本館 2室
2022年8月2日(火) ~ 2022年8月28日(日)
東京国立博物館は、令和4年(2022)に創立150年を迎えました。この150年の歴史のなかで収集された文化財のなかには、国指定の国宝や重要文化財となっていなくとも素晴らしい作品が数多く収蔵されています。
「150年後、もしくはその先の未来、この国宝室にはどのような作品が展示されているのだろう」。
こういった問いかけから、今年度は「未来の国宝―東京国立博物館 書画の逸品―」というテーマで展示を行なうことにしました。私たち研究員が選び抜いたイチ押しの作品を「未来の国宝」と銘打って、年間を通じてご紹介していくという試みです。
数万件に及ぶ絵画、書跡、歴史資料のなかから選び抜いた、東京国立博物館コレクションの「逸品」をどうぞご堪能下さい。
源氏物語図屏風(初音・若菜上)
土佐光起筆
江戸時代・17世紀
平安時代の半ばに紫式部が記した『源氏物語』は、多くの読者を獲得するのみならず、さまざまな美術作品に表わされてきました。とりわけ、『源氏物語』を描いた源氏絵は数多く伝わっていますが、なかでも意表を突くのがこの作品です。
右側には「初音(はつね)」、左側には「若菜上(わかなじょう)」という場面をそれぞれ描いています。場面の選択はそれほど珍しいものではありません。しかし、画面に近づいてみると、画面に細い緑色の線が一面に引かれているのが見えます。さらに、この緑色の線の上に、模様のある布が貼られていることに気づくと思います。これらは御簾(みす)を表わしているのであり、私たちは描かれた御簾越しに、画中の源氏たちの様子をのぞき込んでいるという趣向なのです。このような発想の源氏絵は他にありません。
作者の土佐光起は、伝統的なやまと絵を描いた江戸時代初期の絵師で、宮廷の注文などを主に受けていました。保守的とも言えるやまと絵の世界にあって、こうした「だまし絵」のような斬新な試みは当時の人々を驚かせたに違いありません。