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【あそびば☺とーはく!】大学生と博物館職員が考えた、東京国立博物館の未来

 2026年1月16日(金) から3月1日(日)まで、本館特別5室にて開催した「あそびば☺とーはく!」の関連イベントとして、大学生と当館職員が気兼ねなく意見を交わす企画【シリーズ「わたしの場所」 とーはくは「サードプレイス」? ~学生とのびのび語ろう~】を、2月27日(金)に開催しました。 

本イベントは、昨年度の「あそびば☺とーはく!」(2024年11月8日(金)~12月8日(日))でご縁が始まった、早稲田大学の博物館支援サークル「ミュゼさぽ」(以下、ミュゼさぽ)とともに企画したものです。 

議論を重ねる中でたどり着いた今回のトークテーマは「サードプレイス」です。サードプレイスとは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグ(Ray Oldenburg)が提唱した概念で、自宅(第1の場所)や職場(第2の場所)とは異なる、心地のよい「第3の場所」を意味します。 

現在、当館は「東京国立博物館 2038ビジョン」を掲げ、様々な取り組みを進めています。その目標の一つが「みんなが来たくなる博物館」になることです。当館が多くの人にとっての「サードプレイス」となるためには、さらなるアップデートが求められています。 
 
しかし、それは博物館職員だけで実現できるものではありません。より多くの人に愛される博物館となるためには、幅広い属性をもった声に耳を傾けることが不可欠です。本イベントは、そのような考えのもと企画されました。 
 
その後、議論を重ねていく中で、より多様な視点を取り入れるため、ミュゼさぽから「参加する大学サークルをもう一つ増やしてはどうか」という提案がありました。その結果、法政大学児童文化研究会(以下、児文研)の皆さんにもご参加いただくこととなり、より多角的なクロストークが実現しました。 
 
イベント当日は、会議室でのオリエンテーションから始まりました。職員から当館および「あそびば☺とーはく!」の概要を紹介した後、ミュゼさぽより「サードプレイス」に関する説明がありました。また、ミュゼさぽにご用意いただいた、サードプレイスに関するキーワードを記したメモ紙を配布したことで、オリエンテーション後の館内見学がより充実したものとなりました。
 
 
会議室で事前オリエンテーションを行っている様子

約1時間半の自由見学が終わり、参加者全員が「あそびば☺とーはく!」の会場に集合して会場内を見学したのち、クロストークを実施しました。参加者は、ミュゼさぽ10名、児文研10名、当館職員が約10名の計約30名で、大変賑やかなイベントとなりました。これほど多くの大学生を招き、さらに様々な部署の職員が参加するイベントは、当館としても非常に珍しい試みです。多様な視点をもつ参加者が一堂に会し、活発に意見交換ができたことは、「あそびば☺とーはく!」ならではの成果だと改めて感じました。 

トークは前半と後半の二部構成で行いました。前半では、ミュゼさぽ・児文研・当館職員をバランスよく5つのグループに分け、密度の高いディスカッションを実施しました。後半では全員が再び集合し、各グループのファシリテーターが議論の内容を発表することで、全体共有を行いました。
議論では、博物館を「サードプレイス」にするための施策に加え、館内を見学した時の率直な感想も数多く寄せられました。なかでも、私にとって特に印象的だったのは、「立場の違いによって、博物館の受け取り方や意味が大きく変わること」、そして「学生との協同によって、職員だけでは気づきにくい新たな着眼点が生まれたこと」の二点でした。 
 
 
前半のグループディスカッションの様子①
 
共通して指摘されたのは、博物館という空間がもつ印象についてでした。「格式高い・難しい・厳か・威圧感」といった先入観は、実際に訪れてみると必ずしも当てはまらないものの、普段あまり博物館に足を運ばない人々にとっては依然として根強く残っているようです。 
そのような印象を和らげる方法として、博物館好きのミュゼさぽからは「展示の改善」という視点でいくつかの提案があり、児文研からは「体験型コンテンツの拡充」という提案が示された点が興味深く感じられました。 

ミュゼさぽのように、歴史や文化に関心が高く、日頃から博物館を利用する層にとっては、「作品」や「展示」、「展示解説」そのものが重要な要素であることが明らかになりました。すなわち、「知識」を得る機能が強く求められているといえます。具体的には、中学生を想定したわかりやすい内容で、かつ「自分ごと」として捉えられるような解説戦略を図ることで、より多くの来館者が展示を楽しめるのではないかという提案がありました。また、多言語対応が充実している点については、国際的な視点に立った包摂的な姿勢が感じられるという評価も得られましたが、難解な専門用語など、「わからないものが、わからないまま終わる」状況を防ぐための工夫が求められました。 
 
 
前半のグループディスカッションの様子②
 
一方、児文研からは、「経験」と「教育」という博物館の機能に焦点を当てた意見が出されました。本館1階の体験型展示スペース「日本文化のひろば」や、東洋館3階の「オアシス」など、展示室とは異なる雰囲気の体験が味わえる空間が非常に有効であるという感想が述べられました。こうした空間は、来館者がリフレッシュできるだけでなく、コミュニケーションのきっかけを生み出す場として、居心地の向上に大きく寄与していると考えられます。さらに、展示室内にハンズオン資料を増やすことで、子どもや障害のある方を含め、誰もが身体感覚を通じて理解を深められる仕組みが必要であるという意見も挙げられました。 
 
そのほか、「会話」を促す新たな提案も出されました。「会話」はサードプレイスの条件の一つでもありますが、「静粛にしなければならない」という固定観念が来館者の心理的な負担になっているのも事実です。その対策として挙げられた「庭園」の活用案や、敷地内のベンチの配置換えは、いずれも新鮮なものでした。庭園での気軽な会話を促すコンテンツの開発および施設面の整備に加え、ベンチの配置によって自然に視線や言葉が交わされる環境づくりは、鑑賞体験をより豊かなものへと変えていきます。 

このような気づきは、日々博物館に勤務する職員にとっては、当たり前になっているがゆえに見落としがちなものでもあります。来館者にとっても、博物館にとっても、他者との「会話」は何より重要なカギであると改めて実感しました。 
 

後半に行われた全体での意見交換の様子
 
来館者と言ってもその属性はさまざまで、100人いれば100通りの博物館像があるといえるでしょう。一概に論じることはできないですが、「みんなが来たくなる博物館」を実現するためには、その対象を具体的に設定した取り組みを積み重ね、博物館の視野を徐々に挟角から広角に広げていくことが重要だと考えます。「あそびば☺とーはく!」は、その長い旅の第一歩だったかもしれません。 
 
本イベントは当館にとっても非常に挑戦的な試みでした。この貴重な経験を通して得られた気づきや発見は、大変意義深いものです。できるだけ多くの人々の意見を聴取し、これからの博物館運営に活かすことは、もう一つのビジョンである「共に創る博物館」の実現に欠かせないプロセスです。本イベントが、そのビジョンに近づく第一歩となることを期待しています。 

 
※ミュゼさぽのブログはこちら 

 

カテゴリ:あそびば☺とーはく!

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posted by 朴 祥炫(国際交流課) at 2026年05月11日 (月)