ただいま本館特別1・特別2室では特集「平安武士の鬼退治―酒呑童子のものがたり―」を開催しています。

“酒呑童子のものがたり”とは、平安時代の武士・源頼光とその四天王が酒呑童子という鬼を退治する物語です。
室町時代後期から多くの美術作品に取り上げられ、時代を超えて人びとに愛されてきました。

さまざまな酒呑童子絵を紹介する本展では、この物語の広がりを紹介するために、江戸時代中期から明治時代につくられた浮世絵も展示しています。
その中から1点を紹介します。

見立大江山 喜多川歌麿筆 江戸時代・18世紀
こちらは、喜多川歌麿が描いた美人画。
手前に7人の女性たちがいて、遠くには富士山が見えます。
酒呑童子となにか関係があるの?と思われるかもしれません。
女性たちの不思議な装いは山伏を模したもので、背中に笈(おい)を背負う姿は、まさに鬼退治に向かう武士たちにそっくりです。  
見立大江山(部分) 
 酒呑童子絵巻(孝信本)巻上(部分) 伝狩野孝信筆 
 

山伏姿となって酒呑童子退治の準備をする頼光たち
さらに着物の模様や紋を細かく見てみると…
 
見立大江山(部分) 
 
三つ星に一文字紋の入った着物の女性は、渡辺綱。
 
見立大江山(部分) 
 
鉞(まさかり)と笹模様の着物を着た女性は、坂田金時。
 
 
見立大江山(部分) 
 
笹竜胆の模様の着物の女性は、源頼光を表していると考えられます。
つまりこの作品は、酒呑童子物語の登場人物を江戸の女性たちに置き換えた作品なのです。
 
画面奥では、柴刈りをする男性がいます。
 
見立大江山(部分) 
 
元のお話では、頼光一行が酒呑童子退治へ向かう途中、険しい崖に丸太を架けて武士たちを導く八幡、住吉、熊野の神々の化身が登場します。
これは、その場面の見立でしょう。
 
 
 
 
もう一つ気になるのが、画面中央で洗濯をする女性の姿です。
 
 
見立大江山(部分) 
 
歌麿の作品ではどこかほのぼのとした雰囲気ですが、
この場面は、酒呑童子にさらわれた女性が血の付いた衣を洗う場面になぞらえています。
 
 
そして、右上では室内に銚子と器が置かれ、扇を手に踊っているような男性たちの姿も。
ここが、酒呑童子の館なのでしょうか。
 
見立大江山(部分) 
 
 
 
中ではこのような宴席が催されているのかもしれません。
 
 
 
このような見立絵(やつし絵)は、元のお話を知っているからこそ楽しめる作品です。
酒呑童子の物語が江戸の人びとに広く愛されていたことがうかがえるでしょう。
 
本展では、絵巻や扇に描かれたさまざまな作品をとおして、酒呑童子のストーリーたっぷりとご紹介しています。
 
さらに、会場でお配りしているリーフレットでは、出品作品の魅力を8ページにわたって解説しています。
ぜひ展示室でお手に取って、酒呑童子の世界をお楽しみいただければ幸いです!
 
 
(注)リーフレットは枚数に限りがあります(なくなり次第配布終了)。
(注)本特集ページよりPDFをダウンロードしていただけます。 
 
平安武士の鬼退治―酒呑童子のものがたり―
会場:本館 特別1室・特別2室
会期:2025年9月30日(火) ~ 2025年11月9日(日)
 
 カテゴリ:研究員のイチオシ、特集・特別公開
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posted by 村瀬可奈(調査研究課絵画・彫刻室) at 2025年11月04日 (火)