1300年余りも生き続けてきている上代裂にありがとう
私は東京国立博物館(トーハク)に入ってから、一貫して法隆寺や正倉院の古い染織品(上代裂(じょうだいぎれ)と呼んでいます)を調査・研究しながら、これらの染織品の修理にも関わってきています。
私が入った頃は、法隆寺献納宝物の染織品(以下、法隆寺裂と呼びます)は、ほとんど整理もされておらず、展示できる作品はごくわずかでした。
そこで、昭和56年から毎年継続して修理が行われるようになりました。
最初は大形の形をとどめた仏事の荘厳具(しょうごんぐ)の一つである幡(ばん)などが中心で、これらは仕立てられていることから、台となる絹の裂(きれ)に縫い付ける修理が中心でした。
残欠になってしまった裂は、ガラスに挟むなどしていました。
これらの作品も経年により、劣化が進んできました。
再修理では、幡を台裂から外し、本体を解体して裏打ちしたうえで元の形に戻すという、これまでにない手法で修理をしました。
解体するといっても、当時の仕立ての縫い糸は可能な限り裂に残しています。
裂も縫い糸も1300年余り前の貴重な文化財です。
平成22年度からは、ガラスの内面が曇り、裂に影響を及ぼしかねないガラス挟みの再修理を、保存修復課のアソシエイトフェローの皆さんと行っています。
これらは裏打ちし、中性紙のマットに挟む仕様にしています。
ガラスの重圧と劣悪な状態から解放され、裂もおめかししてことのほか安心しているようにみえます。
平成22・23年度に修理した作品は、平成24年7月10日~8月5日の期間、
特集陳列「初公開の法隆寺裂―平成22・23年度修理完了作品―」として皆様にお披露目し、多くの方々にご覧頂きました。
裂の糸目を揃えているところ(修理中) 本人
修理後初公開された法隆寺裂
特集陳列「初公開の法隆寺裂―平成22・23年度修理完了作品―」の展示風景
ところで、法隆寺裂の中には、未決品と呼ばれる列品に登録されていない染織品が1000点以上もあります。
これらはまだ、修理の手が入っていません。
このままでは、安全な状態で後世へ引き継ぐことができません。
何しろ、これまで人々の手によって守り伝えられてきた染織品です。どれをとっても使った人々の温もりが感じられます。
「埋もれた法隆寺裂に少しでも多く、日の目をみせてあげたい」、と日々思い続けています。
修理を待っている上代裂(種々入り混ざってガラスで押さえられている)の一部
カテゴリ:2012年9月
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posted by 澤田むつ代(特任研究員) at 2012年09月06日 (木)