早いもので本日(8月14日)から、創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」の後期展示が始まりました!
第2会場入り口
絵画と書跡はおおよそ展示替えを行いました。
後期の見どころをご紹介します。
こちらの神護寺展作品リストとともにご覧ください。
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posted by 古川 攝一 (教育普及室) at 2024年08月14日 (水)
九つの区画に整然と分けられ、規則的な仏の配置を見せる金剛界。
国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)
【金剛界】後期展示(8月14日~9月8日)
そして、大日如来を中心に密教の仏たちが広がるように配置される胎蔵界です。
国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)【胎蔵界】
大きさも違います。これは、金剛界と胎蔵界が別々に成立し、展開してきたためです。
ともにインド発祥ですが、空海の師匠である、唐の都・長安の青龍寺(せいりゅうじ)にいた恵果(けいか)のときに、金剛界と胎蔵界がセットになったと考えられます。
会場内のパネル
唐櫃の蓋裏には朱漆で銘が記され、徳治3年(1308)8月に後宇多天皇によって高雄曼荼羅の修理がなされたのち、寛政5年(1793)、光格天皇と後桜町(ごさくらまち)上皇によって再び修理を行った旨が記されています
高雄曼荼羅図像 鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵 場面替えあり
また、現在見えにくくなっている銀泥部分を復元した動画、曼荼羅そのものの解説映像などもあり、曼荼羅の世界に没入することができます。
「映像で解説する高雄曼荼羅」のコーナー
密教の仏に包まれる不思議な感覚、ぜひ会場で味わってみてください!
館内には日傘などのご用意がありますが、無理せず休みながらお越しください。
また、会場内は少し肌寒くなっておりますので羽織るものをご持参いただくと良いかもしれません。
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posted by 古川 攝一 (教育普及室) at 2024年08月02日 (金)
特別展「法然と極楽浄土」その1 浄土宗にまつわる江戸時代の書
6月9日(日)まで開催中の特別展「法然と極楽浄土」のみどころを本展担当研究員がご紹介する1089ブログ。
1回目は、書跡・歴史担当研究員の長倉がお送りします。
本展覧会のみどころのひとつは、法然上人の生きた時代に限らず、江戸時代に至るまでの浄土宗の歴史をおみせしていることです。
ここでは特に第4章「江戸時代の浄土宗」に展示している作品の中から、注目していただきたい書跡をいくつかご紹介します。
まずは伝徳川家康筆「日課念仏」です。
日課念仏 伝徳川家康筆 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
一度見たら忘れられないこのびっしり感。
名号「南無阿弥陀仏」が整然と、そして隙間なく書かれています
この作品は、徳川家康が晩年に書いたものといわれます。生涯における「罪」を滅しようと、筆を動かしながら、名号を一心に称えたのでしょう。
日課念仏 伝徳川家康筆(左:1段目部分 右:2段目部分)
1段目画像中央、また2段目にも「家康」の文字が確認できます
上から1段目と2段目に「南無阿弥家康」と書かれていますが、なぜこう書いたのかは残念ながら分かっていません。
第4章「江戸時代の浄土宗」展示風景
(右手前)日課念仏 伝徳川家康筆
(左奥)重要文化財 徳川家康坐像 江戸時代・17世紀 京都・ 知恩院蔵 は4月30日から展示中
つづいてご紹介するのは、祐天寺(東京都目黒区)所蔵の「名号」作品の数々です。どれも祐天上人自筆のものです。
祐天上人は弘経寺、伝通院、増上寺などの住持をつとめ、念仏布教に尽力した江戸時代前~中期の高僧です。
この名号を手にすると利益があるといわれ、幕府大奥から一般の人々まで、大変な人気を博しました。
左:六字名号 江戸時代 ・17~18世紀 東京・祐天寺蔵
右:阿弥陀像並六字名号 江戸時代 ・17~18世紀 東京・祐天寺蔵
見どころは、まず筆の太さと四角張った字姿から感じられる圧倒的な存在感です。余白を詰めたような筆の運びも、文字の濃縮度を高めていて独特です。
この文字をみて歌舞伎の看板を思い起こす方もいらっしゃるかと思いますが、歌舞伎の書体が生まれたのは祐天上人の生きた時代からさらに半世紀以上も後のことです。
左:宝塔名号 江戸時代・元禄12~13年(1699~1700) 東京・祐天寺蔵
右:十念名号 江戸時代・元禄13年~宝永元年(1700~04) 東京・祐天寺蔵
祐天上人自筆の名号は天井に届く大きなものから、懐に入れて持ち歩けるものまで、大小さまざまなサイズがあります。
それは人々の求めに応じてカスタマイズして作ったからといわれています。
宝塔を名号で描いた作品もあり、独特のデザインが目を引きます。
第4章「江戸時代の浄土宗」展示風景
(右手前)祐天上人坐像 竹崎石見作 江戸時代・享保4年(1719) 東京・祐天寺蔵
ほかにも江戸時代の書跡を多数展示しています。
法然上人の教えが世代をこえてひろく人々に浸透し、受け継がれていく様子を、実際の作品を通して感じ取っていただければと思います。
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posted by 長倉絵梨子(書跡・歴史担当研究員) at 2024年05月20日 (月)
特集「創立80周年記念 常盤山文庫の名宝」より―コレクションのあゆみ
公益財団法人常盤山文庫学芸員の佐藤サアラです。
常盤山文庫は今年創立80周年を迎えました。作品を寄託している東京国立博物館(東博)の多大なご協力のもと、東洋館8室にて特集「創立80周年記念 常盤山文庫の名宝」を開催する運びとなりました(2023年10月22日まで)。
80年の歩みの中で築いてきたコレクションをまとめてご紹介するのは20年ぶりです。展示替えを行いながら、国宝・重文指定の墨跡や絵画に加え、20年前にはお目にかける機会の少なかった工芸作品も一緒にご覧いただきます。
特集「創立80周年記念 常盤山文庫の名宝」展示風景
私は三代目理事長のもと学芸員となり、蒐集の一端を垣間見たにすぎませんが、常盤山文庫の蒐集品および蒐集に貫かれたこころを、ここにご紹介したく思います。
常盤山文庫は東洋古美術のコレクションを有する財団法人ですが、その母体は大船-鎌倉-江の島を結ぶ自動車専用通路や鎌倉山住宅地の開発事業で知られる実業家、菅原通濟(すがはらみちなり、1894~1981)によって築かれました。
菅原通濟 (写真:公益財団法人常盤山文庫)
通濟の蒐集は禅僧の書である墨跡作品と中国宋・元時代の絵画および室町水墨を中心とする日本絵画に始まります。長男である二代目理事長菅原壽雄(すがはらひさお、1923~2008、在任1981~95)はその普及と拡充、とりわけ一般には難解な墨跡の理解普及に努め、現在国宝2点、重要文化財21点、重要美術品18点を含んでいます。さらに通濟の次男、三代目理事長菅原春雄(すがはらはるお、1930~2019、在任1995~2019)が中国陶磁と漆器からなる工芸コレクションを築きました。
菅原通濟の蒐集による作品
国宝 遺偈(棺割の墨跡) 清拙正澄筆 南北朝時代・暦応2年(1339)
[展示:2023年9月26日から10月22日まで]
重要文化財 茉莉花図 伝趙昌筆 中国 南宋時代・12~13世紀
[展示:2023年8月29日から9月24日まで]
重要文化財 帰郷省親図 伝周文筆、鄂隠慧奯等十三僧賛 室町時代・15世紀
[展示:2023年8月29日から9月24日まで]
菅原春雄による工芸コレクション
米色青磁瓶 中国・官窯 南宋時代・12~13世紀
[展示:2023年8月29日から10月22日まで]
彫漆雲文水注 中国 南宋時代・12~13世紀
[展示:2023年8月29日から10月22日まで]
常盤山文庫の80年の歩みを振り返ると、蒐集と学びが一体となってきたことが大きな特徴です。
初代通濟が質の高いコレクションを築くことができたのは、学ぶことに熱心だったことにあるといえます。じつは、最初の蒐集で美術の知識もないままに百点もの掛け軸を一括購入したところ、その大半がよろしくなかったという大きな失敗をしているのですが、そこで落胆してやめてしまうのではなく、当時まだ若手研究者であった松下隆章氏(まつしたたかあき、1909~1980)の下で一から学ぶことを始めました。学ぶことに前向きになったことで作品を見る眼を体得し、質の高い蒐集が進むこととなったのです。やがて鎌倉常盤山では蒐集した作品の周りに学者、学生が集うようになり、さらに大きな学びの場が醸成されていきました。
作品を軸とした学びの場という雰囲気は通濟の次男、三代目理事長菅原春雄に継承されています。中国の青磁に関心を持った春雄は通濟が松下氏のもとで学んだように、陶磁学者長谷部楽爾氏(はせべがくじ、1928~)に指導を仰ぎ、関心のある研究者が集える場、中国陶磁研究会を発足させました。この研究会の発足によって、研究と蒐集が一体をなす中国陶磁コレクションが築かれました。
研究会の研究活動は会報の発行という形でその成果を発表しましたが、さらに研究テーマを展覧会という形で公開することにもつながりました。東京国立博物館 東洋館で開催された特集展示、2014年の「日本人が愛した官窯青磁」、2019年の「初期白磁 白磁の誕生と展開」です。
ここでわかったことは、常盤山文庫の作品だけでは到底できない幅広い意味のある展示が、東博の所蔵品と合わせることで実現されるのだということでした。これをきっかけに、東博の所蔵品と組み合わせながら意味のある展示をすることにコレクションを活用したいと考えるようになり、東博への寄託が進みました。
東京国立博物館にはすでに膨大な所蔵品がありますが、そのわずかに欠けたところ、隙間をつなぐことができるようなもの、つまり東博の所蔵品を補完し常設展示に活用できるものを中心に、各担当分野の研究員と相談をしながら寄託品を決めていきました。
常盤山文庫は展示施設を持たないコレクションです。消防法の改正に伴い鎌倉常盤山の木造家屋での展示ができなくなって以来、他館に作品をお貸出しして単体の作品をお目にかける機会はあったものの、今回の特集のようにコレクション全体を展示する機会は60周年以来です。
「コレクション」ということばは「蒐集品」そして「蒐集」を指しますが、初代から三代までの常盤山文庫の80年、集められた作品とともにその蒐集のこころも含めた常盤山コレクションを、多くの皆さまにご覧いただけることを願っています。
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posted by 佐藤サアラ(公益財団法人常盤山文庫) at 2023年09月01日 (金)
「台東区立書道博物館・東京国立博物館 連携企画」毎日書道顕彰特別賞受賞と20年の歩み
令和5年(2023)6月12日、台東区立書道博物館と東京国立博物館は、毎日書道会より第36回毎日書道顕彰特別賞を受賞し、7月23日の表彰式において両館に賞状が授与されました。
表彰式の様子
左から富田淳(東京国立博物館副館長)、藤原誠(東京国立博物館長)、山中翠谷氏(毎日書道会総務、独立書人団常務理事)、丸山昌宏氏(毎日書道会理事長)、服部征夫氏(台東区長)、荒井伸子氏(台東区立書道博物館長)、鍋島稲子氏(台東区立書道博物館主任研究員)、金子大蔵氏(毎日書道展審査会員、創玄書道会評議員)
毎日書道顕彰は、昭和63年(1988)に創設され、書道に関する芸術・学術・教育の振興に著しく貢献した個人、およびグループを一般財団法人 毎日書道会が顕彰するもので、平成12年(2000)より「毎日書道顕彰特別賞」も加えられました。
台東区立書道博物館と当館は、徒歩15分で往来できる近距離にあります。両館の収蔵する中国書画は、収集の時期や内容など共通する部分も少なくありません。これらの利便性や共通点を活かして、平成15年(2003)に開催時期や展示内容を連携させる展覧会を始めました。
今でこそ他館との連携による展覧会は各地で行われていますが、20年前はほとんど実施されていませんでした。書道博物館と当館の連携企画は、その先駆けといえるでしょう。単館では不可能な企画も、複数館なら実現できます。この連携企画は両館を軸にしつつ、連携館を増やして開催することもありました。区立と国立、時には私立を加えた異なる組織が一緒に展覧会を行うのは容易ではありませんが、各館が実現可能な範囲の仕事を請け負って続けてきました。
当初は予算が少なく、他館からの作品借用はもちろん、図録の刊行もありませんでした。細々と続けるうちに、次第に他館からの借用や、図録の制作も可能になり、展覧会が少しずつ充実してきました。海外から作品をお借りした例もあり、平成24年(2012)の第10回では、香港中文大学文物館が所蔵する「蘭亭序」の名品7件を展示しています。
連携企画の図録は、第7回より毎回制作しています。図録は(1)図版が美しく、(2)気軽に読むことができ、(3)知的興奮が得られる等の点に留意しながら、読みやすく楽しい内容を目指しています。また書跡のみに偏らず、絵画(注)もふんだんに盛り込み、文化史的なアプローチを心がけています。
(注)1089ブログ「『王羲之と蘭亭序』その2 蘭亭雅集の様子を想像してみよう!」
連携企画は小さな展覧会ですが、その積み重ねが大きな展覧会の構想につながり、平成25年(2013)に特別展「書聖 王羲之」、平成31年(2019)にも特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」を開催するに至りました。
連携企画が、東京国立博物館での特別展に結実したことは、連携企画に携わってきたスタッフの誇りでもあります。また近年は、連携企画が海外からも注目されるようになってきました。
令和5年(2023)1月31日から4月23日まで開催した、節目となる第20回の創立150年記念特集「王羲之と蘭亭序」では、多数の外国人来館者のほかに、海外からも多くの図録の注文を受けました。
「王羲之と蘭亭序」会場の様子
特集展示の内容は、オンラインギャラリートーク 2月「創立150年記念特集 王羲之と蘭亭序」をご覧ください。
中国と日本の文人たちが憧れた王羲之の書。最高傑作「蘭亭序」や制作背景となった雅集などについて、展示作品からご紹介しています。
当館ではこのたびの受賞を励みとして、さらに充実した連携企画を目指したいと思います。
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posted by 植松瑞希・富田淳・六人部克典(台東区立書道博物館・東京国立博物館 連携企画担当) at 2023年08月07日 (月)