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140周年ありがとうブログ

豊かなアジアの文化にありがとう

はじめて旅らしい旅をしたのは19歳の時、対馬に渡って五島列島、鹿児島を通って沖縄、波照間島まで、どうやって行ったのか野宿旅行をしました。
その後南京に留学し、春夏の長期休暇には旅行に出かけました。幸い、奨学金をもらえたので、仙台でアルバイトして貯めた40万、両親からもらった20万、大学の先生が「奨学金だ」と言って渡してくれた10万円が3年分の旅費になりました。

中国はアジアの窓、と言われますが、南京駅に行くと、(地続きですから)西の果てカシュガルやベトナム行きの切符まで手に入ることが新鮮でした。
1年目の冬休みには、青海省を通ってヒッチハイクしたトラックでチベットまで上ってネパール、インドまで行き、2年目の夏休みには、トゥクトゥクと言われる三輪自動車を乗り継ぎながら、タイからミャンマー、ラオスから雲南を通って、陸路で南京まで帰ってきました。

中国にはアジア各地からたくさんの留学生が集まっています。バックパックを背負って彼らの実家を訪ね、現地の人々に親切にしていただいたのが楽しい思い出です。
また各地ではすばらしい美術作品との出会いがあり、チベット・シガツェのシャル寺壁画、ミャンマー・ パガンの壁画に驚き、雲南の大理では12世紀の絵画に描かれた同じ山の形を見つけて、震えるような感動を覚えました。
台湾には“中華”とは違う独自の美術があることを知ったのもその頃です。
曖昧模糊として(それまでちょっと怖かった)「アジア」と、そこに住む人々が、広く深く、豊かな文化を持っていたことを、初めて知った瞬間でした。
その時の驚きは二つ。アジアの文化のなんと豊かなんだろうとういことと、こんなすごい世界をなぜ今まで知らなかったんだろう、ということでした。


(左)重要文化財 四季花鳥図 呂紀筆 中国 明時代・15~16世紀(2013年4月7日(日)まで、東洋館 8室で展示中)
(右)三重グスク 琉球王朝時代、那覇港があったところ。
島津家伝来のこの呂紀「四季花鳥図」も、福建からこの港に到着し、ヤマトへ運ばれたのかもしれません。
たくさんの民族の手によって伝えられてきた“中国絵画”の多様性を探ることも、私の研究テーマの一つです。

仕事を始めてからは何よりも、アジア一素晴らしいアジア美術のコレクションを日々旅し、触れることに感謝しています。
アジア文化は多様ですが、文字や宗教など普遍的な価値も一方で共有しており、私たちの“日本”もそのアジアの多様な構成員の一人です。
多様性のなかにもある共生への模索。特別展「北京故宮博物院200選」の第2部では、その一端を展示できたのも、心より嬉しく思います。


「展示は時給だと思え」とは、前職の上司の言葉。作品に直にふれあうことができる展示は学芸員にとってとても大切な時間です。作品の状態や細かい表現をチェックしながら、みんなで力をあわせ、ミリ単位で調整、展示していきます。
トーハクでは年間を通じてたくさんの展示替えをしています。テーマや季節に合わせた取り合わせで、皆様の来館をお待ちしています。


豊かなアジアの文化のなかで育まれた日本美術。そしてその日本の歴史が集めてきた、二つと無いアジア美術の名品たち。本館と東洋館は双子の兄弟のようなものです。
これからも知らない魅力を教えてください。
学び尽くせない豊かなアジアとその文化にありがとう。
 

カテゴリ:2013年3月

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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2013年03月19日 (火)