世界に羽ばたく斉白石
はじめまして、京都国立博物館(京博)の呉[くれ]と申します。
いつもは東博の方々が登場するこのブログに、なぜ京博の職員が書いているのか、不思議に思われる読者もいらっしゃるかもしれません。
現在、東洋館第8室で開催中の日中平和友好条約締結40周年記念 特別企画「中国近代絵画の巨匠 斉白石」は、12月25日までの東博での会期終了後、京博にも巡回します(平成31年1月30日から3月17日まで)。京博での前宣伝もかねて雑文をつづってみたいと思います。
この企画は昭和53年(1978)に締結された日中平和友好条約が40年を迎えたことを記念したもので、中国政府そして今回の出展作品を所蔵する北京画院の全面的な協力のもと、実現しました。
20世紀の中国の水墨画といえば斉白石(1864-1957)の名がすぐに挙がるくらい、中国では最も有名な画家の一人です。日本の近代でいえば、日本画壇を牽引した横山大観(1868-1958)の知名度に、繊細な画風で孤高を貫いた熊谷守一(1880-1977)の芸術をあわせたような存在であるのかもしれません。
白石の画は中国の伝統絵画の様式を押さえたうえで、簡潔な構図と描写で独自に創意を加えました。画家の胸中の想いをかたちにとらわれず表現する、いわゆる「写意」の文人画に新境地を拓いたのです。
借山図(第三図) 斉白石筆 中国 1910年 北京画院蔵 (展示期間:~11月25日(日))
色鮮やかな山水をたっぷりの余白で表わした「借山図」のシリーズはその代表です。日々めまぐるしく変化しつづける中国で、ゆったりとした時間の流れを感じさせる白石の絵画は現代の中国人にとっても「癒し」の芸術です。そのためでしょうか、世界的な美術オークション市場でも白石作品は近年、驚異的な高値で取引されています。
世界的に高まる斉白石への関心を受けて、白石作品の展示もさかんです。
北京の地下鉄のホームで撮影
上の写真は今年10月、斉白石展の集荷のために訪れた北京で、地下鉄の駅のホームでみかけた広告です。「斉白石、次の駅はどこでしょうか」とのコピーに「2018年、さらに多くの地、さらに多くの国で斉白石芸術の魅力を感じてください」とつづきます。2018年の展示場所として、広告の左上に「列支敦士登国家博物館」、右下隅から北京画院美術館、故宮博物院(北京)、湘潭市博物館(湖南省で斉白石の出身地)、東博、京博の名が列記されています。「列支敦士登」とは、欧州でスイスとオーストリアの間にあるリヒテンシュタイン公国のことです。
東博・京博の展示は、北京画院美術館と北京故宮につづくもの。来年も欧州での展示を計画しているようで、まさに世界に羽ばたく活躍ぶりです。
北京故宮 外看板
北京画院美術館 会場入口
それでは、今回展示の白石作品を所蔵する北京画院はさぞかし慌ただしいところかといえば、ちがっていました。画院は斉白石が晩年に初代名誉院長をつとめたことから、中国で最も多くの白石作品を所蔵する機関のひとつです。
北京市民の憩いの場である朝陽公園のすぐ近くにあり、その建物は北京の伝統的な居宅である四合院を模した趣をたたえています。
北京画院外観(左奥のビルが画院の美術館)
事務棟には四合院らしく中庭もあり、斉白石の胸像の横でオウムの「小翠(シャオツゥイ)」も飼われていました。
北京画院のオウム「小翠」
ときどき大きな声で鳴くので最初はびっくりしましたが、画院に勤務する学芸員や画家たちのアイドルとしてかわいがられていました。
近年、日本でも中国からの旅行客が増えています。隣国とはいえ、中国についてまだまだ知らないこともたくさんあります。芸術の秋、総合文化展の料金で(ということは京都の大報恩寺展、アメリカからのデュシャン展を参観したついでに)中国文化のいまにふれるのもお得かもしれません。
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posted by 呉孟晋(京都国立博物館列品管理室主任研究員) at 2018年11月22日 (木)