12世紀頃、中国の宋からもたらされた点茶(抹茶)という新しい喫茶法が、次第に日本の禅宗寺院や武家のあいだで広まりをみせます。彼らは中国の美術品である「唐物」をこぞって集めて室内を飾り、それらを用いて茶を喫することで自らのステイタスを示しました。そして室町時代、15世紀頃には、足利将軍家には最高級の唐物が集められ、鋭い鑑識眼による分類、評価がなされるようになります。この唐物を愛でる「唐物数寄(からものすき)」の価値観は、のちの「茶の湯」に大きな影響を及ぼすことになるのです。
第1章では、足利将軍家に集められた第一級の名品を中心に、唐物数寄の眼で選び抜かれた貴重な作品を紹介します。
15世紀末になると、新たな時代の担い手となる町衆が急速に力をつけ、連歌や能、茶、花、香などを楽しみ、究めるようになります。そうしたなか、珠光(1423~1502)や「下京茶の湯者」と呼ばれる人々のあいだでは、唐物を珍重するだけではなく、日常の道具のなかからも好みに合ったものを取りあわせる新しい風潮が生まれました。この「侘茶」の精神は、武野紹鷗(1502~1555)ら次の世代へ広がり、深められていきます。
第2章では、彼らの眼を通じて「唐物」から「高麗物」、「和物」へと茶湯道具に対する価値観が変化する様子をたどりながら、時代の転換期に萌芽した侘茶の美術を展観します。
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第3章 侘茶の大成─千利休とその時代
安土桃山時代、侘茶を継承した千利休(1522~1591)によって茶の湯はついに天下人から大名、町衆へと、より広く深く浸透することになりました。天下人、豊臣秀吉の茶頭となった利休は、珠光以来の伝統を受け継いで、唐物に比肩する侘茶の道具を見い出しただけでなく、新たな道具を創り出し、それらを取りあわせることで茶の湯の世界に新しい風を吹き込んだのです。
第3章では「利休がとりあげたもの」、そして「利休の創造」と題して、千利休の茶の湯に迫ります。続いて、利休の精神を継いだ茶人、古田織部(1544~1615)をはじめ、織田有楽斎(長益、1547~1622)、細川三斎(忠興、1563~1646)をとりあげ、この時代に花開いた茶陶を通じて、自由で力強い桃山期の茶の湯の魅力を紹介します。
重要文化財 赤楽茶碗 銘 無一物
長次郎
安土桃山時代・16世紀
兵庫・頴川美術館蔵
[展示期間:2017年5月7日(日)まで]
小井戸茶碗 銘 老僧
朝鮮
朝鮮時代・16世紀
大阪・藤田美術館蔵
[展示期間:2017年4月23日(日)まで]
国宝 志野茶碗 銘 卯花墻
美濃
安土桃山~江戸時代・16~17世紀
東京・三井記念美術館蔵
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第4章 古典復興─小堀遠州と松平不昧の茶
江戸時代、太平の世において茶の湯は変化の時代を迎えます。小堀遠州(1579~1647)を中心として室町時代以来の武家の茶を復興する動きや、千利休の精神を継承して家元を確立する動き、さらに公家の雅な世界をとり入れて新しい風潮を創ろうとする動きなどが生じ、それらが相互に影響を及ぼしあっていきました。
第4章ではまず、武家の茶を再興し「きれいさび」と称される新たな茶風を確立した小堀遠州にまつわる道具を中心に、江戸時代前半の茶の湯をご紹介します。
続いて、江戸時代後期の松平不昧(治郷、1751~1818)の茶の湯をとりあげます。すでに茶の湯が形骸化していたといわれるこの時代、松江藩主をつとめた不昧は古典をたどり、道具を収集、評価しました。この不昧の眼を通じて、よみがえった名品をご覧いただきます。
小井戸茶碗 銘 六地蔵
朝鮮
朝鮮時代・16世紀
東京・泉屋博古館分館蔵
[展示期間:2017年4月25日(火)から]
国宝 尺牘 円爾宛(板渡しの墨跡)
無準師範筆
南宋時代・淳祐2年(1242)
東京国立博物館蔵
[展示期間:2017年5月23日(火)から]
重要文化財 粉引茶碗 三好粉引
朝鮮
朝鮮時代・16世紀
東京・三井記念美術館蔵
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第5章 新たな創造─近代数寄者の眼
幕末から明治維新の混乱期には、寺院や旧家から宝物や名品が世の中に放出されました。そうした時期に、平瀬露香(亀之助/亀之輔、1839~1908)、藤田香雪(伝三郎、1841~1912)、益田鈍翁(孝、1848~1938)、原三溪(富太郎、1868~1939)ら名だたる実業家たちはすぐれた眼で第一級の茶湯道具をとりあげ、伝統を重んじつつ、新しい価値観で新しい時代の茶の湯を創りあげていきました。本展覧会の最後に、関西と東京でそれぞれ名を馳せたこの4人の数寄者(趣味人)をとりあげ、それぞれの茶の湯とその美学を各2週ごとに展観するとともに、次代を担った畠山即扇(一清、1881~1971)の茶の湯も紹介します。
※第5章の展示は、各2週ごとに4人の数寄者をとりあげます。
藤田香雪 4月11日(火)~4月23日(日)
益田鈍翁 4月25日(火)~5月7日(日)
平瀬露香 5月9日(火)~5月21日(日)
原三溪 5月23日(火)~6月4日(日)
重要文化財
色絵金銀菱重茶碗
仁清
江戸時代・17世紀
静岡・MOA美術館蔵
[展示期間:2017年5月9日(火)~5月21日(日)]
交趾大亀香合
中国・漳州窯
明時代・17世紀
大阪・藤田美術館蔵
[展示期間:2017年4月23日(日)まで]
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