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お待たせしました。特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」開幕だほ!



ほほーい!ぼくトーハクくん。特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」がついに開幕したほ!

2020年の夏に開幕するはずだったけど、延期になって、やっと開幕となりました。皆様大変お待たせしました。

ユリノキちゃん、早く会場に行くほ! ぼくがユリノキちゃんの分まで事前予約しておいたほ。

さすがだね、トーハクくん。さっそくギガがお出迎えしてくれているわ。

鳥獣戯画 エントランスバナー 写真
バナーだほ!

ポップな雰囲気で、わくわくするほ!

まずは今から400年程前に鳥獣戯画を写した模本と国宝「鳥獣戯画 甲巻」をスクロールしている映像がある部屋から始まるわ!

鳥獣戯画 スクロール動画 写真
本物を見る前に映像で予習ができるほ

次の部屋は、皆様お待ちかね、国宝「鳥獣戯画」の部屋ね。ここで国宝の4巻をすべてみることができるわ。

国宝「鳥獣戯画」は4巻もあるほ? カエルさんとウサギさんが出てくるものだけかと思っていたほ。

国宝「鳥獣戯画」は全4巻あるのよ。トーハクくんが言っているのは、みんな大好きな「甲巻」のことだね。
ほかには、日本にいる動物と、外国の動物や空想の動物が描かれた動物図鑑のような「乙巻」。
前半は人物戯画、後半は動物戯画が描かれた「丙巻」。
二重のパロディとヘタウマに注目、最後まで飽きさせない「丁巻」があるのよ。

ほーすごいほ。でも2015年の特別展「鳥獣戯画─京都 高山寺の至宝─」では前半部分と後半部分を途中で巻き替えていて、半分ずつしか見れなかったほ。今回はどうなんだほ。

いい質問だわ。今回は、全4巻、全場面を展覧会中一挙公開しているの。前半部分と後半部分を見比べたり、違う巻を見比べたりしながら、すべてを見ることができるのよ。

すごいほ。わくわくするほ! おや、なんだか博物館では見慣れない装置があるほ。空港とかでは見たことがあるほ。

鳥獣戯画 動く歩道 写真

トーハクくん、これも今回の大きなポイント、国宝「鳥獣戯画 甲巻」は動く歩道にのって鑑賞するのよ。

なんでだほ?

絵巻を、博物館の展示のように広げた状態で見ることは、昔の見方とは異なっているの。もともと、手元で少しづつ広げては巻いてを繰り返して見ていたのよ。

先の場面に何がくるかわからなかったほ?

そうよ。場面を動かしながら見ていたから、次はどんな場面がくるのかな、とわくわくしながら見ていたのよ。だから、絵巻のもともとの鑑賞方法を皆様に体験してもらいたいと思って、動く歩道を設置したのよ。

ほー。そのために動く歩道を設置するなんてすごいほ。

動く歩道のおかげで、みんな作品の近くで同じ時間で見ることができるね。

鳥獣戯画 動く歩道 写真
国宝「鳥獣戯画 甲巻」の待機列には18:30分以降はお並びいただけませんのでご注意ください

ほー、思ったよりゆっくり見ることができたほ。甲巻の次は、乙巻、丙巻、丁巻のコーナーだほ。鑑賞のポイントはなんだほ?

甲巻との線の違いを見比べたり、巻物前半と後半を見比べたり、自分が好きな動物を探したり、描かれた人々が何をしているのか想像したり、自由に楽しんでもらいたいわ。

鳥獣戯画 乙丙丁展示室 写真
乙巻、丙巻、丁巻の展示風景だほ!

鳥獣戯画 乙作品 写真
国宝 鳥獣戯画 乙巻 平安時代・12世紀 京都・高山寺蔵
空想上の霊獣、麒麟の場面

鳥獣戯画 丙作品 写真
国宝 鳥獣戯画 丙巻 平安時代~鎌倉時代・12~13世紀 京都・高山寺蔵
目比べ(にらめっこ)と腰引き場面

鳥獣戯画 丁作品 写真
国宝 鳥獣戯画 丁巻 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵
大木を運ぶ、木遣りの騒動に振り返る人々の場面


国宝「鳥獣戯画」満喫したほ~。第2会場にきたほ。断簡(だんかん)と模本のコーナーがあるほ。どんなコーナーか簡単に解説してほ。

断簡は、国宝「鳥獣戯画」の一部が本体から切り離され、掛け軸などに仕立て直されたものよ。模本には、国宝「鳥獣戯画」の本物では今は失われている場面も写されているの。
国宝「鳥獣戯画」の4巻と、これらの断簡と模本もあわせて、もともと存在していた「鳥獣戯画のすべて」を紹介するコーナーなのよ。

鳥獣戯画 断簡展示 写真
断簡の展示風景(第2会場)

鳥獣戯画 模本写真 写真
鳥獣戯画模本(住吉家旧蔵本) 巻第5 安土桃山時代・慶長3年(1588) 東京・梅澤記念館蔵

鳥獣戯画 全貌パネル 写真
国宝「鳥獣戯画」復原パネル

最後は、明恵上人と高山寺を紹介するコーナーよ。

国宝「鳥獣戯画」を持っている高山寺のことは知っているほ。明恵上人って誰だほ?

明恵上人はたくさん勉強して、修行を頑張った鎌倉時代を代表するお坊さんよ。その明恵上人が高山寺を鎌倉時代にたてなおしたのよ。

なんだかすごそうな人だほ。

修行のために右耳を切ったり、自分が見た夢の日記をかき続けたり、海で拾った石をお釈迦様から自分にたどり着いたものだと大切にしたりと、色々なエピソードがあるわ。

鳥獣戯画 夢記 写真
重要文化財 夢記 明恵筆 鎌倉時代・承久2年 京都・高山寺蔵 展示期間:4月13日(火)~5月9日(日)

あっ、すごいリアルなお像があるほ。

鳥獣戯画 明恵上人像 写真
重要文化財 明恵上人坐像 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵

28年ぶりにお寺の外で公開したのよ。まるでそこにいるような存在感だね。

みてみて、これなんだほ?

鳥獣戯画 たつのこ 写真
龍子 京都・高山寺蔵

これは乾燥した状態のタツノオトシゴだわ。明恵上人はお釈迦様にあこがれていて、天竺(てんじく:インドの旧名)への旅を計画していたの。この「龍子」(たつのこ)も異国を象徴するものとして、明恵上人が大切にしていたのかもしれないのよ。

鳥獣戯画 子犬 写真
重要文化財 子犬 鎌倉時代・13世紀 京都・高山寺蔵

「子犬」も明恵上人が手元に置いて、かわいがっていたものだったそうよ。

見ごたえ十分だったほ。もう1回見たいほ。

トーハクくん、90分以内を目安に観覧するようお願いが出ているから、守りましょうね。

そうだったほ!それなら図録で展覧会を振り返るほ。

図録もすごいのよ。国宝「鳥獣戯画」の全4巻の全場面がほぼ原寸大で載っていて、鳥獣戯画の謎に迫る最新研究だけでなく、冒頭には入門編、応用編の2つのステップの解説があって、鳥獣戯画をより楽しめるようになると思うわ。

鳥獣戯画 図録 写真
図録 3,000円(税込) A4判、474ページ

この図録の厚さ!!すごいほ。最後までギガアツイ!展覧会だったほ。

トーハクくん、会場の外、平成館1階には高山寺紹介コーナーと8K映像コーナーがあるのよ。あと、本館特別1室・特別2室・14室では特集「鳥獣戯画展スピンオフ」が開催されているから、それも見ましょうね。


タイトルディスプレイ


館14室展示風景


藍釉兎 中国 唐時代・8世紀 横河民輔氏寄贈 東京国立博物館蔵 本館14室にて6月6日(日)まで展示

ユリノキちゃん!平成館企画展示室では4月27日(火)から5月30日(日)まで、親と子のギャラリー「動物のうごき」が開催されるから、それも要チェックだほ!

ほかにも、「博物館で動物めぐり」というタイトルで、本館、東洋館、平成館考古展示室の各展示室でも動物をモチーフにした作品を展示しているのよ。

動物にたくさんあえるほ!トーハク、ギガアツすぎるほ!ユリノキちゃん、二人で最後のあいさつするほ!

特別展「国宝 鳥獣戯画のすべて」は5月30日(日)まで、入場には事前予約が必要です!

カテゴリ:トーハクくん&ユリノキちゃん2021年度の特別展

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posted by トーハクくん&ユリノキちゃん at 2021年04月16日 (金)

 

トーハクの桜 今年も巡ってきました「博物館でお花見を」開催中

 

「博物館でお花見を」メインビジュアル

トーハク春の恒例企画「博物館でお花見を」を3月16日(火)~4月11日(日)で開催しています。
昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、中止となりましたので、2年ぶりの開催となります。

今年は、新型コロナウイルス感染症予防のため残念ながら、例年会場で開催しているワークショップ等の関連イベントは見合わせとなりましたが、桜を題材とした作品の展示や、アプリで参加する期間限定のスタンプラリーなどをお楽しみいただけます。
今年の「博物館でお花見を」を楽しむポイントをご紹介します。

まずは、作品でお花見を楽しむ「本館桜めぐり」。
本館の各展示室では、桜にちなんだ様々な作品を展示しています。
該当作品のキャプションには桜マークが付いていますので、展示室でお気に入りの桜を見つけてみてください。

源氏物語図屛風(絵合・胡蝶)の作品画像
源氏物語図屛風(絵合・胡蝶) 狩野〈晴川院〉養信筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵
※本館7室にて4月18日(日)まで展示

『源氏物語』の一場面から。鮮やかな色彩や白く輝く桜が美しい、華やかで春らしい作品です。今年のキービジュアルに使われた作品です。


「振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様」作品画像
振袖 鶸色縮緬地桜藤菊尾長鳥模様 江戸時代・19世紀 阿部美代子氏寄贈 東京国立博物館蔵 
※本館8室にて4月25日(日)まで展示

桜をはじめとする、四季折々の花の折枝をふっくらとした刺繡で表しています
 

本館10室 浮世絵コーナーの風景画像
本館10室 浮世絵コーナー
※4月11日(日)まで展示

桜を描いた浮世絵がずらりと並びます。


「博物館でお花見を」対象作品を示す桜マーク
今年の桜マーク

例年、紙のシートで行っていたスタンプラリーですが、今年は「さくらスタンプラリー」と題し、「博物館でお花見を」開催期間限定で、当館公式鑑賞ガイドアプリ「トーハクなび」にて開催しています。

お手持ちのスマートフォンやタブレットなどの端末に「トーハクなび」をダウンロードしてご参加ください。
本館展示室内に設定されたスタンプラリーのポイントに行くと、その展示室にある作品にちなんだクイズが出題されます。
6つのポイントをまわり、すべてのクイズに正解した方は、期間限定でオリジナルのプレゼント画像をダウンロードできます。

※「トーハクなび」は最新のバージョンにアップデートしてください。
※「さくらスタンプラリー」について詳しくはこちらをご覧ください。
「さくらスタンプラリー」の詳細を見る

「さくらスタンプラリー」のイメージ画像

さくらスタンプラリーに参加している様子
スタンプラリーのポイントにて赤いスタンプマークを押すとクイズが表示されます

桜にちなんだ作品や桜をテーマにした俳句を投稿する、東博句会「花見で一句」はオンラインで募集しています。

「博物館でお花見を」開催期間中に当館ウェブサイトのフォームより応募できます。
入選作品は、当館ウェブサイトで発表し記念品を贈呈します。

※東博句会「花見で一句」について詳しくはこちらをご覧ください。
東博句会「花見で一句」の詳細を見る

東博句会「花見で一句」のイメージ画像
皆さまの素敵な一句をお待ちしております

当館では、作品の桜だけでなく本物の桜もご覧いただけます。
本館北側の庭園では、ソメイヨシノをはじめ、約10種類の桜が時期を変えて咲きます。
庭園は、工事のため部分開放となっていますが、4月1日(木)より全面開放予定です。

庭園風景
庭園風景

「博物館でお花見を」は4月11日(日)までです。トーハクならではの特別なお花見をお楽しみください。

 

博物館でお花見を

本館
2021年3月16日(火)~ 2021年4月11日(日)
「博物館でお花見を」のイメージ画像

 

 

カテゴリ:博物館でお花見を

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posted by 長谷川悠 (広報室) at 2021年03月26日 (金)

 

明時代の宮廷絵画とその系譜(2)――比べてたのしむ

東洋館8室で開催中の特集「宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡」(~4月11日〈日〉)は後期に入りました。
前回のブログ「明時代の宮廷絵画とその系譜(1)――緻密な描写をたのしむ」につづき、本ブログでは、「比べる」をキーワードに、本特集展示の楽しみ方をご案内します。
前回のブログ「明時代の宮廷絵画とその系譜(1)――緻密な描写をたのしむ」に移動する

本展のおすすめの並びの一つは、王諤(おうがく)筆「山水図軸(さんすいずじく)」、王世昌(おうせいしょう)筆「山水図軸」、朱端(しゅたん)筆「寒江独釣図軸(かんこうどくちょうずじく)」です。


山水図軸 王諤筆 中国 明時代 16世紀


山水図軸 王世昌筆 中国 明時代 16世紀


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆 中国 明時代 16世紀

  
右から
山水図軸 王諤筆 中国 明時代 16世紀
山水図軸 王世昌筆 中国 明時代 16世紀
重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆 中国 明時代 16世紀

 

この3作品には、次のような共通点があります。

・16世紀頃の宮廷画家が絹に墨と淡彩で描く。
・山水を描き、点景として人物を描きこむ。
・いわゆる「馬夏様式(ばかようしき)」に属する。

※馬夏様式=南宋時代の宮廷画家、馬遠(ばえん)、夏珪(かけい)を源流とする山水画様式。対角線で区切った片側にモチーフを寄せる構図、斧で切りつけたような墨線を用いた山石の質量表現(斧劈皴〈ふへきしゅん〉)を特徴とする。


では、相違点についてはどうでしょうか?

まず、描かれた季節について考えてみましょう。


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・積雪)
一番わかりやすいのは、朱端筆「寒江独釣図軸」の冬でしょう。
画面には全体にうっすらと墨が刷かれ、山や樹木の一部を白く塗り残すことで、雪の降り積もった様子が表わされます。
釣り人の笠や蓑、舟にも雪が降り積もっています。



山水図軸 王世昌筆(部分・紅葉)
王世昌筆「山水図軸」は、広葉樹にうっすらと赤茶色が塗られた紅葉の表現が確認できることから、秋と判断できます。



山水図軸 王諤筆(部分・柳)
王諤筆「山水図軸」は、やや迷いますが、枝垂れ柳の緑が美しいのは春から夏にかけてです。
柳の後ろには、靄がただよい、木々や建物の屋根がおぼろに見えています。
このような春霞を思わせる大気の表現から、春の景としたいと思います。


大気の表現に関心を移せば、最も印象的なのは王世昌筆「山水図軸」といえそうです。


山水図軸 王世昌筆(部分・風)
強い風に吹き散らされて、小枝や葉が宙に舞っています。
画面左側の余白には、淡墨の塗り残しで表わされた白い帯が斜めに幾筋も見え、山から吹き下ろす風の存在を伝えます。 


山水図軸 王世昌筆(部分・水面)
これを受けて水面が波立つ様子は、とがった筆線で表わされています。 
 


山水図軸 王諤筆(部分・水面)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・水面)
王世昌筆「山水図軸」と比べると、王諤筆「山水図軸」に描かれる、やわらかくおだやかな水の流れ、朱端筆「寒江独釣図軸」の、波一つ立たない静まりかえった水面も、それぞれ趣深く感じられます。


人物表現はどうでしょうか?


山水図軸 王諤筆(部分・人物)


山水図軸 王世昌筆(部分・人物)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・人物)
いずれも人体の構造をよくとらえた、描写角度に齟齬のない、きっちりとした表現です。
王諤と王世昌は、衣に打ち込みと強弱(肥痩)のはっきりした筆線を用いています。
王世昌の方が、若干、筆の速さが強調されているようです。
二人に比べると、朱端の衣の筆づかいは、どこか、たどたどしいですが、これは、王諤と王世昌の描く人物たちが、開放的に、空気に身をさらしているのに対し、朱端の人物は寒さに縮こまっているため、と解釈できるかもしれません。

三人の個性は、山石にほどこされた斧劈皴にも表われているようです。


山水図軸 王諤筆(部分・皴)


山水図軸 王世昌筆(部分・皴)


重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・皴)

    右から
山水図軸 王諤筆(部分・皴)
山水図軸 王世昌筆(部分・皴)
重要文化財 寒江独釣図軸 朱端筆(部分・皴)
一番おとなしく優等生的な斧壁皴は、王諤のもの。
王世昌のそれは、衣と同様、筆線の勢いが強調されます。
朱端は、おどるような、遊びのある斧壁皴です。

 

筆墨の主張の強さは、画面の大きさとも密接に関わっています。
王諤筆「山水図軸」は縦146.0cmですが、王世昌筆「山水図軸」は206.0cm、朱端筆「寒江独釣図軸」は171.9cmです。
画面サイズと表現との対応関係は、複製図版では何ともお伝えできませんので、後はぜひ、会場にて確認していただければ幸いです。 

宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡

編集・発行:東京国立博物館
定価:660円(税込)
カラー24ページ

各作品の詳細な説明については、こちらの小冊子もご参照ください。

 

カテゴリ:特集・特別公開中国の絵画・書跡

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posted by 植松瑞希(出版企画室) at 2021年03月23日 (火)

 

明時代の宮廷絵画とその系譜(1)――緻密な描写をたのしむ

東洋館8室では、特集「宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡」(前期:~2021年3月21日〈日〉、後期:3月23日〈火〉~4月11日〈日〉)を開催しています。


当館所蔵、寄託の中国絵画といいますと、まずは国宝の李迪筆「紅白芙蓉図軸」に代表されるような、宋時代、12から13世紀の作品が有名です。
しかし、実は明時代、15から16世紀の宮廷画家と、その系譜に属する画家たちの作品にも、かなりの優品がそろっています。
今回は、これらをまとめてご覧いただこうという特集になります。


東洋館8室 展示風景

大きな作品が多く、会場では、その迫力、「画面の圧」も楽しんでいただきたいのですが、このブログでは、さすが宮廷画家! と思えるような、緻密な細部描写をいくつかご紹介したいと思います。


1. 呂紀筆「四季花鳥図軸」


重要文化財 四季花鳥図軸 呂紀筆 中国 明時代・15~16世紀

呂紀(りょき)は、明時代の花鳥画を主導した画家で、日本にも大きな影響を及ぼしたことで知られます。 


重要文化財 四季花鳥図軸(春)(部分・鳩)

こちらは、その代表作「四季花鳥図軸(しきかちょうずじく)」四幅対の一部です。
鳩のクチバシや頭部、目の虹彩の部分などには繊細なグラデーションがかけられ、後頭部や肩の羽一枚一枚が丁寧に描かれています。
また、やわらかい墨の線によって一本一本描かれた羽毛が、鳩の全身をびっしりと覆っているのも確認できるでしょう。


重要文化財 四季花鳥図軸(春)(部分・桃)

こちらは咲き誇る桃の花。
さまざまな角度から表わされた花びらや葉には、やはり美しいグラデーションが見られます。
蕊(しべ)の描写も細やかで、蕚(がく)や葉の輪郭には墨と赤茶色が重ねられ、枝全体がほのかに紅く色づいている様子が再現されます。


2. 周全筆「獅子図軸」


獅子図軸 周全筆 中国 明時代・15世紀

「獅子図軸(ししずじく)」は、幅2メートル近い画絹いっぱいに父子の獅子が描かれた、豪壮な雰囲気の作品です。

 
獅子図軸(部分)
左=父獅子の顔、右=子獅子の顔上=父獅子の顔、下=子獅子の顔

迫力はあるけれども、画家の実感が伴わないせいか、どこかユーモラスでもある獅子たちの表情も見所ですが、


獅子図軸(部分・毛描)

たてがみや体毛に見られる、様々な種類の線描には、さすがの技巧が光っています。


3. 「売貨郎図軸」


売貨郎図軸 筆者不詳 中国 明時代・15~16世紀 石島護雄氏寄贈

貨郎は行商人のことです。
明時代の宮廷では、元宵節(げんしょうせつ、旧暦1月15日)の出しものとして劇団員が扮した華美な貨郎を描く主題が流行したようです。
この「売貨郎図軸(ばいかろうずじく)」は、宋時代絵画として伝わってきましたが、明時代宮廷画家によるものと推察されます。


売貨郎図軸(部分・貨郎と子ども) 筆者不詳 中国 明時代・15~16世紀 石島護雄氏寄贈

指に小鳥をとめた貨郎と、子どもたちが会話をしています。
子どもたちの美しい衣装も見所です。


売貨郎図軸(部分・屋台)

豪華な屋台の中には、多種多様な鳥が描かれ、鳥名を記した紙札がひるがえります。



売貨郎図軸(部分・蛙と猿)

画面手前には、片足はだしの腕白小僧が、サソリのついた棒で捕まえた蛙を片手にぶら下げて、走っています。
屋台の下にぶらさがった猿がそれを面白そうに眺めており、そのさらに下には、脱ぎ捨てられたくつが見えます。
あるいは猿がいたずらして、くつを隠したのかもしれません。


売貨郎図軸(部分・踊る子ども)

画面手前左には、腕をからませて踊っている子どもたちの姿も見えます。
今となってはこれがどのような遊びなのかわかりません。

この作品には、このような見る人の目をたのしませる仕掛けがちりばめられているのです。


特集「宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡」では、このほかにも、じっくり細部をご覧いただきたい作品が多く展示されています。
ぜひ会場で、明時代宮廷画家たちの画技をおたのしみください。

宮廷から地方へ――明時代の絵画と書跡

編集・発行:東京国立博物館
定価:660円(税込)
カラー24ページ

各作品の詳細な説明については、こちらの小冊子もご参照ください。

 

カテゴリ:特集・特別公開中国の絵画・書跡

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posted by 植松瑞希(出版企画室) at 2021年03月05日 (金)

 

「奥絵師(おくえし)」の仕事と門人教育

こんにちは、日本絵画担当の金井です。

現在本館2階で開催中の「木挽町狩野家(こびきちょう かのうけ)の記録と学習」に関連して、前回は模本の果たした役割についてご紹介させていただきました。
今回は、木挽町狩野家が務めた江戸幕府の「奥絵師(おくえし)」がどのようなもので、どのように弟子を育成していたのかをみていきたいと思います。
前回のブログ「模本たちの果たした役割」に移動する

江戸幕府の御用を務める絵師のなかで、最上位に位置するのが奥絵師です。旗本にも匹敵する身分で、将軍への直々のお目見えOK、世襲もOK。絵の代金である報酬(画料)のほかに、家来持つための給与も支給されていました。


江戸幕府の御用を務める絵師たちの序列



江戸幕府の奥絵師は、狩野探幽、尚信、安信の3兄弟から続く家柄にほぼ限られていました。探幽は鍜治橋に、尚信は竹川町(後に木挽町)に、安信は中橋に屋敷を拝領したので、それぞれ鍜治橋狩野家、木挽町狩野家、中橋狩野家と呼ばれています。
後に木挽町狩野家から分かれた浜町狩野家を加えたこの4家が奥絵師を名乗ることができました(※幕末には住吉家や板谷家も奥絵師になります)。

この奥絵師の筆頭を務め、画壇の中心的な役割を担ったのが木挽町狩野家です。


奥絵師の仕事は膨大です。まず一か月のうち、決まった日付に出仕(登城)し、「御絵部屋」と呼ばれる部屋に交代で詰めます。描くものは将軍のお好みの絵だけでなく、幕府から各大名家や朝廷、朝鮮国王への贈答品、姫たちの嫁入り道具、幕府役人たちへの褒美など多岐にわたりました。

ほかにも、全国の大大名から依頼される膨大な鑑定依頼をこなし、将軍やその子どもたちに絵を教え、江戸城や寛永寺の襖絵や壁画の作画やメンテナンスまで担当していました。
しかも江戸城は数年おきに火事に見舞われたので、それらを考えると、とんでもない仕事量です。画家であり、鑑定士であり、美術教育者であり、修理技術者でもあったわけです。


公用日記 (天保十二辛丑年秋冬)(部分) 狩野〈晴川院〉養信筆 江戸時代・天保12年(1841)
江戸城内で、第12代将軍・徳川家慶が見守るなか、大急ぎで襖絵を描く狩野〈晴川院〉養信とその兄弟・息子たち


これら膨大な仕事を当主だけでこなすことは不可能です。そのため各家は多数の弟子(=門人)を教育して組織的に対処していました。木挽町狩野家は常時5、60人の弟子を抱えていたといいます。
この大工房は「画所(えどころ)」と呼ばれ、弟子の育成、絵の鑑定、絵の製作という3本を柱としていました。

弟子によって絵の出来栄えに差があっては困るので、教育プログラムも組まれるようになります。ここでも登場するのが模本です。全国の大名からの推薦を受けた優秀な若者に、手本となる模本を繰り返し書写させ、技術を叩き込むことで、当主の用務を代行できる立派な「木挽町狩野家の絵師」を育成することを試みました。
 

木挽町狩野家の修学過程


上の図は、木挽町狩野家の弟子であった明治時代の日本画家・橋本雅邦(1835–1908)の回顧録をもとに作成した修業過程の図です。今の学校のように、課題をこなしてステップアップしていく様子がよくわかります。

一人前になった絵師たちは国許に戻り、各大名のお抱え絵師として活躍し、後人を育てました。そこからまた優秀な若者が推挙され、上京して木挽町狩野家で学ぶ……というサイクル生まれます。そのため、弟子たちも先祖代々の絵師、という家が少なくありません。先の橋本雅邦や、同じく明治時代に活躍した狩野芳崖もこのような家の出身です。
結果として狩野派の作画メソッドが全国に広まり、裾野が広がることで奥絵師の地位はますます上昇していくことになりました。


特集「木挽町狩野家の記録と学習」から2回に渡って、江戸時代の狩野派がどのように模本を使ってきたかなどをご紹介してきました。
普段は完成した「本画」を見ていただく機会が多いと思いますが、絵師たちが水面下で行っていた努力を、これらの模本類を通じて少しでも感じていただければ幸いです。

 

カテゴリ:特集・特別公開

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posted by 金井裕子(平常展調整室) at 2021年03月04日 (木)