本館 14室
2007年9月26日(水) ~ 2007年12月16日(日)
鉄絵(てつえ)とは、鉄分を含む顔料を用い、筆で文様を描く技法をいいます。鉄分を含む顔料は広い地域で産出するため入手しやすく、鬼板(おにいた)、 水打(みずう)ちなどの名でよばれます。中国では磁器の創始とともにはじまり、もっとも普遍的な絵付け技法として広く行われました。とくに、宋時代から元時代にかけて、民衆の日用の器を焼いた磁州窯(じしゅうよう)において、すぐれた作品が作られました。
鉄絵の技法は朝鮮、ベトナム、タイ、そして日本にも伝えられました。朝鮮では高麗(こうらい)時代に鉄絵で文様を描いた青磁が作られ、朝鮮時代の鉄絵粉青(ふんせい)は鶏龍山(けいりゅうざん)の名で親しまれています。また、白磁に鉄絵具で文様を描く技法は、鉄砂(てっしゃ)とよばれています。日本では銹絵(さびえ)とよばれ、志野(しの)や織部(おりべ)にも鉄絵の装飾が施されています。
コバルト顔料を用いて白磁に藍色の文様をあらわす染付(そめつけ)(青花(せいか))のような細密な描写はみられないものの、量産品ゆえの勢いのある筆 づかいや、民窯ならではのユーモラスな表現には独特の魅力があります。また、各地で作られた鉄絵に思いがけない共通点がみられることも興味深い点です。
陶磁史の底流に脈々と受け継がれ、大胆で生気に富んだ絵付けに特色がある東洋の鉄絵を、地域、時代の枠を超えて概観します。描く意欲に満ちた、奔放なる鉄絵の美をお楽しみください。