縫箔 紅白緑紫段籠目杜若模様 江戸時代・19世紀
本館 9室
2022年5月10日(火) ~ 2022年7月3日(日)
水面から伸び、気品のある立ち姿をみせる杜若の花に、私たち日本人は『伊勢物語』の一場面「八橋(やつはし)」を思い浮かべます。八橋にたどりついた在原業平(ありわらのなりひら)は、遠く離れてしまった恋人を思い、「唐衣着つつなれにし妻しあればはるばる来ぬる旅をしぞおもふ」と、美しい杜若の花にかけて詠います。能「杜若」もまた『伊勢物語』を主題に展開されます。
時は初夏、東国行脚をする都の僧が三河国(みかわのくに)の「八橋」に到着し、美しく咲く杜若を眺めています。一人の若い女性がどこからともなく現れ、ここに咲く杜若は、在原業平の古歌にも詠まれる形見の花である、と旅の僧に伝えます。女性は旅の僧を自分の庵(いおり)に案内し「これが形見の冠、唐衣(からころも)」と言って、在原業平が五節(ごせち)の舞に付けた冠と、その恋人であった高子(たかきこ)の后(きさき)の唐衣を見せるのでした。不思議に思った旅の僧が、女性の素性を尋ねると、「われは杜若の精なり」と正体を明かします。そして、形見の冠と唐衣を身にまとうと「昔男(むかしおとこ)の舞の姿」を再現し、『伊勢物語』にまつわる恋物語を舞います。やがて夜が白々と明けるのとともに杜若の精はその場を去っていくのでした。
能の舞台では、旅の僧は角帽子(すみぼうし)を被り、着付の小袖である熨斗目(のしめ)の上に水衣(みずごろも)という上衣をまといます。一方、若い女性は、初々しい十代の女性の表情を表した「小面(こおもて)」の面をつけ、紅色を効果的に用いた「紅入(いろいり)」の唐織を着流しにします。冠と唐衣をまとって舞う場面では、舞台上で、唐衣の代わりに長絹(ちょうけん)に着替えます。
濃い紫の花で私たちを魅了する杜若を思い浮かべつつ、能における「杜若」の世界をお楽しみください。
指定 | 名称 | 員数 | 作者・出土・伝来 | 時代・年代世紀 | 所蔵者・寄贈者・列品番号 | 備考 | |
能面 小面 | 1面 | 江戸時代・17~18世紀 | C-49 | ||||
おすすめ | 唐織 紅萌葱段流水に杜若模様 | 1領 | 江戸時代・18世紀 | I-4273 | |||
浅葱縷地水衣 | 1領 | 金春家伝来 | 江戸時代・18世紀 | I-3291 | |||
萌黄無地熨斗目 | 1領 | 金春家伝来 | 江戸時代・18世紀 | I-3227 | |||
角帽子 紺地獅子丸宝尽模様 | 1頭 | 金春家伝来 | 江戸時代・18世紀 | I-3298 | |||
おすすめ | 縫箔 紅白緑紫段籠目杜若模様 | 1領 | 江戸時代・19世紀 | I-3468 | |||
長絹 紫地牡丹尾長鳥模様 | 1領 | 金春家伝来 | 江戸時代・18世紀 | I-3272 | |||
巻纓冠 | 1頭 | 昭和時代・20世紀 | I-1448 | ||||
日陰之糸・心葉 | 1揃 | 昭和時代・20世紀 | I-3399 | ||||
中啓 金地桐花戦模様 | 1握 | 金春家伝来 | 江戸時代・18世紀 | I-3193 | |||
杜若蝶蒔絵小皷胴 | 1本 | 江戸時代・18世紀 | H-532 |