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能「杜若」の面・装束

  • 『縫箔 紅白緑紫段籠目杜若模様 江戸時代・19世紀』の画像

    縫箔 紅白緑紫段籠目杜若模様 江戸時代・19世紀

    本館 9室
    2007年4月24日(火) ~ 2007年6月17日(日)

     能 「杜若(かきつばた)」は、古典文学として名高い『伊勢物語』の中で在原業平(ありわらのなりひら)が詠んだ和歌「唐衣 きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる 旅をしぞおもふ」を題材に、室町時代に成立しました。

      能舞台では、角帽子(すみぼうし)を被り、水衣(みずごろも)をまとった旅の僧が、三河の八橋(現在の愛知県知立市八橋町・無量寿寺)にやってくる場面から始まります。水辺に咲く杜若の美しさに僧が見とれていると、唐織の衣を着た里の女がどこからともなく現れ、ここは杜若の名所であることを伝え、業平の 詠んだ杜若の和歌を口ずさみます。僧が女の庵(いおり)にいざなわれ休んでいると、いつの間にか消え去った女が、美しい冠と衣を着てどこからともなく現れ、実は自分は杜若の精だと名乗り、衣はこの歌に詠まれた高子の后のもの、冠は業平のものであると伝えます。この時シテ役(主役)の杜若の精が着用する長絹(ちょうけん)が、女房装束(いわゆる十二単(じゅうにひとえ))で着用する「唐衣」の代わりとなります。 杜若の精は、業平は菩薩(ぼさつ)の化身であり、彼が詠んだ和歌のおかげで、草木の身でありながら成仏できたと言いながら、薄絹でできた長絹の広袖をなびかせ、優雅に舞うのです。業平の形見である冠と、業平の恋人の形見である唐衣を着て舞う姿には、杜若の精が恋人に成り代わって業平を思慕(しぼ)する心が象徴的に表されています。

主な出品作品

*所蔵の表記の無いものは、当館蔵品です。
長絹 紫地扇牡丹菊模様 江戸時代・18世紀
縫箔 紅白緑紫段籠目杜若模様 江戸時代・19世紀