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「顔真卿 王羲之を超えた名筆」 密かなつぶやき その1

年明けに始まった特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」も、気がつくといつのまにか折り返し地点を過ぎていました。連日多くのお客様にお越しいただいておりまして、関係者一同、心より御礼を申し上げる次第です。

開幕前は、「顔真卿って、誰っ!?」という状態で、はたしてどれくらいの人が展覧会を観に来てくださるのだろうかと、不安でいっぱいでした。
もちろん、展覧会の構成は顔真卿だけでなく、中国の書の歴史そのものを概観しつつ、顔真卿が生きた唐時代の書をたっぷりと紹介し、さらに唐時代の書が日本や後世に与えた影響も考えてみようという、壮大なスケールで準備をしてきました。
書は基本的に紙の白と墨の黒のモノトーンで繰り広げられる二次元の地味な世界です。そのハンディを克服すべく、本展は、書の歴史上もっとも華やかな唐時代に重きを置き、展示作品数も唐時代の書を充実させました(選んだ作品が多すぎてケースに入りきれず、泣く泣くあきらめたものも多々ありましたが…)。

今回のブログでは、展覧会のキモである唐時代の書のなかから、チラシやホームページにはない、かくれたみどころをご紹介しようと思います。


王羲之の字姿のデパート
集王聖教序-孔氏嶽雪楼本- 王羲之筆
唐時代・咸亨3年(672) 香港中文大学文物館(北山堂寄贈)


唐時代の書は、太宗皇帝による王羲之崇拝と深い関係があります。
集王聖教序は、懐仁という弘福寺の僧が太宗より命じられ、宮中に所蔵される王羲之の真筆から文字を集めてつくった石碑です。王羲之の字姿を豊富に見ることができるので、手本としても尊ばれました。
本作は、清時代の収蔵家である孔広陶(1832~1890)の旧蔵品で、宋時代の貴重な拓本です。
香港中文大学文物館には、北山堂の堂名で知られる利栄森(1915~2007)の膨大なコレクションが収蔵されており、拓本だけでも2000件以上にのぼります。その中から特に優品10件を精選して「北山十宝」と名付けました。
今回、香港中文大学文物館よりお借りした4件は全て「北山十宝」の名品であり、もちろん、どれも初来日です!


ようこそ、日本へ!

九成宮醴泉銘-汪氏孝経堂本- 欧陽詢筆
唐時代・貞観6年(632) 香港中文大学文物館(北山堂寄贈)



李思訓碑-呉栄光蔵本- 李邕筆
唐時代・開元28年(740) 香港中文大学文物館(北山堂寄贈)



麻姑仙壇記-何紹基蔵本- 顔真卿筆
唐時代・大暦6年(771) 香港中文大学文物館(北山堂寄贈)




褚遂良の美のツボをおさえてます
金剛般若波羅蜜経残巻
唐時代・7世紀 三井記念美術館(2月13日より展示)


中国書道史は、100年ほど前まで拓本や模本を中心に編まれてきました。しかし20世紀初頭、敦煌莫高窟の第17窟から5~10世紀に至る肉筆の写本が大量に発見されたことで、隷書や楷書の変遷がつぶさに観察できるようになりました。
今回注目すべき唐時代の書のウリの一つがこの肉筆写本であり、美しい楷書の姿には本当に心を奪われます。
本作は、671年から677年頃の唐高宗の時代に、宮中の優秀なエリート写経生らによって書写された「長安宮廷写経」とよばれる経巻です。「長安宮廷写経」は、世に30点余りしか現存しません。
筆致や書風はもちろん、紙や墨にいたるまで、あらゆる点において最高の出来栄えを誇ります。書風は麗しく雅であり、張りのある線質で、晩年における褚遂良の艶やかな書の影響がうかがえます。


王羲之たちのゴシップあります
国宝 世説新書巻第六残巻-豪爽-
唐時代・7世紀 東京国立博物館(2月13日より展示)


唐時代は、敦煌莫高窟で発見された写本のほかに、遣唐使らによって日本に将来された写本があります。端正で美しく、力強い筆致で書かれた本作は、『世説新語』の名で知られる書物で、後漢時代の末から東晋時代にかけて活躍した名士のゴシップを集めたものです(今でいう週刊誌ネタのようなもの)。中には王羲之やその一族たちがやり玉に挙げられている内容も収録されています。いつの時代も有名人は苦労が絶えません…。
紙背には、平安時代末期の『金剛頂蓮花部心念誦儀軌』が書写されています。
日本への伝来の古さを物語っていると同時に、本作がいつしか日本でリサイクル紙として使われたことがわかります。平安時代の貴重な筆跡とともに、世説新書の残巻は我が国で大切に保存されてきました。




受験生の諸君、健闘をいのる
干禄字書 顔真卿筆
唐時代・大暦9年(774) 台東区立書道博物館


受験シーズン、まっさかり。受験生のみなさんは、毎日重圧に耐えながら一生懸命勉強をされていることと思います。
中国でも、官僚になるためには科挙という大変難しい試験を受けなければなりませんでした。
この干禄字書は、科挙の答案に用いるべき正しい字形を示した字書であり、受験生の必須アイテムでした。干禄とは、禄をもとめる、つまり官に仕えるという意味です。
顔真卿の叔父である顔元孫が著し、顔真卿が66歳の時に書写しました。字書の内容はもちろんのこと、顔法で書かれた楷書もまた後世に大きな影響を与えました。
さすがに科挙の受験バイブルとあって、石碑の拓本をとる人たちがあとを絶たず、この拓本からも碑面の文字が摩滅している状態がよくわかります。


さて、ほんの少しだけ唐時代の書をご紹介いたしましたが、まだまだみどころは語り尽くせません。
今回の展示総数177件のうち、唐時代の書は106件あります。海外からは8件お借りし、国内の所蔵作品は98件展示されています。
百聞は一見にしかず。ぜひ会場で、唐時代の書の魅力を感じてみてください!


 
関連展示
特別展「王羲之書法の残影ー唐時代への道程ー」2019年3月3日(日)まで
東京国立博物館東洋館8室、台東区立書道博物館にて絶賛開催中!

 

カテゴリ:研究員のイチオシ中国の絵画・書跡「顔真卿 王羲之を超えた名筆」

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posted by 鍋島稲子(台東区立書道博物館主任研究員) at 2019年02月12日 (火)

 

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」10万人達成!

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」(1月16日〈水〉~2月24日〈日〉、平成館)は、2月8日(金)、10万人目のお客様をお迎えしました。
ご来場いただいた皆様に、心より御礼申し上げます。

10万人目のお客様は、倉持英樹さん。本日は奥様の育美さんとご一緒に来館されました。

倉持英樹さんには、当館館長 銭谷眞美より、記念品として特別展図録と本展オリジナルトートバッグを贈呈。
贈呈式には当館広報大使トーハクくんも登場! セレモニーを盛り上げました。


左から倉持英樹さん、倉持育美さん、トーハクくん、当館館長 銭谷眞美

倉持さんは万年筆がお好きでよく字をお書きになるとのことで、特に「祭姪文稿」をご覧になりたいとお話しくださいました。
また、「王羲之が優れていると思っていたが、タイトルにある『王羲之を超えた名筆』を確認したい」という倉持さん、当館には二度目の来館で、奥様とは博物館・美術館によく一緒にお出かけされるとのことです。
ありがとうございます。

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」は、本日も多くのお客様にお越しいただいており、残すところ2週間あまりとなりました。

皆様のご来館を心よりお待ちいたしております。

カテゴリ:news「顔真卿 王羲之を超えた名筆」

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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年02月08日 (金)

 

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」開幕!

1月16日(水)、特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」がついに開幕しました!



2013年に開催した特別展「書聖 王羲之」では書が芸術に達した東晋時代に焦点を当てましたが、本展では書法が最高潮に達した唐時代に焦点を当てます

本展は、現代の明朝体に通ずる筆法を創出した顔真卿[がんしんけい]の作品を中心に、唐時代の書が果たした役割を検証するものです。国内外から名品がずらりと集まっています。
ぜひこの機会に、有名な書の名品を画像や写真ではなく、「実物」をご覧いただきたいと思います。

なぜ「実物」と強調するかと言いますと、書の作品は写真や画像で見ると筆の流れは止まってしまっていますが、実際の作品では筆の流れが生きていて、その筆の流れに込められた感情を追体験できるからです。また、実物を視ることで、作品に込められた筆者の魂や、形を超えたオーラを感じ取っていただけるかもしれません。

それではこの展覧会の見どころを紹介していきます。

みどころその1 
楷書[かいしょ]の美しさに触れる

唐時代に、楷書の美しさが法則化されました。唐時代の楷書は美しく、また、自分にはこんな美しい文字は書けないと思い知らされるような作品ばかりです。



篆書[てんしょ]から隷書[れいしょ]、隷書から楷書へと進化を遂げた過程を踏まえ、楷書の作品をご覧いただきます



九成宮醴泉銘[きゅうせいきゅうれいせんめい] 欧陽詢[おうようじゅん]筆 唐時代・貞観6年(632) 台東区立書道博物館蔵

こちらは楷書の最高傑作として知られている作品の拓本です。例えば1行目、上から3文字目の「宮」の字の「口」をご覧ください。口の1画目と2画目、何も考えないで書いたら1画目と2画目をくっつけてしまうと思いますが、こちらでは1画目と2画目が絶妙に離れています。この絶妙の離れ具合で「口」の風通しがよくなり、「宮」の字全体の美しさが際立ってくるように思います。このように極めて緻密に組み立てられた文字に要注目です。

見どころその2 
拓本を見比べる

本展では拓本の作品を数多く展示しています。拓本は石碑などに刻んである文字を写し取ったものですが、碑面は時間とともに次第に摩滅、損傷していき、写し取った時期によって、同じ作品の拓本でも文字の様子が変わってきます。その違いを見比べて、時の流れを感じることもおすすめです。



先ほど紹介した九成宮醴泉銘の拓本数件展示しています。ぜひ違いを見比べてください


見どころその3
情感の発露に触れる

美しく整った楷書もおすすめですが、筆者の感情がほとばしる書もおすすめです。



重要文化財 行書李白仙詩巻[ぎょうしょりはくせんしかん](部分) 蘇軾[そしょく]筆 北宋時代・元祐8年(1093)大阪市立美術館蔵

蘇軾は宋時代を代表する文人士大夫ですが、顔真卿の書をよく学びました。正直言って、楷書と比べると読みづらいとは思います。しかしながら、独特の右肩上がりの書風は筆力に富み、躍動感が溢れていて、筆者は何を思いながらこの作品を書いていたのかな、筆者はどんな人なのかなと、思いを馳せることで、何が書いてあるか正確に読めなくても作品を楽しめると思います。

見どころその4
天下の劇跡、祭姪文稿[さいてつぶんこう]!



祭姪文稿 顔真卿筆 唐時代・乾元元年(758) 台北 國立故宮博物院蔵 展示風景

そしてなんといっても本展の最大の見どころは、台北の國立故宮博物院から初来日の祭姪文稿です。昨年7月に行った報道発表会でもこの作品について紹介しましたが、思いの揺れを示す生々しい推敲の跡、悲痛と義憤に満ちた情感が溢れた紙面から顔真卿の思いが感じられるかのようです。祭姪文稿の現代語訳は展覧会公式ウェブサイトからご覧いただけますので、祭姪文稿の物語を知ってから、実際の作品をご覧になることもおすすめいたします。

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」の会期は2月24日(日)までです。
平成最後の「顔真卿」、ぜひお見逃しなく!

カテゴリ:「顔真卿 王羲之を超えた名筆」

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posted by 柳澤想(広報室) at 2019年01月22日 (火)

 

特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」報道発表会!

東京国立博物館では、来年1月16日(水)~2月24日(日)、平成館にて特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」を開催いたします。
7月26日(木)に報道発表会を行いました。

書に詳しくなくても、顔真卿[がんしんけい]と聞いてピンとくる方はいらっしゃるかもしれません。
実は、世界史の教科書やセンター試験にも登場する有名人でもあります。

そんな顔真卿の人物や書の本質に迫り、唐時代の書の果たした役割を検証する本展の概要を、担当研究員である学芸企画部長の富田が解説しました。


6章構成について解説

本展は6章にて構成されています。
まず、第1章「書体の変遷」では、篆書[てんしょ]から隷書[れいしょ]へ、隷書から楷書へと進化を遂げた変遷を紹介します。
次に、第2章「唐時代の書 安史の乱まで」、第3章「唐時代の書、顔真卿の活躍」では、安史の乱で唐時代を区分し、唐時代の書を紹介します。
そして、第4章「日本における唐時代の書の受容」、第5章「宋時代における顔真卿の評価」、第6章「後世への影響」では、顔真卿の書や唐時代の書が、日本や後世へどのような影響を与えたのかを紹介します。

6章構成の本展のみどころは3つあります。
①楷書の美しさを徹底解析!
②天下の劇跡「祭姪文稿」[さいてつぶんこう]の魅力に迫る!!
③王羲之神話の崩壊をたどる!!!

まず、1つ目のみどころ「楷書の美しさを徹底解析!」


孔子廟堂碑 虞世南筆 唐時代・貞観2~4年(628~630) 三井記念美術館蔵
碑は唐末に失われ、原石拓本はこの一つしかありません。とても貴重な作品です。

 
九成宮醴泉銘 欧陽詢筆 唐時代・貞観6年(632) 台東区立書道博物館蔵
欧陽詢76歳の作で、楷書の最高傑作として知られています。


楷書に至るまで、公式の書体は篆書から隷書へ、隷書から楷書へと進化してきましたが、楷書が完成してから1000年以上経た現在においても公式の書体は楷書のままです。数々の名品で、読みやすさ、書きやすさ、美しさの要素を満たす「楷書の美しさ」をぜひご堪能ください。

次のみどころ「天下の劇跡『祭姪文稿』の魅力に迫る!!」


作品に込められた顔真卿の思いを解説

今回、台北 國立故宮博物院所蔵の「祭姪文稿」を日本で初めて公開いたします。所蔵先の台北 國立故宮博物院でも2012年に展示して以来公開していないため、本展で見逃すと当分の間見ることはできないであろう貴重な作品です。
この「祭姪文稿」は顔真卿が亡き親族を供養した文章の草稿で、悲痛と義憤に満ちた心情が紙面に溢れています。最初は平静に書かれていますが、感情が昂ぶるにつれ筆は縦横に走り、思いの揺れを示す生々しい推敲の跡が随所に見られます。実際にご覧になったら、その迫力に圧倒され、きっと「祭姪文稿」に釘付けになるはずです。
唐時代の名家が書いた肉筆がほとんど失われたなか、歴代皇帝の庇護のもと、奇跡的に残された「祭姪文稿」は、世界の頂点を極めた唐時代の文化の精粋をまざまざと伝える名宝として、ひときわ大きな存在感を示す書です。ぜひご覧ください。


千福寺多宝塔碑 顔真卿筆 唐時代・天宝11載(752) 東京国立博物館蔵
りりしい書きぶりの作品もあります。こちらは書の初心者が手本としてきたものです。


最後のみどころ「王羲之神話の崩壊をたどる!!!」

 
行書五言聯 趙之謙筆 清時代・咸豊8 年(1858)個人蔵
顔真卿を学んだ趙之謙は、野趣あふれる書風を創出しました。


顔真卿の書の評価は、北宋時代になると、王羲之のそれに比肩しうる人物として定着しました。さらに時代が進むと、顔真卿の肉筆は少数ながら伝わるものの、王羲之の肉筆は皆無となってしまいます。次第に肉筆が存在しない王羲之の書法を学ぶよりも青銅器や石碑の文字を学ぶようになるという、王羲之神話が崩壊する過程を紹介いたします。
このように王羲之神話が崩壊したことと、顔真卿の楷書が書の入門として多くの支持を受けるようになったことを考え合わせると、展覧会タイトルの副題のとおり、顔真卿は「王義之を超えた名筆」と言うことができると考えられます。

書はわからない、読めないから、作品に興味が涌かないという方もいらっしゃるかもしれません。ですが、「祭姪文稿」をはじめ、作品には筆者の魂、形を超えたオーラが込められています。書が読めなくても、真剣に見れば何かを感じ取れるはずでしょう。

このように、本展は書を知っている人にはもちろん、書を知らない人でも、書の美しさやそこに込められた思いを感じ取れる貴重な機会となります。特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」は来年の新春開幕です。どうぞお楽しみに!

 
ご期待ください!

カテゴリ:「顔真卿 王羲之を超えた名筆」

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posted by 柳澤想(広報室) at 2018年08月01日 (水)

 

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