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人間国宝のわざ

もう何年か前、上方落語の桂米朝さんが人間国宝になられたとき、テレビで米朝一門の皆さんが「ウチの師匠が国宝にならはった。これからはガラスケースに入れておがまなアカン」というようなことを言っておられました。いかにも関西人らしい、お祝いの表現でした。

さて、ただいま本館19室(近代工芸 重要無形文化財保持者(人間国宝)のわざ、2012年7月18日(水) ~ 2012年9月17日(月))では人間国宝の手になる工芸品を展示しています。人間国宝という言葉はよく知られていますが、それがどのようなひとを指すかというと、あまり知られていない向きもあるようです。

色絵更紗文大皿 重要無形文化財「色絵磁器」保持者 富本憲吉作
色絵更紗文大皿 重要無形文化財「色絵磁器」保持者 富本憲吉作  昭和時代・20世紀

人間国宝とはマスコミがつくった言葉であり、正式には「重要無形文化財保持者」と申しますが、この長い言葉にもやや説明が必要のようです。博物館に絵画や 彫刻や工芸品などをご覧に来られる方々には、重要文化財とか文化財という言葉はおなじみでしょうが、この文化財が無形であるとか、その無形の文化財を保持 するとは、何やらトンチめいています。

金胎蒔絵飾箱「富貴」 重要無形文化財「蒔絵」保持者 寺井直次作
金胎蒔絵飾箱「富貴」 重要無形文化財「蒔絵」保持者 寺井直次作 平成元年(1989)

文化財保護法によると、文化財の種類は、有形文化財・無形文化財・民俗文化財・記念物・文化的景観・伝統的建造物群などに分けられ、そのうち無形文化財というのは芸能や工芸技術のような無形の文化的所産だといいます。すなわち有形文化財のような「物」とは異なり、無形文化財というのは芸能の技芸や工芸の制作技術などの「技」そのものであり、その「技」のうちでも芸術的に優れていたり、歴史的に重要とされるものが重要無形文化財に指定されます。そして、この重要無形文化財の「技」を正しく高度に体得しているひとが保持者として認定されます。

蛙金具 重要無形文化財「彫金」保持者 鴨下春明作
蛙金具 重要無形文化財「彫金」保持者 鴨下春明作 昭和63年(1988)

このたびの展示品は、工芸技術の重要無形文化財保持者による作品です。いずれも伝統的な陶芸・漆芸・金工・木竹工などの技法によって、現代的な美意識や造形感覚が表現されています。同じく無形文化財といいながら、工芸技術の場合は、芸能などとは異なり、無形の「技」の表現が「物」としてのこります。ご来館のおりには、ガラスケースのなかに入っている「かたちがない文化財」の精華をご覧ください。

六合花籠 重要無形文化財「竹工芸」保持者 2代前田竹房斎作
六合花籠 重要無形文化財「竹工芸」保持者 2代前田竹房斎作 平成9年(1997)


※文化財の分類や重要無形文化財の種別に関心のある方は、文化庁ホームページにある国指定文化財等データベースをご覧ください。

 

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列品解説 「人間国宝のわざ」
講師:猪熊兼樹(貸与特別観覧室主任研究員)
2012年7月24日(火) 14:00 ~ 14:30  本館19室
 

カテゴリ:研究員のイチオシ

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posted by 猪熊兼樹(貸与特別観覧室) at 2012年07月20日 (金)