本館 特別1室・特別2室
2015年6月9日(火) ~ 2015年8月2日(日)
「大彦(だいひこ)」は、大黒屋・野口彦兵衛(のぐちひこべえ、1848~1925)が明治8年(1875)、東京日本橋橘町に創業した呉服商です。新しいものを生み出すには「ものに対する見聞を広くし、鑑識を高め、その取捨に明敏でなければ」と考えた野口は、明治20年代から30年代にかけて、現代の 「きもの」の原型である江戸時代の小袖(こそで)を数多く蒐集しました。当時、江戸時代の小袖は古着として売買され、そこに歴史的、美術的価値が見出されることはほとんどありませんでした。大彦のコレクションは質の高さもさることながら、いち早くその価値を見出し、現在知られる小袖コレクションに先んじて形成されたという点で注目に値するでしょう。
しかも野口は、ただ小袖を蒐集したのみにとどまりませんでした。現代のファッション雑誌ともいうべき江戸時代の「小袖模様雛形本(こそでもようひながたぼん)」や蒐集した江戸時代の小袖を元に、その模様の時代様式や染織技法に関する分類を試みていたことが、コレクションに付属する自筆の紙札からうかがえます。野口による小袖模様の研究は、明治期から大正期の呉服業界で取り上げられてきた「加賀染」「御殿模様」「御所模様」「御祝儀模様」といったデザイン様式をベースにした、独自のものでした。
本特集では、学者というよりもむしろ呉服商として、江戸時代の小袖研究に独自の考証を試みた野口の視点に注目して、選りすぐりの名品・珍品の数々を展示します。
※会期中、一部作品の展示替を行ないます。