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橋本コレクション受贈記念 明代宮廷絵画と浙派

東洋館8室では、「橋本コレクション受贈記念 明代宮廷絵画と浙派」が始まりました(2024年7月17日(水)~8月18日(日))。
橋本コレクションは、橋本末吉氏(はしもとすえよし、1902~91)の収集した、世界的に有名な中国絵画コレクションです。
2023年、当館はこのコレクションのうち明(みん)時代絵画の優品15件の寄贈を受けました。
本展はこれを記念し、ご寄贈作品を中心として、明時代の宮廷画家と浙派(せっぱ、宮廷画家に起源をもつ職業画家一派)の作品を展示するものです。


東洋館8室「橋本コレクション受贈記念 明代宮廷絵画と浙派」の展示風景

明王朝を開いたのは、貧民から武力でのし上がった朱元璋(しゅげんしょう、1328~98)であり、明の宮廷でははじめ、わかりやすく豪壮な絵画が好まれました。
その雰囲気をもっともよく伝えるのが、辺文進(へんぶんしん)筆「柏鷹図軸(はくようずじく)」です。


柏鷹図軸 辺文進筆 明時代・15世紀 中国 橋本末吉氏・橋本太乙氏寄贈(8月4日まで)

画面のサイズは、縦145.7センチ、74.0センチ、決して小さくはないのですが、鷹に熊、雉といったモチーフがパンパンに詰め込まれ、体格のよい鷹は窮屈そうで、その抑え込まれたエネルギーが強調されています。
鷹は英雄の象徴であり、明の皇帝たちが大好きな鳥でした。
辺文進の描く、肩を怒らせ、つやつやと生えそろった羽毛、がっちりとした大きな嘴と足の爪をもつ鷹は、さぞ、皇帝たちのお気に召したことでしょう。


柏鷹図軸(部分)

宮廷画家の活動の違った側面が見えるのは、石鋭(せきえい)筆「探花図巻(たんかずかん)」です。
探花は、超難関の高級官僚登用試験、科挙(かきょ)の第三位合格者のこと。
全中国人が目指す、最高の栄誉の一つです。


重要文化財 探花図巻 石鋭筆 明時代・15世紀 中国 個人蔵

探花の称号は、皇帝が科挙合格者をもてなす宴で、最年少合格者に一番の名花を探させたという故事に由来します。
この画巻のなかの高士たちも、うららかな春の山に美しい花を探して思い思いに散策しているようです。
石鋭は、華やかな彩色の山水図を得意にした宮廷画家ですが、この作品は皇帝のためではなく、科挙合格を目指して勉強中の顧余慶(こよけい)という受験生のために描かれました。
顧余慶はその後、見事合格したそうですので、今年大事な試験を控えているみなさんは、こちらにあやかっていただければと思います。


探花図巻(部分)

宮廷画風は中国各地で流行していきますが、その過程で、より騒がしく、激しい筆づかいが好まれるようになります。
その極地ともいえるのが、鄭文林(ていぶんりん)筆「柳蔭人物図軸(りゅういんじんぶつずじく)」です。


柳蔭人物図軸 鄭文林筆 明時代・16世紀 中国 橋本末吉氏・橋本太乙氏寄贈

野卑とも評される、デフォルメされた奇妙にユーモラスな人物の顔立ちは、好みが分かれるかと思いますが、衣の線に見られる筆さばきの見事さにはため息が出ます。
鄭文林の「あらさ」が確かな技術に裏打ちされていることがわかるでしょう。


柳蔭人物図軸(部分)

展示場にはこのほかにも橋本コレクションの名品が並んでいます。
ミュージアムショップで図録も販売していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

 
『受贈記念 橋本コレクション 一 明(一)』
全32ページ
発行:東京国立博物館
定価:本体800円+税

 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 植松瑞希(絵画・彫刻室) at 2024年07月17日 (水)