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「クレオパトラとエジプトの王妃展」王妃のプロフィール(4)~クレオパトラ~

「クレオパトラとエジプトの王妃展」で注目の王妃を紹介するシリーズの第4回です。
今回のヒロインは、展覧会のタイトルにも登場するクレオパトラ。
彼女は「絶世の美女」「悲劇の女王」と呼ばれるなど、魅力あふれる女性でした。
そのため死後も彼女を題材にした数多く彫像や絵画、小説や映画などが作られています。ごく最近でも某ファストファッションブランドのCMでのなかで、香椎由宇さん演じるクレオパトラが三大美女のひとりとして登場しています。

実はクレオパトラの名前をもつ王妃が歴史上数人いることをご存知でしょうか?
一般にいうクレオパトラは、クレオパトラ7世を指しています。
クレオパトラ7世は、プトレマイオス12世の娘として紀元前69年に生まれました。彼女が生きた時代のエジプトは、プトレマイオス朝エジプトとも呼ばれ、アレクサンドロス大王の東方遠征に従った将軍のひとり、プトレマイオスが、大王の没後、王を宣言して独立したギリシア系の王国でした。
この王国の最後の女王がクレオパトラ7世です。

 
(左)クレオパトラ
ローマ出土
プトレマイオス朝時代
クレオパトラ7世治世(前51~前30年)
ヴァチカン美術館蔵
Photo(C)Vatican Museums. All rights reserved
クレオパトラの代表的な彫像のひとつです。いわば定番中の定番のクレオパトラ像、
頭には幅の広い帯状の冠を被っています


(右)クレオパトラ
出土地不詳
プトレマイオス朝時代(前1世紀中頃)
トリノ古代博物館蔵
(C)Archivio Soprintendenza per i Beni Archeologici del Piemonte e del Museo Antichità Egizie
こちらの彫像は、近年クレオパトラ像として指摘された作品です

これらふたつの彫像は、いずれもギリシア様式の特徴をもつ王妃の像ともいえます

 
クレオパトラ
出土地不詳
プトレマイオス朝時代(前200~前30年頃)
メトロポリタン美術館蔵
Photo(C)The Metropolitan Museum of Art, Dist. RMN-Grand Palais / image of the MMA
3匹の聖蛇ウラエウスがつく冠はエジプト風、巻き髪のヘアスタイルはギリシア風のクレオパトラ像。
ギリシア系の王国の女王であり古代エジプトの女王、という両面をあわせもつクレオパトラをよく表わしています



父王がなくなった紀元前51年、クレオパトラは弟プトレマイオス13世とともに共同統治を行いますが、弟はまだ幼く歳が離れていることもあって、実際は彼女の単独統治といえるものでした。
クレオパトラ女王の誕生です。
しかし、彼女は弟の支持者によって国を追われてしまいます。
この姉弟の権力闘争のなかで登場するのが、ローマの英雄カエサルです。
クレオパトラはカエサルを後ろ盾とすることで、この争いに打ち勝ち、再び女王の座に返り咲きます。
ところが、カエサルの突然の暗殺によって、彼女は物心両面の支えを失います。
新たにカエサルの副官であったアントニウスと関係を結びますが、後にローマ帝国初代皇帝となるオクタウィアヌスにアクティウムの海戦で敗れ、紀元前30年に自らの短い生涯を閉じました。

 
クレオパトラとアントニウスの銀貨
シリア出土
プトレマイオス朝時代
クレオパトラ7世治世(前51~前30年)
古代オリエント博物館蔵
銀貨の表と裏に表わされたクレオパトラ(写真左)とアントニウス(写真右)は、二人の親密な関係を示しています。
当時のコインは民衆に王の姿を伝えるために、忠実に表わされました



ここまで紹介してきたクレオパトラゆかりの作品と、みなさんが思い浮かべるクレオパトラの姿と違いはありませんか?
私たちがよく知るクレオパトラのイメージは後世に創られたものです。
西欧諸国ではルネサンス以降、旧約聖書の逸話を題材とする絵画が描かれ始めます。
また古代もまた題材として選ばれました。
17・18世紀になると西欧諸国のエジプトへの進出とともに、古代エジプトへの関心とあこがれは高まりをみせます。
そのようななか、美しさと知性そして波乱の人生を送ったクレオパトラは、彫像や絵画、小説の格好の題材として選ばれ、物語の主人公として新たに生まれ変わったのです。


オクタウィアヌスにカエサルの胸像を示すクレオパトラ
ポンペオ・ジローラモ・バトーニ筆
1755年か
ディジョン美術館蔵
(C)Musée des Beaux-Arts de Dijon. Photo Hugo Martens
クレオパトラがカエサルの胸像を前にし、彼との親交を語ることでオクタウィアヌス(後のローマ帝国初代皇帝アウグストゥス)の心を解こうする場面です。
クレオパトラは描かれた当時の衣装に身を包み、気品に満ちた姿で描かれています


 
クレオパトラ
ダニエル・デュコマン・ドゥ・ロクレ作
1852~53年
マルセイユ美術館蔵
(C)Musées de Marseille / photo Jean Bernard
逸話をもとにクレオパトラの死の場面を象徴的に表わした像。胸をあらわにした彼女の右腕には毒蛇が絡みついています。
彼女は古代エジプトの女王としてではなく、妖艶な美女として表現されました



ぜひ本展で、古代エジプト最後の女王として君臨したクレオパトラの姿とともに、後の世で物語や伝説のなかで永遠の命を得たクレオパトラの姿を、あわせてお楽しみください。

カテゴリ:研究員のイチオシ2015年度の特別展

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posted by 品川欣也(特別展室主任研究員) at 2015年07月07日 (火)