今号のイチ推し!
根付 高円宮コレクション(ねつけ たかまどのみやこれくしょん)
愛らしさと遊び心、小さな形に秘めた無限の物語
- 本館 高円宮コレクション室
- 2月26日(水)~5月11日(日)
能や動物、エジプトの石棺など、モチーフも素材も色とりどりの小さな彫刻「現代根付」が、今号の表紙をかざる「イチ推し」です。
根付とは、腰から提げて携行する「提物(さげもの)」(たとえば印籠など)と紐でつなぎ、帯に留めるために用いる留め具です。その実用的な形の制約のなかにあって、人の目をひく魅力的な造形を彫り上げるところに、根付師の創意工夫がみられます。根付を含めた提物を装身具として身に着ける習慣は江戸時代に一般化し、数多くの根付が制作されました。身近な風俗から故事伝説、神霊怪異にいたるまで、多種多様な対象が根付のモチーフとして採用されています。
こうした和装を前提とする「古根付」に対し、「現代根付」は洋装化の進んだ現代に生み出されたものです。帯から提げる習慣とともに需要自体が失われた困難な状況のなかで、根付が生き残るためにはその存在感を示す必要がありました。根付師たちは古根付の技術を継承しつつ、特に1970年代から意識的に現代的な視点をそなえた新しい表現を生み出していきます。そんな現代根付の魅力に惹かれ、旺盛な蒐集(しゅうしゅう)・普及活動をはじめられたのが、故・高円宮憲仁(たかまどのみやのりひと)親王殿下(1954~2002)と久子(ひさこ)妃殿下でした。
根付の伝統は、「継承されているだけではなく、それが今も生きている芸術である」(山田正義『現代根付』1989、巻頭文)と殿下は述べておられます。方位磁針を頼りに俯く「一人旅」の姿や、「親子猿」の視線の温もりは、現代の鑑賞者に共感をよび起こす表現でありながら伝統の技術に根差しています。可動部を動かすうちに人を驚かせる仕掛けが秘められている作品もあり、「エジプト提物」では石棺のなかからミイラが登場します。こうした仕掛けも古根付から継承された遊び心です。このあたりは、本館10室「浮世絵と衣装」で展示中の古根付と比較すると理解しやすいかもしれません。「高円宮コレクション室」はその隣の部屋になります。本号の表紙が目に留まりましたら、この機にぜひ「高円宮コレクション室」へお越しください。