自在蛇置物

「宗義」の銘があります

自在蛇置物(じざいへびおきもの)  宗義作  昭和時代・20世紀

甲冑師伝統の手業が光る、

生き生きとした表現

  • 本館特別1・2室
  • 2025年1月2日(木)~1月26日(日)

 爛々(らんらん)と輝く鋭い目。ひんやりと冷たく、ざらつくような肌。 大きさといい、質感といい、暗がりに現れた本物の蛇をみているかのようです。口が開閉でき、牙や舌までつくられた頭部の細工や、蛇腹(じゃばら)の表現なども実に迫真的です。

 しかしながら、この蛇の本物らしさはそれだけではありません。体が本物の蛇さながらに動くようになっており、とぐろを巻いたり、くねらせたりすることができるのです。おみやげで売られているゴムヘビを想い起こさせますが、この蛇はそんなチープなものではありません。鉄でつくられていてずしりと重く、それでいて驚くほど滑らか且つしなやかに動かすことができるのです。

 まさに自由自在に動かすことのできる、金属でつくられたこうした器物(きぶつ)は、自在置物とよばれており、江戸時代から近代にかけて盛んに製作されました。蛇や龍のように体がくねる動物(架空のものも含む)、昆虫や海老のような節足動物の作例が多く、他にも鯉(こい)や鷹(たか)などが知られています。

 この蛇の場合は、内側に入る方を若干すぼませ、外側に出る方を鱗(うろこ)の形に表した円筒形の部材を、部位によって太さを変えながら順に差し込んでいき、これらを鋲(びょう)でつないで、体の部分を形づくっています。内側に入る部分では周囲に隙間(遊び)をつくり、内側を鋲で固定して連結することで、部材同士の隙間を利用して、自在な動きを可能にしています。部材の数は頭部を除き、大小合わせて実に222個に及び、細やかな細工が、より自然な動きへとつながっているのです。

 このような高度な技術は、江戸時代の甲冑師(かっちゅうし)からはじまったとされ、当館が所蔵する自在龍置物に「明珍宗察(みょうちんむねあき)」、東京・大倉集古館所蔵の自在蝶置物に「明珍宗安(むねやす)」の作者銘があり、甲冑師の一派として名高い明珍派の関与が認められます。

 本作品は、能登に出自を持ち京都で活躍した冨木派(とみきは)の流れを汲む宗義(むねよし)こと田中唯吉(たなかただよし)の作で、近年「超絶技巧」ともてはやされる近代の輸出工芸との関連が深い品ですが、そこには江戸時代の甲冑師の手業(てわざ)が確実に継承されているのです。

(清水健)