本館 14室
2016年6月7日(火) ~ 2016年7月31日(日)
象牙を彫刻することを「牙彫(げちょう)」といいます。ここでは、幕末期に流行した精巧な牙彫根付と、その伝統から発展した牙彫の置物を展示いたします。
根付は、印籠や煙草入などを腰に提げる際、紐の端につけた留め具です。本来は薬や貴重品、煙草などを持ち歩くための道具でしたが、時を経るにしたがい、身につける人の趣味を表わす格好のアクセサリーとなります。そのため、形や意匠、細工にさまざまな趣向を凝らした根付が作り出されました。とくに牙彫の根付には、巧みな彫刻技術によって人物や動物などを精彩に彫り表わした作品が、数多く見られます。
明治時代以降、洋装の普及もあり、根付は使われなくなっていきますが、その象牙を彫刻する技術により、牙彫の置物が制作されるようになりました。人物や動物などを主題とする置物には、根付と共通する表現も見られます。象牙彫刻の根付や置物は、来日した欧米人を中心に人気が高まり、早くも明治時代前期には牙彫置物が輸出工芸の花形となります。一時は彫刻の世界が象牙で真っ白になったといわれるほど、牙彫の置物が流行しました。明治期の牙彫置物の多くは欧米に渡り、日本国内に伝わったものは稀少ですが、当館には当時の万国博覧会に出品された力作が残されています。これらを中心として江戸時代から現代まで続く、象牙彫刻の伝統と展開をご覧いただきます。