屏風をたのしむ:初級編~まずは大きさに注目!(後編)
さて、ブログ「屏風をたのしむ(前編)」の続きです。
本館7室「屏風と襖絵」で2011年9月25日(日)まで展示中の作品は、
どんな視点から大画面を構成しているのでしょうか?
その例を順にみていきましょう。
<その1:ある一瞬の場面を大きく描く>
重要文化財「蔦の細道図屏風(つたのほそみちずびょうぶ)」 6曲1隻 深江芦舟筆 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
「伊勢物語」第九段の場面を描いた作品です。
都から関東地方へ下った在原業平が、駿河の宇津の山にさしかかったところ(蔦の細道)で、
偶然、顔見知りの修行者と出会います。
喜んだ業平は、その修行者に、都の愛する人に宛てた手紙を託すのでした。
画面は手紙を託された修行者が出発したところです。
「蔦の細道図屏風」部分
名残惜しそうに背中を見つめる業平の周りを、赤く染まった蔦が彩ります。
ただ、この第九段、実は旧暦5月のお話なのです。
なぜ、初夏の場面が紅葉の秋として描かれたのでしょうか? 謎が謎を呼ぶ作品です。
この屏風の場合は、6枚のパネルを繋ぎ合わせた画面をフルに使い、
ある一瞬を切り取ったような表現をしている一例といえます。
<その2:たくさんの小さな絵をたくさん貼り付ける>
「扇面散屏風(せんめんちらしびょうぶ)」 6曲1双 宗達派 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
こちらは、大画面を活かす方法の変化球。
扇絵をたくさん貼り付けた「扇面散屏風」です。
左右合わせて60面ものさまざまな場面の扇絵が貼られています。
部分「清水寺図扇面」
部分「平家物語図扇面」
この絵の画家は、俵屋宗達とその弟子たちと考えられています。
宗達は都で扇屋を営む、扇絵制作のプロでした。
室町時代から江戸時代にかけて、扇は人々の間で頻繁にプレゼントされるいわば贈答品で、
贈答者の要望に合わせてさまざまな画題の扇が作られています。
この扇面散屏風も、よく見ると、「伊勢物語」や「源氏物語」「平家物語」のほか、
上賀茂社での競馬や清水寺、野の秋草など、
祭礼、風景、花鳥といったさまざまな扇が集められていることがわかります。
部分「賀茂競馬図扇面」
部分「菊図扇面」
そしてさらに細部をよくみると・・・扇には折り目が見えません!
部分「源氏物語図扇面」
つまり、これは使っていた扇を貼り付けたのではなく、
はじめから屏風に貼り付けるために描かれた絵なのです。
もともと扇面散屏風は、使い終わった扇の絵を惜しみ、
屏風に貼り付けたのがはじまりと考えられています。
しかし、次第にその扇の取り合わせや雰囲気を楽しむようになり、
未使用の扇絵を貼り込んだ作品も制作されるようになりました。
この作品では、たくさんの扇を一度に観賞することができます。
これも、大画面を持つ屏風ならではの絵の楽しみ方の一つです。
<その3:やはり大パノラマでなくては!>
重要美術品「粟穂鶉図屏風(あわほうずらずびょうぶ)」 8曲1双 土佐光起筆 江戸時代・17世紀 個人蔵
こちらは、8枚のパネルを繋ぎ合せた高さ1メートルほどの、少し背の低い屏風です。
粟穂の揺れる岸辺で、かわいらしい鶉(うずら)たちが思い思いに過ごしています。
「粟穂鶉図屏風」部分
広々とした景色が広がる様子は、まるでパノラマ写真のようです。
屏風の前に立つと、あたかも自分が秋の野に居るかのような気分になります。
これも大画面ならではの効果です。
いかがでしたでしょうか?
屏風は季節や場所、用途に合わせて実にさまざまな種類が描かれています。
東京国立博物館では、季節がめぐるごとに、また異なる作品をご紹介いたしますので、
上野にお越しの際は、ぜひ当館の本館2階の7室まで足をお運びください。
カテゴリ:研究員のイチオシ
| 記事URL |
posted by 金井裕子(絵画・彫刻室) at 2011年09月02日 (金)