東洋館 第8室
2007年4月17日(火) ~ 2007年7月1日(日)
大正から昭和の初期にかけて、日本では数寄者(すきしゃ)がこぞってお茶道具を購入するなか、中国の文化に関心を持ち、中国書画の収集に心を砕いた人物がいました。その1人が高島菊次郎氏(1875~1969)です。高島氏は実業家として活躍される一方、漢学、語学に造詣が深く、中国の書画や拓本を熱心に収集されました。そのコレクションは、戦前から各種の刊行物に掲載され内外に喧伝(けんでん)されました が、東洋館の開館を控えた1965年、氏はご愛蔵の書画を当館に寄贈されました。300余件にのぼるそのコレクションは、常に東洋館の陳列を支え、今なお多くの愛好者・研究者の渇を癒し、貴重な資料を提供しています。
高島コレクションの碑帖(ひじょう)には、古くから海内(かいだい)の孤本(こほん)として珍重されてきた漢時代の婁寿碑(ろうじゅひ)や、清時代の収蔵家・李宗瀚(りそうかん))の十宝(じっぽう)の一つである晋唐小楷冊(しんとうしょかいさつ)など、中国書法史上の名品が少なくありません。図は南宋時代、宰相として専権をふるった韓たく冑(かんたくちゅう)が、家蔵の名筆を摸勒の名手・向若水(しょうじゃくすい)に刻させた群玉堂帖(ぐんぎょくどう じょう)です。全10巻あったと伝えられますが、完全なセットの形はすでに見ることができません。本冊は米ふつ(べいふつ)が自らの学書の経歴を、拳大の大きさで揮毫(きごう)した作品を収める第8巻。そのためこの冊を群玉堂米帖(ぐん ぎょくどうべいじょう)とも称します。米ふつの代表作である虹県詩巻(こうけんしかん)の躍動感あふれる筆づかいを彷彿とさせる、見事な出来栄えとなっています。
このたび三井記念美術館、台東区立書道博物館と当館の3館では、それぞれの館で所蔵する碑帖の優品を同じ時期に展観いたします。宋時代の墨は、後世とは異なる青みがかった上品な味わいで、拓本の採り方にも、烏金拓(うこんたく)、蝉翼拓(せんよくたく)、隔麻拓(かくまたく)など、さまざまな工夫が凝らされました。墨色の微妙な味わいや、切れ味の鋭い立体感あふれる線質など、意匠を凝らした拓本には、単なる印刷の域を超えて、肉筆とは異なる独特の世界が広がっているのです。旧拓の醸し出す玄妙な墨調と、金石の気を存分にお楽しみください。