本館 14室
2007年4月10日(火) ~ 2007年7月1日(日)
水滴は、毛筆で文字を書くとき、硯に注ぐ水を蓄えておく容器です。『日本書紀』推古天皇18年(610)3月の条に「高麗王、僧曇徴(どんちょう)を貢上す、曇徴よく紙墨を作る」と、紙と墨を作る技術が伝わったことが記されており、飛鳥時代にはおそらく水滴も存在していたのでないかと推測されます。現存するもっとも古いと考えられる水滴は法隆寺献納宝物の金銅水滴で、聖徳太子所用と伝えられています。奈良時代には長方形や円形、ラグビーボール形、花瓶形など、陶製のさまざまな形のものが使われていたことが平城京出土品から知られます。
普通、水滴というと、硯、筆、墨とともに、これらをセットとして収納する硯箱の中に入れられているものを思いうかべます。平安時代から明治時代まで、硯箱に入っている水滴は、概して箱の高さが低いため、小形で、平らなものが多いのですが、江戸時代には、そうした硯箱に収められていたものとは異なり、牛や兎、犬、桃、瓜、布袋、寿老人など、ちょっとした置物として、机や飾り棚においてもおかしくないような造形的にも優れたものが作られました。この特集陳列では、こうした水滴の流れを概観し、江戸時代の形のおもしろい水滴の数々をご紹介します。