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1089ブログ

王羲之書法の残影-唐時代への道程- その2

平成館で開催中の特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」は連日、国内外から多くのお客様にご鑑賞いただいており、たいへんな賑わいをみせております。
特別展の鑑賞前後に、あわせて足を運んでいただきたいのが、東京国立博物館東洋館8室(トーハク)と台東区立書道博物館(書博)で開催している連携企画「王羲之書法の残影-唐時代への道程-」です。

先日、書博の鍋島主任研究員が連携ブログ「その1」として、連携企画展の構成や見どころ、顔真卿展との関係をわかりやすくお伝えくださいました。
今回の「その2」では、数ある展示作品(展示件数:トーハク34件、書博67件・展示替えあり、計101件)のなかでも、主に法帖に残された南朝の書、石碑などにみられる北朝の書、そして肉筆の書から、オススメの作品やポイントをご紹介いたします。


東洋館8室の展示風景

台東区立書道博物館の展示風景


本展で展示している書の資料は、大きく肉筆と拓本に分けられます。
真跡とされる肉筆の書は、基本的に世の中に1点しか存在しません。一方、石碑・墓誌・摩崖(自然の岩肌に刻されたもの)などの石刻資料の拓本や、書の名品を石や木に刻して作られた版からとられた拓本(法帖)はいわばコピーで、原石・原版がある限り、複製は可能です。
古代の肉筆資料や古い時代にとられた拓本はたいへん希少で、書の鑑賞や学習においても珍重されています。

南朝の書のオススメ 万歳通天進帖
南朝では、後漢時代の建安9年(204)と西晋時代の咸寧4年(278)に発令された、いわゆる立碑の禁(石碑の建立の禁止)を踏襲したため、この時期の石碑の書はあまり残されていません。
一方、後世に制作された法帖には、王羲之・王献之(二王)らの書法を継承した南朝の貴族たちによる書簡などの書が残されています。

法帖をもとにしてまた新たな法帖が作られたことにより、その書は原本(肉筆)の字姿をどれほど忠実にとどめているか不確かな面があります。しかし、法帖は宋時代から清時代まで途絶えることなく制作され、書の鑑賞や学習の主なツールとして扱われてきました。それにより、二王や南朝の貴族たちの書も広範に普及して、その書のイメージが形成されたと見られます。

展示作品の中では、「万歳通天進帖」に所収される書がオススメです。
この「万歳通天進帖」は、唐の則天武后の治世、万歳通天2年(697)に、王羲之の子孫で当時宰相であった王綝が、二王をはじめとする家宝の王氏一族の書を、則天武后に献上したものです。
原本は残されていませんが、則天武后の命により宮中で制作された精巧な模本が遼寧省博物館に現存し、明時代に制作された華夏『真賞斎帖』や文徴明『停雲館帖』といった法帖にも収録されて、その様相を窺うことができます。
書博では、『真賞斎帖』中の「万歳通天進帖」から王羲之「姨母帖」と王献之「廿九日帖」を、トーハクでは『停雲館帖』中のそれから王僧虔「行書太子舎人帖」、王慈「草書栢酒帖」、王志「草書一日無申帖」を展示しています。
「万歳通天進帖」の確かな来歴や両法帖の「刻」の精細さからも、これらは原本の字姿をよく伝えるものと考えられ、是非ご覧いただきたい作品です。

 
右:廿九日帖 王献之筆 東晋時代・4世紀 台東区立書道博物館蔵(書博 全期間展示)
左:行書太子舎人帖 王僧虔筆 宋~斉時代・5世紀 東京国立博物館(東洋館8室 全期間展示)

王献之は王羲之の第七子。南朝の宋から斉にかけては、骨力のある王羲之の書以上に、より華麗で斬新な王献之の書が尊ばれました。
王僧虔は王羲之と同じ琅邪王氏一族の子孫。宋の文帝は王僧虔の書を見て、王献之より優れていると評したと言います。



北朝の書のオススメ 龍門二十品
北朝では立碑の禁の風習は薄れ、石碑など石刻資料が数多く残されます。
石刻資料にみられる銘文とその拓本の書には、刃物によって文字を彫った際の「刻」の味わいが、少なからず原本(肉筆)の書に加味されて表現されます。
彫刻された書の味わいとともに、原本の字姿を想像することも拓本を鑑賞する醍醐味の一つです。

北朝の石刻資料の書のなかでも、龍門造像記は「刻」の味わいが顕著で、鑑賞の醍醐味を楽しむことができます。
河南省洛陽から南へ14kmほどのところに位置する龍門石窟は、北魏から唐時代にかけて造営された石窟寺院です。1352か所もの洞窟には、10万にも及ぶ仏像が彫られ、そこに仏像を造った際の願文である造像記が数多く残されます。
2千件とも言われる北魏時代の龍門造像記のうち、書の優品20件を選定した「龍門二十品」はその代表格として知られます。
本展では、両館あわせて20件全てを展示し(トーハクで8件、書道博物館で12件)、龍門造像記の雄強な書の世界をご堪能いただけます。

 
右:楊大眼造像記(部分) 北魏時代・5~6世紀 東京国立博物館蔵(東洋館8室 全期間展示)
左:孫秋生造像記(部分) 北魏時代・景明3年(502) 台東区立書道博物館蔵(書博 全期間展示)

ともに「龍門二十品」、また「龍門四品」にも数えられる龍門造像記の名品です。
両者にみられる文字構えや重厚で鋭い筆法は、北魏時代の肉筆の書にも通ずるところがあります。



肉筆の書のオススメ 異なる趣の楷書の美
本展では、南北朝時代から唐時代までに書写された仏典などの典籍の写本(肉筆の書)をトーハクで4件、書道博物館で6件展示します。
肉筆の書と拓本の書を同日に比べることはできませんが、肉筆の書の良さは何と言っても、その一点一画に筆者の息づかいや感情の起伏までもが顕著に表れ、文字の造形には筆者の趣味嗜好や地域・時代ごとの特性が映し出され、それらを直に感じ取ることができる点にあります。

三国時代(220~280年)に萌芽した楷書は、晋を経て、南北の両朝で少なからず趣の違いを見せ、南北の統一を果たした隋時代(581~618年)に両朝の趣が融合したかのような整った美しい造形に至り、唐時代(618~907)には更に洗練された様式として完成します。
展示する肉筆の書には、その過程の一端を窺うことができます。

 
律蔵初分巻第十四 北魏時代・普泰2年(532) 台東区立書道博物館蔵(東洋館8室 全期間展示)
「律蔵初分巻第十四」は筆の鋒先を利かせて書写され、弾力性に富み、鋭く重厚な線が見られます。右上がり強く、構築的な字姿は、龍門造像記の書を彷彿させます。

 
僧伽吒経巻第二 隋時代・大業12年(616) 台東区立書道博物館蔵(東洋館8室 全期間展示)
「僧伽吒経巻第二」は、実に均整のとれた文字構えをしています。この字姿には、隋時代の楷書が至った造形美が見られます。
 

毎年恒例となりましたトーハクと書博の連携企画は、本展で16回目を数えます。
実は顔真卿展でも、書博から50点近くの貴重な作品をご出陳いただいており、あらためて世界屈指の書のコレクションだと感じました。
トーハクと台東区立書道博物館で、多彩な書の世界をご堪能いただけますと幸いです。  

図録 唐時代への道程
図録 
王羲之書法の残影-唐時代への道程-

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:1,000円(税込)
ミュージアムショップにて販売
※台東区立書道博物館でも販売しています。
図録 唐時代への道程
図録 
王羲之書法の残影-唐時代への道程-

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:1,000円(税込)
ミュージアムショップにて販売
※台東区立書道博物館でも販売しています。


週刊瓦版

台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。トーハク、書道博物館の学芸員が書いています。展覧会を楽しくみるための一助として、ぜひご活用ください。
 

「顔真卿    王羲之を超えた名筆」チラシ


関連展示
特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」2019年2月24日(日)まで
東京国立博物館平成館にて絶賛開催中!

 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開中国の絵画・書跡

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posted by 六人部克典(登録室研究員) at 2019年02月09日 (土)

 

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」10万人達成!

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」(1月16日〈水〉~2月24日〈日〉、平成館)は、2月8日(金)、10万人目のお客様をお迎えしました。
ご来場いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、倉持英樹さん。本日は奥様の育美さんとご一緒に来館されました。

倉持英樹さんには、当館館長 銭谷眞美より、記念品として特別展図録と本展オリジナルトートバッグを贈呈。
贈呈式には当館広報大使トーハクくんも登場! セレモニーを盛り上げました。


左から倉持英樹さん、倉持育美さん、トーハクくん、当館館長 銭谷眞美

倉持さんは万年筆がお好きでよく字をお書きになるとのことで、特に「祭姪文稿」をご覧になりたいとお話しくださいました。
また、「王羲之が優れていると思っていたが、タイトルにある『王羲之を超えた名筆』を確認したい」という倉持さん、当館には二度目の来館で、奥様とは博物館・美術館によく一緒にお出かけされるとのことです。
ありがとうございます。

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」は、本日も多くのお客様にお越しいただいており、残すところ2週間あまりとなりました。

皆様のご来館を心よりお待ちいたしております。

カテゴリ:news2018年度の特別展

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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年02月08日 (金)

 

黒田先生のアトリエから―特集「ラファエル・コランと黒田清輝」によせて

黒田記念館 黒田記念室では現在、特集「ラファエル・コランと黒田清輝」(~4月14日(日))を開催しています。
今日は、そのご紹介もかねて“日本近代洋画の父”、黒田清輝先生のお宅にお邪魔してみましょう。

写真はおそらく明治30年代後半、黒田先生のアトリエで撮ったものです。
足を組んでポーズをとる黒田先生、コール天の上下は当時、奔放な芸術家のファッションとして人目を引いたそうです。


アトリエでの黒田清輝 明治30年代後半撮影

黒田先生のうしろに見えるのは、現在、静嘉堂文庫美術館にある《裸体婦人像》(①)。
明治34(1901)年の白馬会展覧会で展示されたおり、風紀を乱すということで下半身を布でおおわれた、いわゆる“腰巻事件”で有名な作品です。
この写真でも、黒田先生の頭で下半身が隠れていますが、これはたまたまでしょう。

写真右端には、黒田先生が明治30(1897)年に描いた《秋草》(岩崎美術館蔵、②)も見えます。その左にある小さな額(③)に飾られているのは、おそらく現在、ミラノのアンブロジアーナ絵画館にある《貴婦人の肖像》の写真でしょう。この絵は長い間、レオナルド・ダ・ヴィンチの作と考えられていました。黒田先生、どうやらルネサンス美術にも関心があったようです。

さて、ご注目いただきたいのは、写真左上に写っている作品(④)です。
これは今回の特集「ラファエル・コランと黒田清輝」で展示している、ラファエル・コラン《三人の女下絵》のようです。


三人の女下絵
ラファエル・コラン筆 フランス 1892年頃 個人蔵(黒田清輝旧蔵)


《三人の女下絵》は黒田の旧蔵品として伝えられたものですが、この写真から、実際にアトリエの一隅を飾っていたことがわかります。
コランは、黒田がフランス留学中に画技を学び、その生涯を通して敬愛した師匠でした。
今回の特集では、黒田が描いたコランのポートレートも展示しています。


ラファエル・コラン像
黒田清輝筆 大正5年(1916) 東京国立博物館蔵


ちなみに《三人の女下絵》の右下に写っている絵(⑤)も、コランの作品《夏の野》(久米美術館蔵)です。
黒田とともにコランのもとで画技を学んだ久米桂一郎が持っていた作品ですが、ちょっとお借りしてアトリエに飾っていたのでしょうか。
なお図様の確認できる⑥の作品ですが、これはだれが描いた、なんの絵(の写真)なのか、今のところ不明です。
もしご存知の方がおられましたら、までお知らせいただければ幸いです。


ブログの最後に、特集「ラファエル・コランと黒田清輝」の展示作品をもう一点ご紹介しましょう。
先にふれた“腰巻事件”をめぐっては、黒田の《裸体婦人像》がよく知られていますが、取り締まりの対象となった作品は他にもありました。
黒田は自分の所持していたコランの絵を参考のために出品したのですが、ヌードということで、《裸体婦人像》と同様に腰部を隠して展示されました。
そのひとつが《オペラ・コミック座天井画「虚構に生気を与える真実」のための素描(1)》です。


オペラ・コミック座天井画「虚構に生気を与える真実」のための素描(1)
ラファエル・コラン筆 フランス 1898年頃 個人蔵(黒田清輝旧蔵)



明治34(1901)年11月1日付『二六新報』より
コラン作品の取り締まりの様子を、図入りで伝えています。



そんなわけで、今回の特集「ラファエル・コランと黒田清輝」は、黒田が愛蔵していたコランの作品を通して、師弟の絆の深さをしのぶと同時に、明治時代、西洋の美術がどのように日本に受け入れられていったのかをうかがう企画となっています。
どうぞお見逃しなく!
 

カテゴリ:研究員のイチオシ特集・特別公開絵画

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posted by 塩谷純(東京文化財研究所 文化財情報資料部 近・現代視覚芸術研究室長) at 2019年02月07日 (木)

 

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」開幕!

1月16日(水)、特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」がついに開幕しました!



2013年に開催した特別展「書聖 王羲之」では書が芸術に達した東晋時代に焦点を当てましたが、本展では書法が最高潮に達した唐時代に焦点を当てます

本展は、現代の明朝体に通ずる筆法を創出した顔真卿[がんしんけい]の作品を中心に、唐時代の書が果たした役割を検証するものです。国内外から名品がずらりと集まっています。
ぜひこの機会に、有名な書の名品を画像や写真ではなく、「実物」をご覧いただきたいと思います。

なぜ「実物」と強調するかと言いますと、書の作品は写真や画像で見ると筆の流れは止まってしまっていますが、実際の作品では筆の流れが生きていて、その筆の流れに込められた感情を追体験できるからです。また、実物を視ることで、作品に込められた筆者の魂や、形を超えたオーラを感じ取っていただけるかもしれません。

それではこの展覧会の見どころを紹介していきます。

みどころその1 
楷書[かいしょ]の美しさに触れる

唐時代に、楷書の美しさが法則化されました。唐時代の楷書は美しく、また、自分にはこんな美しい文字は書けないと思い知らされるような作品ばかりです。



篆書[てんしょ]から隷書[れいしょ]、隷書から楷書へと進化を遂げた過程を踏まえ、楷書の作品をご覧いただきます



九成宮醴泉銘[きゅうせいきゅうれいせんめい] 欧陽詢[おうようじゅん]筆 唐時代・貞観6年(632) 台東区立書道博物館蔵

こちらは楷書の最高傑作として知られている作品の拓本です。例えば1行目、上から3文字目の「宮」の字の「口」をご覧ください。口の1画目と2画目、何も考えないで書いたら1画目と2画目をくっつけてしまうと思いますが、こちらでは1画目と2画目が絶妙に離れています。この絶妙の離れ具合で「口」の風通しがよくなり、「宮」の字全体の美しさが際立ってくるように思います。このように極めて緻密に組み立てられた文字に要注目です。

見どころその2 
拓本を見比べる

本展では拓本の作品を数多く展示しています。拓本は石碑などに刻んである文字を写し取ったものですが、碑面は時間とともに次第に摩滅、損傷していき、写し取った時期によって、同じ作品の拓本でも文字の様子が変わってきます。その違いを見比べて、時の流れを感じることもおすすめです。



先ほど紹介した九成宮醴泉銘の拓本数件展示しています。ぜひ違いを見比べてください


見どころその3
情感の発露に触れる

美しく整った楷書もおすすめですが、筆者の感情がほとばしる書もおすすめです。



重要文化財 行書李白仙詩巻[ぎょうしょりはくせんしかん](部分) 蘇軾[そしょく]筆 北宋時代・元祐8年(1093)大阪市立美術館蔵

蘇軾は宋時代を代表する文人士大夫ですが、顔真卿の書をよく学びました。正直言って、楷書と比べると読みづらいとは思います。しかしながら、独特の右肩上がりの書風は筆力に富み、躍動感が溢れていて、筆者は何を思いながらこの作品を書いていたのかな、筆者はどんな人なのかなと、思いを馳せることで、何が書いてあるか正確に読めなくても作品を楽しめると思います。

見どころその4
天下の劇跡、祭姪文稿[さいてつぶんこう]!



祭姪文稿 顔真卿筆 唐時代・乾元元年(758) 台北 國立故宮博物院蔵 展示風景

そしてなんといっても本展の最大の見どころは、台北の國立故宮博物院から初来日の祭姪文稿です。昨年7月に行った報道発表会でもこの作品について紹介しましたが、思いの揺れを示す生々しい推敲の跡、悲痛と義憤に満ちた情感が溢れた紙面から顔真卿の思いが感じられるかのようです。祭姪文稿の現代語訳は展覧会公式ウェブサイトからご覧いただけますので、祭姪文稿の物語を知ってから、実際の作品をご覧になることもおすすめいたします。

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」の会期は2月24日(日)までです。
平成最後の「顔真卿」、ぜひお見逃しなく!

カテゴリ:2018年度の特別展

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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年01月22日 (火)

 

王羲之書法の残影-唐時代への道程- その1

年明け早々、トーハクは書の展覧会はなざかり。平成館では特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」が、東洋館8室では書道博物館との連携企画「王羲之書法の残影-唐時代への道程-」が、それぞれ絶賛開催中です!

さて、タイトルを見てすでにお気づきかもしれませんが、実はこの2つの展覧会、すごーく密接な関係にあります。王羲之が活躍した東晋時代と、顔真卿が活躍した唐時代は、書が最も高い水準に到達したツインピークスであり、数多くの名品が誕生しました。この東晋と唐とを結ぶ架け橋となるのが、439年から589年までの150年に及ぶ南北朝時代です。
「王羲之書法の残影-唐時代への道程-」では、この南北朝時代の書を中心に、王羲之・王献之から唐時代までのみちのりをたどりながら、唐時代の華やかな書が生まれたワケを解き明かしていきます。そして「顔真卿 王羲之を超えた名筆」をご覧になっていただくと、より理解が深まる、という仕組みになっているのです。

それでは、連携企画「王羲之書法の残影-唐時代への道程-」の内容を、章ごとにチラッと紹介しましょう。題して、東晋時代と唐時代をつなぐ虹の架け橋、珠玉のきらめき!


第1章 王羲之・王献之とその周辺
王羲之は、先進的な書体の中に深遠な表現を盛り込み、当時の書の水準を格段に引き上げました。その息子である王献之もまた、父に負けないくらい華やかな表現を得意としました。父子は東晋時代を代表する二大能書として、後世に多大な影響を与えます。

定武蘭亭序-呉炳本- 王羲之筆
これぞ天下第一行書!
定武蘭亭序-呉炳本-(部分) 王羲之筆
東晋時代・永和9年(353)
東京国立博物館蔵(東博全期間展示)



第2章 南朝の書
南朝では、宋・斉・梁・陳の4つの王朝が興亡し、政治的にも文化的にも東晋の影響を受け継いでいました。宋・斉では王献之がもてはやされましたが、梁の武帝が王羲之を評価して以降、王羲之の書がナンバーワンに返り咲きました。

草書栢酒帖(部分) 王慈筆
世の中は王献之モード!
草書栢酒帖(部分) 王慈筆
宋~斉時代・5世紀
東京国立博物館蔵(東博全期間展示)



第3章 北朝の書
北朝では、北魏の王朝が長い間君臨しました。北魏の書は、洛陽遷都のあとさきで大きな変貌を遂げます。洛陽遷都後は漢化政策が推し進められ、先進的な南朝の書法を取り入れながら、野趣あふれる力強い理知的な書を生み出しました。

牛橛造像記(部分)
龍門造像記のきらめき
牛橛造像記(部分)
北魏時代・太和19年(495)
東京国立博物館蔵(東博全期間展示)



第4章 肉筆にみる書風の変遷
20世紀初頭、敦煌などから大量の肉筆写本が発見され、楷書が形成される過程をつぶさにみることができるようになりました。南朝の肉筆は、王羲之の影響が色濃い優雅な書風、北朝の肉筆は雄偉で構築性に富んだ書風です。

大般涅槃経巻第四十(部分)
肉筆もやっぱり龍門っぽいです
大般涅槃経巻第四十(部分)
北魏時代・正始2年(505)
台東区立書道博物館蔵(書博後期展示)



第5章 隋から唐へ
陳を滅ぼして天下を統一した隋王朝は、北朝の出身者が多くを占めていましたが、書法を重視した隋においては、南北それぞれの書風の良さが認識され、両者の書風は急速に融合します。そして唐の太宗皇帝のもとに、極めて高いレベルの書法が出現するのです!

龍蔵寺碑(部分)
南と北が融合っ!
龍蔵寺碑(部分)
随時代・開皇6年(586)
台東区立書道博物館蔵(書博全期間展示)


…さて、この続きを知りたいかたは、ぜひ「顔真卿 王羲之を超えた名筆」もご一緒にご鑑賞ください!唐の都がなぜ世界の中心となりえたか、そのヒミツがきっとわかります。

王羲之書法の残影イラスト

 

図録 唐時代への道程

図録 
王羲之書法の残影-唐時代への道程-

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:1,000円(税込)
ミュージアムショップにて販売
※台東区立書道博物館でも販売しています。

図録 唐時代への道程

図録 
王羲之書法の残影-唐時代への道程-

編集・編集協力:台東区立書道博物館、東京国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
定価:1,000円(税込)
ミュージアムショップにて販売
※台東区立書道博物館でも販売しています。


週刊瓦版

台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。トーハク、書道博物館の学芸員が書いています。展覧会を楽しくみるための一助として、ぜひご活用ください。
 

「顔真卿    王羲之を超えた名筆」チラシ


関連展示
特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」2019年2月24日(日)まで
東京国立博物館平成館にて絶賛開催中!

 

カテゴリ:特集・特別公開中国の絵画・書跡

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posted by 鍋島稲子(台東区立書道博物館主任研究員) at 2019年01月18日 (金)