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特別企画「韓国美術の玉手箱」その2 高貴なる美意識の結晶、高麗青磁

現在開催中の日韓国交正常化60周年記念 特別企画「韓国美術の玉手箱―国立中央博物館の所蔵品を迎えて―」(4月5日まで開催中)は、大きく高麗時代と朝鮮時代の2つの章から構成されています。
今回は、工芸を担当する三笠より、第1章「高麗――美と信仰」でご覧いただける韓国国立中央博物館所蔵の金銀器と高麗青磁の魅力について紹介いたします。


第1章「高麗――美と信仰」展示風景

高麗時代(918~1392)は、中国の影響を受けながら、独自の仏教文化を開花させました。それに裏づけられたハイセンスな高麗の上流階級者たちを魅了したのが、金銀器と青磁のうつわです。高麗では仏教信仰を礎に金属工芸が大きく発展したといわれていますが、金属は後世に鋳直すことが多いため、伝世品はきわめて稀少です。
なかでも上質な金銀器は日本ではなかなか目にすることはできないと思います。今回、韓国国立中央博物館から高麗の王族や貴族たちが手にした、たいへん貴重な作品をお借りすることができました。花びらをかたどり、うつわの内外に細かな装飾を刻んだ皿や盃に、当時の人びとの洗練された暮らしの一端をみることができるでしょう。
 

 
「福寧宮房庫」銘 銀製花形皿(ふくねいきゅうぼうこめい ぎんせいはながたさら)  高麗時代・12世紀 韓国国立中央博物館
会場では、縁にほどこされた「福寧宮房庫」の銘がちょうど手前に見えるように展示されています
 
そして、華麗な金銀器と歩みをそろえるように発展したのが青磁です。
青磁とは、窯に燃料を連続して投入し、空気をできるだけ遮断する焼成法によって、素地と釉薬に含まれる鉄分が酸素を奪われ、 還元されて青く見えるやきものです。中国で生まれ、唐時代末には江南の越窯(えつよう)で皇帝や貴族が手にする上質の青磁が完成し、「秘色(ひしょく)」と呼ばれました。この越窯の技術を直接的に取り入れて、高麗青磁は10世紀頃に生産が本格化し、12世紀には最盛期を迎えました。その窯址(かまあと)は、現在の韓国南西部を中心に、半島各地から見つかっています。とくに優品の生産で知られるのが、全羅南道康津(チョルラナムドカンジン)や全羅北道扶安(チョルラプクトプアン)一帯です。
 
高麗青磁の魅力は、まるで吸い込まれそうな、青緑色を帯びたガラス質のなめらかな釉調にあります。北宋末に中国から派遣された徐兢(じょきょう)という官吏が、『宣和奉使高麗図経(せんなほうしこうらいずきょう)』という史書に、高麗にも「翡色(ひしょく)」と呼ばれる美しい青磁があるとその驚きを記し、当時の皇帝や人びとに伝えたことはよく知られています。
 

青磁十二弁花形皿(せいじじゅうにべんはながたさら) 高麗時代・12世紀 韓国国立中央博物館
素地はとても薄く、金属器を意識した様子がうかがえます。釉調も安定した発色で、最盛期の粋ともいうべき作品です
 
ところで、高麗青磁の成立に大きな影響を与えた中国の青磁は、基本的に文様をほどこさず、青い色や玉のような釉薬の質感を追究したのに対して、高麗では次第に線彫りや透彫り、象嵌(ぞうがん)による器面装飾を究めるようになります。同じ青磁でも、文化の土壌が異なると、美しさの目指す先も大きく異なるという点が興味深いですね。
とくに、素地に線刻やスタンプで文様を彫りあらわした部分に黒や白の土を埋め込んで、そのうえから青磁釉をかけて焼き上げる象嵌青磁は、半島特有のもので、繊細かつ情感豊かな表現が魅力です。

青磁象嵌山水人物文扁壺(せいじぞうがんさんすいじんぶつもんへんこ)  高麗時代・13~14世紀 韓国国立中央博物館

最近、私は鎌倉から出土した、黒と白の象嵌文様がほどこされた高麗青磁の小さなかけらを拝見しました。それが見つかった場所は、執権(しっけん)・北條時頼(ほうじょうときより)によって建長5年(1253)に創建され、鎌倉五山の一位に列せられた建長寺です。建長寺の敷地からは、中国や日本で焼かれた陶磁片が大量に出土していますが、高麗青磁はきわめて稀少です。日本国内では、鎌倉以外でも高麗青磁は出土していますが、その数は決して多くはありません。
一方で近年、中国でも杭州(こうしゅう)や上海(シャンハイ)、寧波(ニンポー)などの都市遺跡から、高麗青磁の出土が報告されています。いまから700年ほど前、元の至治3年(1323)頃に寧波から日本の博多へ向かう途中に韓国の新安沖(しんあんおき)で沈没した船の引揚資料にも、わずかながら上質な高麗青磁が積載されていました。
 

新安沖沈没船積載の高麗青磁(出典:韓国国立中央博物館  www.museum.go.kr/MUSEUM/contents/M0502000000.do?schM=view&searchId=search&relicId=4657)
注)今回の当館での展示には出品されていません
 
高麗だけでなく、中国や日本の上流階級者たちをも魅了した青磁。東アジアの文化交流の歴史に想いを馳せながら、ぜひこの特別企画「韓国美術の玉手箱」をお楽しみください。

カテゴリ:特別企画

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posted by 三笠景子(東洋室長) at 2026年03月31日 (火)

 

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