平家納経模本にありがとう
私は大学で日本近代美術史を専攻していました。
7年前、トーハクに勤めることになった時は、
ちょうど、トーハクが作った「平家納経模本」について研究していました。
当時の上司は早速、私に見せてくれました。
そのときの感動は忘れません。
その模本は、明治15年(1882)頃に、
「平家納経」(国宝、広島・厳島神社蔵)全33巻が東京で展示されたときに 写されたものです。
平家納経装訂模本(部分) 長命晏春(ちょうめいあんしゅん)他模 明治時代・19世紀 (展示予定は未定)
表紙や経文を別々に写した、一見、つたない模本ですが、
当時の館員の「これを展示したい!」「たくさんの人に見せたい!」という 熱意が伝わってきます。
もうひとつ「平家納経模本」(田中親美制作)がトーハクにはあります。
(左右ともに)模本平家納経(部分) 田中親美模 大正時代・20世紀 (展示予定は未定)
これは、原本そっくりに作られた「複製」とも言えるものです。
でも、
平安時代に作られた「平家納経」を、大正時代にここまで再現したのです!
中途半端な覚悟では、できなかったと思いませんか?
このふたつの熱意ある模本から、私は、作品を見る楽しさも学びました。
「写す」という作業は、作品をじっくり見ることにもつながります。
今年は、特集陳列「写された書-伝統から創造へ-」(2012年5月22日(火)~6月24日(日)、本館特別1室)の中で、
真剣に書と向き合って写してきた人々の作品をご紹介します。
田中親美の「平家納経模本」のうち「厳王品」も展示しますので、見に来てくださいね。
これからも模本に込められた思いを大切にして、研究や仕事をしたいと思っています。
本人、展示を担当している本館3室「宮廷の美術」のケースの前で
カテゴリ:2012年3月
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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年03月13日 (火)