誇りを守ってきた先輩たちにありがとう
お客様サービスセンター室で副長を務めております菊地と申します。
冬の寒い時期になると、思い出す事があります。
私が東京国立博物館に採用されたのは、昭和51年の1月。
これからここで一生働くことになるんだと、本館を見上げながら漠然と感じたものでした。
それから早いもので36年。
「衛士」としての仕事の内容を先輩がたに教えていただき、何事も上手くいって当たり前の精神(東京国立博物館のクオリティ。特に、お客様の安全対策は絶対ミスが許されない)で日々働いております。
「衛士」と言うのは私どもの名称でありますが、「えじ」と読まずに「えいし」と読みます。
(辞書で調べたら、護衛の兵士という意味。ちなみに、「えじ」は伊勢神宮などの警備の職員のこと。律令制の官職名や新撰組絡み「御陵衛士」の方が有名ですが。)
私たち「衛士」には制服があります。黒の上着に黒のスラックス。そして、黒の制帽です。
その制帽を脱いだ状態でも、礼服と見紛うばかりの制服で(ネクタイは季節で異なります)、それを身にまとうたび今でも身の引き締まる思いがいたしますが、
私たちの心の拠り所は、制帽の額に頂く帽章にあります。
民間の警備会社の場合、鷲や鍵のモチーフが用いられる事が多いものです(施設の所有者から建物の管理を委託されて、その鍵を守るというニュアンスがあるのだと思います)。
しかし、私どもの制帽には由緒のある「五七の桐」という帽章が付いています。
日本では、「桐」は鳳凰が止まる木として神聖視されており、特に「五七の桐」は嵯峨天皇の頃より天皇の衣類の刺繍や染め抜きに用いられる等、「菊の御紋」に次ぐ高貴な紋章とされてきました。
現在も総理大臣の演台や官邸の備品には使われています。
時々、この帽章を気にかけて下さるお客様もいらっしゃいます。
本館16室に私たちの先輩の守衛長の日誌(※)が展示された際、巡回のたび拝見させて頂いておりましたが、私たちもこの業務を引き継いでいることを強く実感いたしました。
※「昭和十九年 日誌 守衛長室」
(「東京国立博物館140周年特集陳列 昭和の博物館―戦争と復興―」 2012年11月6日(火)~2013年1月6日(日))
私も誇りを胸に。
「五七の桐」の帽章に恥じぬ品格を常に意識し、連綿と続く歴史の中で先輩たちが築き上げてきた矜持を胸に、お客様の御来館を心よりお待ちしております。
誇りを守ってきた先輩たち、そして今の私を取り巻く全てに、ありがとう。
カテゴリ:2013年2月
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posted by 菊地豊(警備・お客様サービスセンター副長) at 2013年02月23日 (土)