変わらないものに、ありがとう
近世絵画を専門にしております研究員の小野真由美と申します。
いまは出版企画室で、さまざまな図録や『MUSEUM』の編集などにたずさわっております。
いままで手がけた本。どれも思い入れがあります。
東京藝術大学に在学中、何度となく訪れたトーハクの展示風景は、いまでも心に焼き付いています。
その頃の展示風景の記憶は、必ず陶磁のイメージからはじまります。
その記憶はいつも志野茶碗の柔らかく光をすい込み、内側から輝くような美しさに心を奪われる瞬間からはじまります。
そして、ゆっくりゆっくりと、静かな会場をめぐって、厳しく研ぎ澄まされた古筆のイメージへとたどりつきます。
その贅沢な時間は、忘れがたいイメージの堆積となって、いまでも私の大切な宝ものとなっています。
(その頃は、トーハクで働くことになるとは、夢にも思っていませんでした…)
きっとこんな何気ない記憶を、多くの人々と共有させていただいているのだと思います。
そして、まだトーハクを訪れたことのない小さなお子さんや、旅の途中に立ち寄ってくださる諸外国の方々などをはじめ、
無限につづく(と願っています)トーハクへのご来館者のみなさまに、
作品をみつめる静かな時間の記憶を、もっともっと素晴らしいかたちでご提供しなければ、と思います。
国宝 花下遊楽図屏風 狩野長信筆 17世紀 東京国立博物館蔵
(2013年3月19日(火)~2013年4月14日(日) 本館2室・国宝室にて展示予定)
この作品に心うばわれ、生涯の研究テーマとなりました。
変わらないものはないのかもしれません。
トーハクもつねに、よりよい博物館をめざして、変化しつづけています。
そのなかで「変わらないもの」があるとすれば、そのような何かに「ありがとう」と伝えたいです。
いつまでも美しく、強く、ゆるぎない文化財の価値を伝え残していくことに、微力ながら日々精進していきたいです。
140年間のご来館者みなさまに、心から感謝しながら…。
この場所も、変わらないもののひとつ。
カテゴリ:2012年12月
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posted by 小野真由美(出版企画室) at 2012年12月09日 (日)