館長インタビュー
受け継ぎ、進化する― 東京国立博物館が描く未来
東京国立博物館長 藤原 誠(ふじわら まこと)

 今年、東京国立博物館は創立154年を迎えます。日本で最も長い歴史があり、所蔵する文化財は質、量ともに日本一を誇ります。長い歴史のなかで果たしてきた役割や使命をふまえると、未来に向けて担うべき責務はますます大きくなっています。

 このたび『東京国立博物館ニュース』リニューアル初号の節目にあたり、これからの当館が進むべき道や目指す未来について、館長・藤原誠に聞きました。

―当館が目指す未来を見据えた運営方針について

当館は、2024年11月に、現在の本館の開館100年にあたる2038年に向けて、東京国立博物館2038ビジョン「いにしえから宝物を創ってきた人々の想いを、いまを生きる力にする」を発表しました。これは、先人たちの築き上げた資産を後世に伝えるとともに、時代の変遷にあわせて常に進化を続けていくという、当館の基本的な姿勢にもとづくものです。本年文部科学省が策定した独立行政法人国立文化財機構の中期目標(注)は、収益強化やDX化、国内外への貢献、インクルーシブな環境づくりなどの観点からも、 基本的には当館が今までに推し進めてきたこと、またはこれから取り組んでいくことが改めて明文化されたものと考え、引き続き、法人傘下にある当館の取り組みとして、根本的なひとつの柱と考えています。

―博物館運営の施策のなかでも外部連携を積極的に進めていますね

 文化財を魅力的に展示し、多くの方にみていただき理解を深めていただく、保存・修理をし、後世に文化財を伝えていく、といった社会的使命を十分に果たすためには、効果的な外部連携が重要です。民間企業の方々との関係でいえば、できるだけトップの方と直接お話しして当館の事業をご理解いただき、寄附や協賛、賛助会員としての定期的なご支援などをいただいています。企業と研究員との共同研究で館内の有機EL照明を開発するといった取り組みも行いました。また、さまざまな専門的交流を深め、研究の質、量を高めていくためには、博物館や大学との連携も欠かせません。国内では、龍谷大学、東京藝術大学と包括連携に関する協定(MOU)を結びました。龍谷大学とは、すでにMOUを結んでいる韓国・国立中央博物館、中国・旅順博物館とも連携して、シルクロード文化交流の研究に取り組んでいます。東京藝術大学とは、同大の世界的な教育水準と専門人材、そして当館の文化財に関する専門性を生かして芸術教育と芸術文化の振興を進めています。今後の成果を楽しみにしていてください。

 海外の博物館との交流も積極的に進めています。現時点でMOUを結んだ館は計28館(2026年5月1日現在)となりました。アジア圏で15館。その他、アメリカは、国立アジア美術館、サンフランシスコアジア美術館、ボストン美術館の3館。ヨーロッパは、フランスのギメ東洋美術館、イギリスのオックスフォード大学付属アシュモリアン美術館、オランダのアムステルダム国立美術館、チェコのプラハ国立美術館、ドイツのプロイセン文化財団などの8館。中東圏では、UAEのアブダビ文化観光局、トルコのサキプ・サバンジュ美術館です。世界中に日本美術が収蔵されているなか、当館がそのネットワークの中心となることで日本文化への理解を広め、日本を代表して国際貢献を果たしていきたい。いわば「地球儀を俯瞰する文化外交」として考え、取り組んでいます。

―来館者の多様化について試みていることはありますか

 博物館の未来を語る時、若年層の来館者をどう増やしていくかは外せない課題です。調査によると、子育て世代にとって“博物館は静かに見学するところ”という点が高いハードルになっています。「トーハクキッズデー」や昨年度開催した「あそびば☺とーはく!」などのイベントを定期的に開催し、子どもが安心して過ごせる環境を整えることで、保護者が子どもと気軽に来館いただける博物館にしていきたいと思います。もちろん若年層に限らず幅広い年齢層や障害のある方々にも博物館を安心して楽しんでいただけるように、バリアフリーなど施設整備、音声ガイダンス、車椅子貸出しのほか、盲学校の生徒向けのスクールプログラム、東洋館インクルーシブプロジェクトなど、触感や音を通して作品への理解を深めていただく試みに、一層力を入れています。海外から来館くださる方々には引き続き、英語、中国語、韓国語をはじめとする多言語での展示解説を充実させていきますし、国際連携や海外展なども強化し、日本や東洋の文化、歴史への関心をさらに高めていきたいと考えています。

―これからの東京国立博物館が進む道、未来への展望とは

 将来を見据え、より充実した事業を展開していくためには、まず、経営面での改革にしっかりと取り組んでいきたいと思っています。日々の業務運営だけではなく、収支を戦略的にマネジメントすることで、常によりよく発展し続ける博物館でありたいからです。そしてもうひとつは、先ほども申し上げた国際的な顔としての存在感です。多くの海外の博物館と連携するなか、日本美術、日本文化についてはその中心に当館があり、当館がハブとなって日本の文化芸術のすばらしさを世界中の人に伝えていく。そしてさらに日本を好きになっていただく。これがまさに国立博物館としての存在意義、負うべき責任ではないかと思いますし、それを進めていくことによって博物館の未来は開かれていくと考えています。

(注)独立行政法人国立文化財機構の中期目標:独立行政法人国立文化財機構が達成すべき業務運営に関する目標