今号のイチ推し!
七宝簪・粧刀・眼鏡入(しっぽうかんざし・しょうとう・めがねいれ) 朝鮮半島 19~20世紀
「寿」「福」と吉祥文様。
婚礼具に込められた、幸せへの願い
- 東洋館10室
- 9月23日(火・祝)~12月21日(日)
朝鮮時代の女性が用いた簪と小さな刀、そして眼鏡入のセットです。ピニョとよばれる簪は、日本のものと比べると太くて長くて、片方の先に大きな装飾が付いています。これは既婚女性に特有の、後頭部の下のほうでまとめた髷髪(チョクチンモリ)に、横に挿して使いました。正式な場面では、夏は玉製、秋から冬は七宝製のものを使用したといわれています。
小さな刀は粧刀(チャンド)といって、ノリゲとよばれる装身具と一緒に上着(チョゴリ)や腰からさげたものです。飾りのためだけでなく、女性たちにとっては護身用であり、貞節の象徴でもありました。刀の柄と鞘を留めるのは小さな蝶の飾りが付いた箸で、一説に毒見用ともいわれています。古来、狩猟を生活の中心とする地域の人々は、刀と箸がひとつの鞘に収まった刀箸(とうちょ)とよばれる道具を腰からさげて携帯していました。本作品のような朝鮮時代の粧刀と箸のセットも、狩猟用の刀箸が用途を変えて伝わったものでしょう。
これら簪と粧刀、眼鏡入は、ともに明るい青色を基調とした七宝で装飾されていることから一緒にあつらえたものと推測されます。簪には鳳凰らしき向かいあう2羽の鳥、「寿」や「福」の文字、梅竹文などが黄色や赤、オレンジ、紫色でにぎやかに配されています。また、粧刀の柄の部分には木にたわむれる鳥、鞘には花と樹下の鹿が、眼鏡入には鴛鴦(おしどり)と蓮花、亀などがみられます。いずれもおめでたい吉祥のモチーフであり、カラフルな色使いであることから、高貴な女性の婚礼用につくられたものかもしれません。
本年は日韓国交正常化60年の記念の年です。「博物館でアジアの旅 てくてくコリア―韓国文化のさんぽみち―」の開催期間、東洋館10室では特集「韓国タイムトラベル―ここで・ひと・とき―」と題して、時空を旅するように、時代ごとに朝鮮の人々の暮らしにちなんださまざまな作品を紹介します。この愛らしい簪・粧刀・眼鏡入のセットもぜひ展示室で探してみてください。