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1200年前から変わらない空気感、冬の大覚寺へ

 開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画―」(~3月16日(日))の閉幕まで、残りわずかとなりました。

 
すでに展覧会をご覧いただいた方の中には、本展をきっかけに「大覚寺を訪れてみたい」と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで今回は、大覚寺についてご紹介します。
 
京都府の北西、右京区嵯峨にある大覚寺は、平安時代のはじめに、嵯峨天皇が離宮・嵯峨院をつくったことにはじまります。
その後、嵯峨天皇の皇女・正子内親王(まさこないしんのう)が父や夫の淳和天皇(じゅんなてんのう)を供養するためお寺にしたいと願い、大覚寺が開創されました。
 
 
渡月橋は嵯峨天皇の行幸の際に架けられたという説も
 
JR京都駅から嵯峨嵐山駅まで、嵯峨野線に乗車して約16分。
年間を通して観光客でにぎわう嵐山エリアですが、大覚寺へは駅の北口から、閑静な住宅街を通って向かいます。
 
 
 
 
 
 
駅からゆっくり歩いて20分ほどで表門に到着。この日は時折雪が降り、しんとした静けさを肌で感じつつ、参拝口へ。
 
 
表門
 
大覚寺は、歴代天皇や皇族の方が門跡(住職)を務められたことから、門跡寺院として高い格式を誇ります。
 
 
いけばな発祥の地であり、嵯峨御流の総司所(家元)としても知られています。
 
また、大覚寺の周辺環境は見渡す限り電柱などの遮蔽物がなく、昔ながらの景色が今も変わらず楽しめることから、時代劇をはじめドラマや映画のロケ地としても親しまれてきました。
 
 
式台玄関と臥龍(がりょう)の松
 
それでは、さっそく境内へ入っていきます。
大覚寺の特徴として、建物のほとんどが移築されてきたものであることが挙げられます。
 
狩野山楽による襖絵「牡丹図」や「紅白梅図」のある宸殿(しんでん)は、江戸時代に後水尾天皇と結婚した和子(東福門院)の女御御所が移築されたものと伝わります。
 
 
宸殿(重要文化財)の外観(東側から)
 
 
宸殿「牡丹の間」(襖絵は復元模写)
 
大覚寺の建物に現在はめられている襖絵は、昭和中期に描かれた復元模写です。
 
今回の特別展では、大覚寺が霊宝館に保管する240面の障壁画(オリジナル)から、14か年計画で進んでいる修理作業のうち、修理を終えたものを中心に、前後期併せて123面が出品されています。
 
 
第4章の展示風景
 
障壁画をパノラマティックに展覧する本展の趣と異なり、大覚寺では、襖絵が当時の生活のなかでどのように使用されていたかを、間近に体感することができます。
 
 
宸殿「紅梅の間」(襖絵は復元模写)
 
 
蔀戸(しとみど:戸板を上下に開け閉めする建具)の蝉飾りは職人による手作りで、一匹一匹が異なる造形をしています。
 
宸殿の北西に位置する正寝殿も、重要文化財に指定されている建物です。
こちらは安土桃山時代の遺構と考えられており、本展で再現展示をしている「御冠の間」も正寝殿にあります。
大覚寺の中興の祖・後宇多法皇が院政を敷き、南北朝講和の舞台になったと伝えられます。
 
 
正寝殿「御冠の間」(襖絵は復元模写)
(特別な許可を得て撮影しています。(注)現在当館で展示中のため不完全な部分があります)
 
 
正寝殿「御冠の間」の再現展示
 
本展でもとりわけ愛らしさが際立つ「野兎図」は、正寝殿の腰障子に描かれています。
 
 
正寝殿「狭屋(さや)」に描かれた兎(野兎図は復元模写)
(特別な許可を得て撮影しています)
 
なお、今夏には通常非公開である正寝殿の特別公開が行われます(6月21日(土)~8月3日(日)まで)。
詳しくは大覚寺のウェブサイトをご確認ください。
 
宸殿と心経前殿を結ぶ回廊は「村雨の廊下」と名付けられ、縦の木柱を雨に、折れ曲がった廊下を雷に見立てているとのこと。
 
 
防犯を兼ねて天井は低く、床は鴬張りになっています。
 
大正14年に建てられた心経殿には、嵯峨天皇をはじめ、天皇直筆の書(宸翰:しんかん)の般若心経が奉安されています。
ちなみに、心経殿を建てる際に資金集めをしたのが実業家の渋沢栄一。ここにも歴史の一端が垣間見えます。
 
 
勅封心経殿
 
 
心経前殿(御影堂)

心経殿を拝するための心経前殿は、大正天皇即位に際し建てられた饗宴殿を移築したもの。
移築の際に、大覚寺の本堂を移動させたため、もともと本堂のあった場所が石舞台となっています。
 
 
石舞台と勅使門(奥)
 
心経前殿を過ぎ奥へ進むと、明治の廃仏毀釈の際に京都東山から移築された、安井門跡蓮華光院の御影堂(安井堂)があります。
本展の見どころのひとつ、重要文化財の刀剣「薄緑<膝丸>」は、安井堂が大覚寺に移築された際に共に納められたと伝わっています。
 
 
重要文化財 太刀 銘 □忠(名物 薄緑〈膝丸〉)(たち めい  ただ(めいぶつ うすみどり〈ひざまる〉))
鎌倉時代・13世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
安井堂に隣接するのは、現在の大覚寺の本堂にあたる五大堂。本堂には、大覚寺の本尊である不動明王を中心とした五大明王が祀られています。
大覚寺には平安時代後期、室町~江戸時代、近代の3組の五大明王があり、そのうちの2組の五大明王が、本展に出品されています。
 
 
 
 
五大堂では写経体験も。己を見つめなおす時間を設けるのもおすすめです。
 
明円作の重要文化財「五大明王像」は普段は厨子に入っているため、ガラスケース越しにじっくりと見られる本展の貴重な機会をお見逃しなく。
 
 
重要文化財 五大明王像のうち不動明王
明円作 平安時代・安元3 年(1177) 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
五大堂から眺める大沢池は、1200年前から変わらない風景が心を打ちます。
周囲約1キロメートルの日本最古の人工池で、日本三大名月鑑賞地としても親しまれています。
 
 
五大堂から大沢池をのぞむ
 
池の周りは散策コースとして、15分ほどで一周できます。
鴨や鷺(さぎ)、鵜(う)や、カイツブリなど多くの野鳥をはじめ、梅林や竹林もあり、春は桜、秋は紅葉と、四季折々でさまざまな風景が楽しめます。
 
 
令和6年2月には開創1150年記念事業の一環として、新たに名古曽橋が開通しました。
 
歴史の厚みが感じられる独特の空気感は、現地に行ってこそ得られる特別な体験です。
今回ご紹介したのは一部ですが、大覚寺の静寂さや宮廷文化の華やかな雰囲気が伝われば幸いです。
 
 
 
本展は大覚寺の貴重な寺宝の中から、障壁画の原品や、貴重な密教美術の名品を一挙に見られるまたとない機会です。会期は3月16日(日)まで。
 
ぜひ、特別展「大覚寺」と京都の大覚寺、どちらにも足をお運びください!
 
 

カテゴリ:彫刻絵画刀剣「大覚寺」

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posted by 田中 未来(広報室) at 2025年03月10日 (月)