しょうしゃ)な姿が特色です。


一方で、円空や木喰といった、仏像制作も行う僧侶も注目を集めています。

如来立像 木喰自身像
写真左:如来立像 円空作 群馬・光性寺旧蔵 江戸時代・17世紀 鴇田力氏寄贈
写真左:木喰自身像 木喰作 江戸時代・享和4年(1804) 吉沢政一郎氏寄贈



目黒区にある五百羅漢寺には、松雲元慶(しょううんげんけい)という黄檗宗の僧侶がひとりで造りあげたとされる羅漢の群像が安置されており、今でも300体以上の羅漢が伝わっています。

羅漢坐像 羅漢坐像
羅漢坐像 松雲元慶作 江戸時代・元禄8年(1695) 東京・五百羅漢寺蔵

顔立ちや体つきは異国風で、七条仏師の仏像と比べるとさまざまな違いがあるので、ぜひ展示室で見比べてください。


こうして盛んに仏像が造られていた江戸時代ですが、明治になって大きな変化を迎えることになりました。それは明治元年の神仏判然令(神仏分離令)を皮切りに、数年続くことになる廃仏毀釈と呼ばれる仏教排斥運動です。江戸時代までは、神仏習合の言葉に象徴されるように、神道と仏教は融合しながら共存してきました。ところが、明治天皇を中心とした神道国家の樹立をもくろんだ明治政府の出した法令により、神道と仏教の分離が強制されたばかりか、これまで幕府によって庇護されてきた仏教が批判の対象となったのです。

唐招提寺の破損仏
唐招提寺の破損仏

興福寺の破損仏

これにより、寺院領地の没収、僧侶の僧籍はく奪はもちろん、寺院の廃絶や仏像、経典類の破却が相次ぎました。こうした日本文化の破壊ともいえる状況を心配した政府は、すぐに古器旧物保存方と呼ばれる、文化財保護の法令を出すとともに、博物館や美術学校を設置し、美術行政に舵を切っていったのです。しかし、当時すでに仏像を造る仕事が激減していた仏師たちは、転職か廃業を余儀なくされていました。

そのひとりが高村光雲です。今日では彫刻家として名高い光雲ですが、もともと仏師として生計を立てていました。光雲の師匠の、そのまた師匠は、幕末の四巨匠と呼ばれた高橋鳳雲です。ちなみに、鳳雲の弟宝山の作品も当館で所蔵しています。

蝦蟇仙人像 老猿
写真左:蝦蟇仙人像 高橋宝山作 江戸時代・19世紀  ガマガエルを手なづける、蝦蟇仙人を生き生きと表しています。
写真右:重要文化財 老猿 高村光雲作 明治26年(1893) シカゴ・コロンブス世界博覧会事務局 ※2018年9月9日(日)まで本館18室にて展示


当時、金属製品の原型制作や象牙彫刻に転身していく同業者が多いなか、かたくなに木彫にこだわって仕事を続けていた光雲は、東京美術学校の幹事をしていた岡倉天心に見出され、木彫科の教授として招かれます。その代表作、米国・シカゴ万博に出品された「老猿」を見ると、その巨大さと写実的に表された屈強な猿の力強さに圧倒されますが、台座ごと彫り出され、大胆に身をよじったところなど、意外と共通点もあります。

そんな光雲は多くの弟子や学生に恵まれましたが、天心は彼らに彫刻作品の模造を命じます。それはなぜでしょうか。

執金剛神立像 月光菩薩立像
写真左:執金剛神立像(模造) 竹内久一作、原品=東大寺法華堂蔵 明治24年(1891)、原品=奈良時代・8世紀 ※ 現在展示しておりません
写真右:月光菩薩立像(模造) 竹内久一作、原品=東大寺法華堂蔵 明治24年(1891)、原品=奈良時代・8世紀 ※ 現在展示しておりません


理由のひとつに、開設されたばかりの博物館(当時のトーハク)には、まだまだ展示作品が少なく、おまけに当時はまだ奈良や京都などに集中する名品を自由に見られる環境が整っていなかったため、その代替であったことが挙げられます。

旧本館の彫刻展示室
旧本館の彫刻展示室
旧本館の彫刻展示室
旧本館の彫刻展示室

もうひとつの理由として、過去の名品を模造することで、その古典学習や技術習得が期待されたのです。彫刻を学んだ学生たちにとって、仏像は生計をたてるために造るものというだけでなく、新たな創造のインスピレーションの源ともなったのでした。

龍頭観音像 龍頭観音像
龍頭観音像 佐藤朝山作 昭和時代・20世紀 山田徳蔵氏寄贈

法隆寺の国宝 救世観音菩薩立像(飛鳥時代・7世紀)に魅せられ、終生その形を反復して再現した佐藤朝山(ちょうざん)の龍頭観音像を見ると、華麗な彩色と優雅な雲龍の表現に、近代彫刻としても命脈を保った仏像のもうひとつの姿を見ることができるでしょう。

もちろん、当時も、そして今日に至るまで職業としての仏師はなくなっていませんし、いうまでもなく仏像は信仰の対象であり続けています。しかし、明治維新という大きな変化を経験したことで、仏像は近代的な美意識のもと美術鑑賞の対象ともなり、文化財としての意義も認められるようになりました。

ぜひ本特集展示をとおして、こうした彫刻史の1ページをご体感いただければ幸いです。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ彫刻特集・特別公開

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posted by 西木政統(貸与特別観覧室研究員) at 2018年07月20日 (金)