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1089ブログ

書を楽しむ 第11回「さだのぶ」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第11回です。


今回は、「砂子切(兼輔集)(すなごぎれ(かねすけしゅう))」から、お話を始めます。

「砂子切(兼輔集)」は、本館3室「宮廷の美術」で展示中です。
さっそく、エンピツで写しました。

 
(左)砂子切(兼輔集) 藤原定信筆 平安時代・12世紀(~2012年4月22日(日)展示)
(右)エンピツの画像


料紙に、金銀の砂子が散らされているため、「砂子切」と呼ばれますが、
地味な作品だな~と思われるかもしれません。

でも!
注目したいのは、その筆者、藤原定信(ふじわらのさだのぶ、1088~1154‐?)です!

定信は、
藤原行成(ふじわらのこうぜい、972~1027)を祖とする能書の家系、
世尊寺家(せそんじけ)の第五代目です。

「書を楽しむ」シリーズブログ第9回で紹介した、国宝「白氏詩巻(はくししかん)」を書いたのが、藤原行成。
さらに、第5回で紹介した、国宝「古今和歌集(元永本)」を書いたのが、
定信のお父さん、藤原定実(ふじわらのさだざね、?‐1077~1119‐?)です。
すごい家系だというのを、頭の片隅で覚えておいてくださいね。

定信の作品は、国宝「本願寺本三十六人家集」の「順集(したごうしゅう)」ほか、たくさん残されています。
「本願寺本三十六人家集」の時は、父の定実も書いています。
だから、定信の若い頃の筆跡とわかります。
「砂子切」も、「本願寺本三十六人家集」と同じ頃の作品です。

定信は、行成の国宝「白氏詩巻」に跋語(ばつご)を書いていて、面白いです。


国宝 白氏詩巻(部分) 藤原行成筆 平安時代・寛仁2年(1018)
(左半分が、定信の跋語。展示予定は未定)


これによると、定信は、物売りの女から、二巻購入しました。
値段は黒く消してありますが、買ったのは、この「白氏詩巻」と「屏風土代(びょうぶどだい)」。
「屏風土代」は、小野道風の筆跡で、現在は宮内庁三の丸尚蔵館が所蔵しています。

定信の写経を見てみましょう。
右肩上がりで、とてもスピーディに見えます。

 
法華経巻第四 断簡(戸隠切) 藤原定信筆 平安時代・12世紀
(2012年11月20日(火)~12月24日(月)、本館3室「仏教の美術」にて展示予定)


有名なのは、定信が、一切経約5000巻をひとりで全部写したことです!
42歳から始めて23年間で書き終えました。
一筆一切経といいますが、それができたのは、定信ともう一人しかいません。

スピーディに書けたからできたのか、それとも
一切経を書いたからスピーディな書風になったのか。

一筆一切経を成し遂げた人物として、定信の書風がもてはやされました。
右肩上がりの書風は、「定信様」(さだのぶよう)と呼ばれ、
よく似た書が、「平家納経」(国宝、厳島神社所蔵)などに見られます。


さだのぶ。
今年度はほかにも展示する予定です。
探してみてください。

 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年03月30日 (金)

 

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