文様の表と裏
本館12室 漆工では、日本で独自の発展をとげた漆芸(しつげい)装飾技法、「蒔絵(まきえ)」による作品を展示しています。
蒔絵の作品は、器の内側にも文様が描かれていることが多く、蓋の裏側のなどの展示には、いつも悩みます。
特に硯箱の蓋の場合、必ずと言って良いほど、裏側にも図柄が描かれているのです。
あたりまえですが、表を上にして置くと裏が見えず、裏を向ければ表が見えず…
ところが以前、外国の美術館で、硯箱の蓋を垂直に立てて展示しているのを見ました。
なるほど確かに、そうすれば表も裏も同じように良く見えます。
でも垂直にするためには、蓋をフレームに嵌め込んで立てることになります。
硯箱の蓋がまるで、衝立のようでした…
表裏両面の図柄を見せるという意味では良いアイディアなのですが、箱の蓋としての存在意義が、
分かりにくくなってしまいます。
そこで私達が良く使うのは、このような鏡を用いた展示具です。
鏡に映ると図柄は反転してしまいますが、表側を見ながら、裏側にどんな文様が描かれているかも分かります。
最近本館12室をご覧下さった方はご存知と思いますが、この展示室は昨年末に改装して、
新しい展示ケースを導入しています。
ケース内に自由に角度を変えられるLED照明が入っているので、鏡に光を当てられるようになり、
以前より鏡に映った映像が明るく、見やすくなりました。
現在展示中の作品では、以下の硯箱の蓋表と蓋裏が、ご覧いただけるようになっています。
いずれも表と裏に異なる図柄を描いており、表裏あわせてお楽しみいただきたい作品です。
・重要文化財 男山蒔絵硯箱 室町時代・15世紀 (~11月20日まで展示)
男山は現在の京都府八幡市にあり、和歌にもよく詠まれた名所。
蓋の表には男山の景色を描き、裏にはその山頂にある岩清水八幡宮の社殿を描いています。
(左)蓋表、(右)蓋裏
・重要文化財 柴垣蔦蒔絵硯箱 古満休意作 江戸時代・17世紀 (~11月20日まで展示)
幕府の御用蒔絵師、古満派の代表作。
外側には、紅葉しはじめた蔦のからまる柴垣を精緻に描いています。
対して蓋の裏側には、雨の中を鷺が舞い降りようとする、その一瞬をとらえた図。
(左)外側、(右)蓋裏
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posted by 竹内奈美子(工芸室長) at 2011年09月08日 (木)