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『至宝とボストンと私』 #1 蕭白

東洋美術の殿堂、ボストン美術館の史上最大規模の日本美術展がついに開幕しました。≪世界初公開≫の作品や、≪幻の国宝≫の里帰りなど、見どころが盛りだくさん。

これから9回にわたり、研究員に見どころについて聞いていきます。題して『至宝とボストンと私』。研究員は一体どんなところに注目しているのでしょうか?それぞれ担当した作品の前でインタビュー。第1回は本展覧会担当研究員のチーフ、絵画・彫刻室長の田沢裕賀さんと、巷で話題沸騰の「奇才 曽我蕭白」のコーナーを見てみましょう。


『深まる謎 ~雲龍図~』

雲龍図
雲龍図(うんりゅうず)
曽我蕭白筆 江戸時代・宝暦13年(1763)


広報(以下K):曽我蕭白「雲龍図」の前にやってきました。

田沢さんは東京国立博物館ニュース4・5月号の「ボストン美術館」展特集ページで、『(雲龍図と)対面したらどんな気分になるだろうか』と書かれていましたが、実際に対面してみていかがですか?

田沢(以下T):うーん…(しばらく沈黙。。)
こうやって全体を並べて見たのは初めてなんだけど、なんか繋がりが悪いんだよね。

K:えっ、たとえばどういうところですか?

T:龍の顔の向きやしっぽの位置などを見ると、体の動きに違和感がある。
この作品は元々寺院の襖に描かれていたと考えられているから、本来はこういうふうには並んでいなかったわけだけど。

K:どこにあったのですか?

T:おそらくは播州(現在の兵庫県)か伊勢あたりの寺院だったと思うけれど、はっきりとは分かっていない。
寺院にあったときには、顔の面としっぽの面とが向き合うように堂内に設置され、部屋の中をぐるっと龍が取り囲むような配置だったのではと考えています。
が、そういう配置だと仮定した場合、一番右側の襖に引手があってしかるべきなんです。が、引手の跡が無かったことが今回の修復で判明してしまった…。ますます疑問がわいてきたね。

雲龍図 一番右の襖部分

「このあたりに引手の跡があると思ってたんだけどなあ」(田沢さん)

K:雲龍をめぐるミステリーはまだまだ続きそうですね。
これだけ迫力のある龍をお寺で見た人はさぞ驚いたことでしょうね。

T:うん。このダイナミックさが蕭白の魅力だね。しっぽのあたりの波線とか、本当に気持ちよく描いているよ。しかし、ヘンな顔してるよね。


『雲龍図。だけじゃない!!』

T:あのね、アナタたち(広報担当)が雲龍図ばっかり主役に仕立てるから、雑誌でもなんでもこの作品ばかり注目してるけど、蕭白には他にも良い作品がたくさん来てるんだよ!

K:すみません、おっしゃるとおりです…

T:これなんか名品だね!

商山四皓図屏風

商山四皓図屏風(しょうざんしこうずびょうぶ)
曽我蕭白筆 江戸時代・18世紀後半

この作品は、中国・秦の始皇帝による圧政を避けて、商山に隠居した4人の白髪の老人を描いています。
この4人の在り方が中国の儒者にとって称賛の対象だったから、この画題で多くの作品が描かれました。
雲龍図に比べると小さいけれどスケールが大きいね。筆は乱暴だけど、勢いが良い!

K:たしかに着物の線など、ズバッとひといきに描いているように見えます。

T:そうでしょ。あと、作品の状態もすごく良いんだよね。
紙が焼けてしまうとどうしても貧相に見えてしまうけれど、これはとても綺麗に残っている。改めてこの作品の良さが確認出来たよ。


楼閣山水図屏風
楼閣山水図屏風(ろうかくさんすいずびょうぶ)
曽我蕭白筆 江戸時代・18世紀後半


T:この山水を描いた屏風は蕭白の代表作と言われる作品なんだけど、全体を見たときに、僕はなんだか違和感を感じる。
画面いっぱいにみっちり描きこむ、この蕭白のスタイルを踏襲して、左隻と右隻を別の人が描いたんじゃないかと思ったりもする。
実際には判断しがたいんだけど。

K:えっ!どういうことですか?

T:ごつごつした山が手前から奥に向かってのび、右隻から左隻へと道が続いているんだけど、連続した山水図としてはいまひとつまとまりがない。

K:私にはそんな風には見えないのですが…

T:右隻の左端と、左隻の右端を見てみてください。

楼閣山水図屏風 右隻部分    

楼閣山水図屏風 左隻部分       同右隻部分

山に描かれた点々が、どうも違うように見える。
左隻は、2点1組の点々が山の立体感を引き出すように、効果的に打たれているのに対して、
右隻の点々は大ざっぱで雑な印象。左隻ほどリズミカルではないし、集中力が感じられない。

K:点の集中力…。そう言われてみると、確かに右隻の点々はのっぺりと見えるような。

T:他にも、描写や線の質に違いがある。たとえば…(ここには書ききれないので、くわしい内容は図録182ページ掲載のコラム「ボストン美術館の二つの山水図屏風」をご覧ください。)

K:すごいです!普通の人だったら見逃してしまうような小さなサインを、そんな風に読み取るのですね!
田沢さんのお話には、いつも新鮮な驚きがあって楽しいです。
大きな視点で全体のバランスを見たり、作品の細かいところまで丁寧に比較してみたり。
私も改めて、じっくり見てみようと思いました。
田沢さん、どうも有難うございました!

田沢研究員

専門:近世絵画 所属部署:絵画・彫刻室長
 

次回のテーマは「染織」です。どうぞおたのしみに。


All photographs © 2012 Museum of Fine Arts, Boston.

カテゴリ:研究員のイチオシ2012年度の特別展

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posted by 小島佳(広報室) at 2012年03月29日 (木)

 

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