会期も残すところわずかとなった特別企画「ビフォー縄文 旧石器時代発見80周年」(平成館企画展示室、8月23日(日)まで)。
本展のみどころのひとつに、世界の旧石器文化の展示があります(4章 世界の旧石器文化)。
「4章 世界の旧石器文化」の展示風景
東京国立博物館には、世界中の旧石器・新石器時代の石器が収蔵されており、本展で展示している石器は主にH・W・シートン=カー(1859-1938)による寄贈品です。シートン=カーはインド生まれのイギリス人で、若い頃にイギリス陸軍に所属していました。退役後は探検家・冒険家として世界各地を旅行して旅行記にまとめるかたわら、先史時代の石器蒐集に情熱を注いだ好古家でした。彼は主にインドやアフリカ北部で活動していました。現在では人類発祥の地として知られるアフリカ大陸。19世紀当時はまだ人骨も石器も発見されておらず、旧石器時代は存在しないとされていました。そんな中、シートン=カーはアフリカ東部のソマリアで集めた石器をイギリスの著名な考古学者ジョン・エヴァンス(クレタ島のクノッソス遺跡を発見し、線文字を解読したアーサー・エヴァンスの父)に送りました。何度かのやり取りの末、エヴァンスは旧石器であることを認める論文を執筆します。これによって、アフリカに旧石器時代が存在することが明らかになったのです。
この話、岩宿遺跡を発見した相澤忠洋氏とよく似ています。学界の常識を打ち破るのは、ひとえに情熱だということをよく示すエピソードです。
本展では世界の旧石器文化の大きな流れをたどるうえで、うってつけの資料を展示しています。前期旧石器時代を代表する石器のハンドアックスやクリーヴァーは、動物を解体したり、骨を打ち割って骨髄を食べたりする際に用いるなど、何にでも使っていたようです。あわせてイギリスやフランスのハンドアックスも展示しています。
(右3点)ハンドアックス (左)クリーヴァー
インド採集 前期旧石器時代・前150万年~前20万年 H・W・シートン=カー寄贈
イギリスやフランスのハンドアックス
中期旧石器時代は、ルヴァロア技法による石核や剥片を展示しています。「ルヴァロア」とは、フランス・パリ郊外の地名で、この石器がまとまって発見された場所にちなんでいます。大学で考古学を学ぶと授業で必ず習うルヴァロア技法ですが、実際の資料を見たことがある人は少ないと思われます。
(上3点)ルヴァロア石核 (下)剝片
ソマリア採集 中期旧石器時代・前20万年~前5万年 H・W・シートン=カー寄贈
後期旧石器時代を代表する石刃技法を示す、石核と石刃。1つの石の塊から、たくさんの石刃(細長い長方形で、形の整った石の欠片)を打ち割ることができるようになります。この石刃をそのまま刃物として用いる場合もありますし、加工して道具に仕立てる場合もあります。効率的かつ多量に石器を作ることができるようになった点が、後期旧石器時代の大きな特徴です。
(右)石核 (左6点)石刃
フランス、ソンム県 ベロイ・シュル・ ソンム遺跡採集 後期旧石器時代・前1万1,000年~前1万年 H・W・シートン=カー寄贈
ここまで紹介してきた世界の旧石器資料ですが、H・W・シートン=カーによって、当館に寄贈されたのは明治38年(1905)。実は岩宿遺跡が発見されるよりも40年以上前に収蔵されました。岩宿遺跡の報告書には、当時最新のヨーロッパの石器研究を参照したことが書かれており、本来であれば岩宿遺跡の発掘や、その後の研究を進めるうえで格好の比較資料となったはずです。しかし、残念なことに旧石器時代を専門とする研究者がいなかったこともあり当館の所蔵品は知られていなかったようです。
展示室で、岩宿遺跡の石器と世界の旧石器時代の石器を見比べができるのも本展ならではです。
当館は、日本やアジアの所蔵品を中心に展示していますが、本展では、フランスやイギリス、オーストラリアなどの旧石器時代の石器もご覧いただけます。
世界の旧石器文化の流れを一覧できるまたとない機会ですので、ぜひ展示室でご覧ください。
カテゴリ:研究員のイチオシ、考古
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posted by 飯田茂雄(特別展チーム主任研究員) at 2026年08月18日 (火)