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1089ブログ

「拓本のたのしみ」その3

台東区立書道博物館の春田賢次朗です。

東京国立博物館と台東区立書道博物館(以下、書道博)の連携企画第22弾「拓本のたのしみ」【3月16日(日)まで】の会期も残り2週間ほどとなりました。六人部さん、鍋島館長と続いてきたバトンを受け取って、書道博の展示、とくに全形拓(ぜんけいたく)についてご紹介させていただきます。
 
全形拓(器形拓(きけいたく)・立体拓(りったいたく)とも)とは、器物の全形を立体的に表現する拓のことで、容庚(ようこう)の「拓墨」(『商周彝器通考』、上海人民出版社、2008)では、道光初年(1821)、馬起鳳(ばきほう、原名は宗黙、後に改めて起鳳)が創始者であるとします。しかし、近年まで馬起鳳による全形拓の作例は発見されていませんでした。
 
ところが2013年、北京泰和嘉成オークションで馬起鳳による全形拓が2件出品され、はじめてその作例が確認されました。そしてなんと、それ以外にも日本において馬起鳳による全形拓が2件存在していたのです。
 
尊銘 馬起鳳拓
原器:西周時代・前11~前8世紀
淑徳大学書学文化センター蔵
【書道博前期展示】
古器物銘(部分) 馬起鳳拓
原器:西周時代・前11~前8世紀
淑徳大学書学文化センター蔵
【書道博前期展示】

前期展示【2月2日(日)まで。すでに終了いたしました】では淑徳大学書学文化センター蔵の馬起鳳による全形拓を、2月26日(水)からは早期全形拓者として注目される陳南叔(ちんなんしゅく)、銭寄坤(せんきこん)による全形拓を展示いたします。これら早期全形拓者による全形拓は、共通して淡い拓調です。
 
鬲銘 陳南叔拓
原器:西周時代・前11~前8世紀
淑徳大学書学文化センター蔵
【書道博2月26日(水)~3月16日(日)展示】
爵銘 銭寄坤拓
原器:西周時代・前11~前8世紀
個人蔵
【書道博2月26日(水)~3月16日(日)展示】

では、このような全形拓はどのように制作されるのでしょうか。全形拓は石碑や墓誌のような平面の拓にくらべ、高度な技術と複雑な工程を要することは想像に難くないでしょう。紀宏章『伝拓技法』(紫禁城出版社、1985)によると、以下の3ステップを経てつくられるようです。

①原寸大の正確な下絵を描く。
②鉛筆でその下絵を軽く写す。
③写した下絵を器物に合わせて複数回にわけて上紙・上墨を行い完成。

以下、「古器物銘(部分)」をもとに、②、③の行程を確認していきましょう。
 
右上を拡大してみると、鉛筆の線がはっきりと確認できます。これが②に該当します。
 
古器物銘(部分)
原器:西周時代・前11~前8世紀
淑徳大学書学文化センター蔵
【書道博前期展示】
古器物銘(部分)の拡大図

紋様部分では、角度を微妙に変えながら、3回にわけて拓をとっていることがわかります。これが③に該当します。このように、拓をとる範囲と角度を細かく調整することで、自然な奥行きを表現しているのです。

古器物銘(部分)紋様部分の拡大図
 
全形拓の中には、対象物からいっさい拓をとらずに完成させる例もあります。あたかも拓本をとったかのように描く技法のことで、これを穎拓(えいたく)と称します。この技法は黄士陵(こうしりょう、1849~1908)や姚華(ようか、1876~1930)が得意としました。2月26日(水)からは、黄士陵による穎拓を展示いたします。
 
叔朕鼎図 黄士陵筆
清~中華民国時代・19~20世紀 個人蔵
【書道博2月26日(水)~3月16日(日)展示】
 
本紙上部の黄士陵の識語からは、『西清古鑑(せいせいこかん)』を参考にして描いたことがわかります。『西清古鑑』とは、乾隆帝の勅命によって1749年に制作された宮中の古銅器図録です。
 
『西清古鑑』所載の叔朕鼎図と銘文
(劉慶柱・段志洪主編『金文文献集成』第3冊(線装書局、2005)より)
 
上図は『西清古鑑』に掲載された「叔朕鼎(しゅくちんてい)」の器形図と銘文です。
両者の「叔朕鼎図」を比較すると、違いが見られます。黄士陵の穎拓は、取手内側の紋様をより明確に伝える構図で、脚を短くすることによって器全体の重心が下がり、どっしりとした印象を与えます。また、銘文においても『西清古鑑』と異同が見られますので、この比較はぜひ書道博でお楽しみください。
 
 
黄士陵の息子の黄延栄(こうえんえい)もまた、父親譲りの画力を生かし、端方(たんぽう)輯『陶斎吉金録(とうさいきっきんろく)』の器形図を担当しました。書道博の本館2階の第4展示室では、中村不折(なかむらふせつ)が収集した端方旧蔵の青銅器と『陶斎吉金録』の当該頁を並べて展示しております。今回はそのうちの1器、「婦𨷼卣(ふひんゆう)」を紹介させていただきますので、残りはぜひ、直接お楽しみください。

婦𨷼卣
西周時代・前10世紀
台東区立書道博物館蔵
【書道博通期展示】
 

 

拓本のたのしみ

編集:台東区立書道博物館
編集協力:東京国立博物館、九州国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
制作・印刷:大協印刷株式会社
定価:1,900円(税込)
ミュージアムショップのウェブサイトに移動する
拓本のたのしみ 表紙画像

週刊瓦版
台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。
東京国立博物館、九州国立博物館、台東区立書道博物館の学芸員が書いています。展覧会をたのしく観るための一助として、ぜひご活用ください。

カテゴリ:中国の絵画・書跡「拓本のたのしみ」

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posted by 春田賢次朗(台東区立書道博物館専門員) at 2025年02月26日 (水)

 

特別展「旧嵯峨御所 大覚寺」10万人達成!

平成館特別展示室で開催中の、開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画―」(3月16日(日)まで)は、来場者10万人を達成しました。

これを記念し、埼玉県からお越しの吉田さんに、当館館長藤原誠より記念品と図録を贈呈いたしました。
 
記念品贈呈の様子。吉田さん(左)と藤原館長(右)
 
大学生の吉田さんは京都がお好きで、授業でも訪れたことがあるとのことです。
今回は大覚寺の寺宝を間近に見られるということで、ご来館いただきました。
現在は空海に関するレポートにも取り組んでおり、ちょうどご縁があったようです。
 
京都・大覚寺に伝わる約100面の障壁画がずらりと展示ケースに並ぶ、豪華絢爛な展覧会。今週から後期展示もはじまりました。
さらに本日から週末の夜間開館も実施。金・土曜日と、2月23日(日・祝)の開館時間を20時(入館は19時30分)まで延長します。
貴重な寺宝の数々をじっくりご覧いただけるまたとないこの機会。どうぞお見逃しなく!
 

カテゴリ:「大覚寺」

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posted by 天野史郎(広報室) at 2025年02月21日 (金)

 

調査速報! 像内納入品が判明 大覚寺軍荼利明王

現在開催中の開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画―」(2025年3月16日(日)まで)には、連日多くのお客様にお越しいただいており、展覧会担当の一人として大変嬉しく思っております。
 
特別展「旧嵯峨御所 大覚寺」第一会場 展示風景
 
大覚寺は、平安時代初めに営まれた嵯峨天皇の離宮・嵯峨院を前身とします。真言宗の開祖・空海と深い交流があった嵯峨天皇は、空海の勧めで嵯峨院に持仏堂を建てて五大明王像(現存せず)を安置したといいます。それを受け継ぐ現在の本尊の五大明王像も本展で公開されています。東京で5体そろって公開されるのは初めてのことです。
 
重要文化財 五大明王像 明円作 安元3年(1177) 京都・大覚寺蔵
左から:大威徳明王、軍荼利明王、不動明王、降三世明王、金剛夜叉明王
 
この五大明王像は、金剛夜叉明王(写真右端)と軍荼利明王(写真左から2番目)の台座に記された銘文により、安元2~3年(1176~77)にかけて仏師明円(?~1199頃)が作ったことが知られています。仏像の制作年や作者が分かる例は非常に少なく、その両方が分かる大覚寺の五大明王像は大変貴重です。
 
ところで、当館は文化財用のX線CTスキャン装置を所有しています。この装置で360度様々な角度から撮影した多数のX線画像データをコンピューター上で組み合わせて、3Dなどの立体的なデータとして見ることができます。それにより、文化財の構造や保存状態、内部に空洞があればその様子などを知ることができます。
 
軍荼利明王のX線断層(CT)調査風景
 
本展に際して、この五大明王像5体すべてにX線断層(CT)調査を行なったところ、軍荼利明王1体にのみ、像内に納入品があることが分かりました。 
ここでは調査速報として、簡単ではありますがその納入品について紹介していきます。
 
軍荼利明王 頭部 垂直側断面

同 納入品 3D画像

 
納入品というのがこの頭部内の画像に映る木柱(高さ約15cm)です。表面に何も塗ったりせずに素地のまま仕上げ、像の首の下あたりで木柱の根元を木釘で打ち付けて固定しています。
 
同 納入品 頂部 垂直側断面
 
木柱の頂部を蓮台および球状(最大径約1.4㎝、宝珠または月輪か)のかたちに作り、その中央部分を空洞にして蓋をしています。その空洞のなかに、紙と思われるものとともに、ひと際白く見える粒状のものが映るのがお分かりになりますでしょうか。これは舎利として信仰された鉱物と思われるものです。
 
舎利とは仏教を開いた釈迦の遺骨のこと。仏像の像内に納める例は、奈良時代にいくつか見られるものの12世紀前半までは少なく、12世紀後半以降に増えていきます。大覚寺軍荼利明王が作られたのはその12世紀後半に含まれる年代ですので、まさに舎利を仏像の像内に納めることへの関心や事例が高まる時期に作られ、かつ年代が明らかな重要な例です。しかも、木柱の頂部のなかに舎利を納める点や、木柱を打ち付けて固定する点など、入念な作りが特徴です。
 
なぜ舎利を納めたのか、なぜ軍荼利明王だけなのか、他の4体にはもともと納入品がなかったのか(過去の修理などで納入品が取り出されていないのか)、なぜ木柱の頂部に舎利を納めるという入念な作りにしたのか。今回の調査で像内納入品の存在が判明したことによって、新たな疑問も生まれてきました。引き続き、このような疑問や納入品の詳細、納入の目的について調べることで、大覚寺の五大明王像が作られた背景を解明する手掛かりになることが期待されます。
 
軍荼利明王 展示風景
 
文化財の調査研究において、このように最新の科学的手法を用いることで新たな情報が分かることもあります。ただし、調査にあたってはなによりも、所蔵者のご理解があってこそ実施できるものです。今回、五大明王像のX線断層(CT)調査の実施、および軍荼利明王の像内納入品の情報公開をお許しいただきました大覚寺の皆様に、この場をお借りしてあらためて御礼申し上げます。
 

カテゴリ:彫刻「大覚寺」

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posted by 増田政史(特別展室研究員) at 2025年02月17日 (月)

 

「拓本のたのしみ」その2

台東区立書道博物館の鍋島稲子です。

東京国立博物館(以下「東博」)と台東区立書道博物館(以下「書道博」)の連携企画「拓本のたのしみ」【3月16日(日)まで】は、開幕当初から中国のお客様が多く来館されています。
中国の旧正月「春節」の時期は、来館者の半数近くが中国の方々で、みなさんとても熱心に鑑賞されていました。来日した小学生の女の子が、王羲之「蘭亭序」の拓本の前で冒頭からすらすら読み始め、隣りのお母さんが頷きながら聞いているという微笑ましい光景を目にしました。親子や友人と博物館へ出かけて作品を観るのも、たのしいひとときかもしれません。

さて、今回の1089ブログでは、歩いて行ける東博から書道博への「ミチクサ道案内」と、「2館の展示をたのしむ」見どころについてお話したいと思います。
まずは東博から書道博へ向けての「ミチクサ道案内」、レッツゴー!


東博から書道博への道のり

東京国立博物館の正門を出て右へ進み、信号を右に曲がると、左手に黒田記念館国際子ども図書館が見えてきます。どちらもカフェテリアがありますので、ちょっと休憩したい方にはおススメです。

国際子ども図書館を過ぎてすぐに左へ曲がると、右手に上野中学校、その先に寛永寺があります。寛永2年(1625)、徳川幕府の安寧と万民の平安を祈願して建立された寛永寺は、今年創建400周年を迎えます。9時から17時まで開門していますので、ぜひ散策してみてください。

寛永寺

寛永寺の正門を入ると、境内には石碑が点在し、本堂(根本中堂)に向かって右側には、ひときわ大きな石碑があります。彰義隊と明治新政府軍との間でおこった上野戦争の経緯を記した碑です。彰義隊の名付け親で知られる阿部弘蔵の撰文で、清国の費廷桂(ひていけい)が唐時代の顔真卿(がんしんけい)風の楷書で堂々と書いています。

「上野戦争碑記」

「上野戦争碑記」の左奥には、江戸時代、黄檗宗の僧であった了翁禅師の顕彰碑があります。これは日本でも大変珍しく、亀趺(きふ)という亀の形をした台座のある石碑です。中国における石碑の様式を伝える貴重な遺例で、今回の「拓本のたのしみ」で展示されている石碑の拓本の数々が、もとはどういう姿であったのかをホンモノで見ることができます。

「了翁禅師塔碑」

さて、寛永寺の根本中堂を右に、寛永寺幼稚園を左に見ながら、左手にある通用門を出ると、正面に谷中墓地へ続く桜並木が見えます。3月になると見事な桜のトンネルになりますので、開花したらぜひくぐってみてください。

昨年の桜並木

桜並木の手前の言問通りを右に曲がり、200mほど進んで寛永寺陸橋(橋の下には電車が走っています)を渡った先に、エレベーターと階段がありますので下りてください。小路を100mほど進み左折すると、書道博物館に到着します。東博から約15分の道のりです。

2月4日からは後期展が始まり、展示作品も一新します。
「2館の展示をたのしむ」見どころを3つご紹介しましょう。

(1)褚遂良(ちょすいりょう)のあとさき
東博では、初唐の三大家の一人、褚遂良の晩年の最高傑作「雁塔聖教序(がんとうしょうぎょうじょ)」が登場。装釘の違いがたのしめるよう、石碑の姿がわかる整本(せいほん)と、切り貼りして折帖に仕立てた剪装本(せんそうぼん)を展示します。当時、この書風を追随する者が後を絶たず、一世を風靡しました。石碑は、陝西省西安の大雁塔に「聖教序」と「聖教序記」の二碑が現存します。

雁塔聖教序 褚遂良筆 唐時代・永徽4年(653)
東京国立博物館蔵【東博後期展示】




雁塔聖教序 褚遂良筆 唐時代・永徽4年(653)
高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵【東博後期展示】


書道博では、隋時代の様式が残る褚遂良のウブな作品「孟法師碑(もうほうしひ)」の剪装本を展示。石碑はすでに亡失し、拓本もこれが唯一で、清時代の大コレクターである李宗瀚(りそうかん)が愛蔵した天下の孤本です。コレクターの想いが込められた装釘もおたのしみください。

孟法師碑(唐拓孤本) 褚遂良筆 唐時代・貞観16年(642)
三井記念美術館蔵【書道博後期展示】


(2)顔真卿の宋拓本、ワン・ツー・スリー
忠臣烈士として知られる唐の四大家の一人、顔真卿の「麻姑仙壇記(まこせんだんき)」は、蚕頭燕尾(さんとうえんび)といわれる、蚕の頭のような起筆と、燕の尾のような払いの筆法が特徴的な、晩年の楷書の名品です。世に宋拓本と伝わる「麻姑仙壇記」は10点に満たないといわれ、今回、東博で1点、書道博で2点を展示します。同じ宋拓でも、墨調や拓のとり方による印象の違いをおたのしみください。

麻姑仙壇記 顔真卿筆 唐時代・大暦6年(771)
高島菊次郎氏寄贈 東京国立博物館蔵【東博後期展示】



麻姑仙壇記 顔真卿筆 唐時代・大暦6年(771)
個人蔵【書道博後期展示】


(3)欧陽詢(おうようじゅん)と欧陽通(おうようとう)の親子対決!
初唐の三大家の一人、欧陽詢の書は、険(けわ)しさと勁(つよ)さのある字姿ですが、息子の欧陽通は父よりもさらに険しく、トゲトゲしさが際立ちます。
東博では、欧陽通の「道因法師碑(どういんほうしひ)」の整本2点を、濃墨と淡墨の拓本で紹介します。同じ石碑からとった拓本でも、墨調の違いで雰囲気がガラリと変わります。字口(文字の輪郭線)の鋭さも見どころの一つです。

道因法師碑 欧陽通筆 唐時代・龍朔3年(663)
東京国立博物館蔵【東博後期展示】



道因法師碑 欧陽通筆 唐時代・龍朔3年(663)
東京国立博物館蔵【東博後期展示】


書道博では、欧陽詢の「九成宮醴泉銘(きゅうせいきゅうれいせんめい)」を、整本1点と剪装本7点で紹介します。文字の太細や欠損の状態がそれぞれ異なりますが、どれもみな美しく惚れ惚れする楷書です。

九成宮醴泉銘(端方旧蔵整本) 欧陽詢筆 唐時代・貞観6年(632)
台東区立書道博物館蔵【書道博後期展示】



九成宮醴泉銘(黄自元本) 欧陽詢筆 唐時代・貞観6年(632)
台東区立書道博物館蔵【書道博後期展示】


楷書の極則といわれる、非の打ちどころのない理知的な楷書を書いた父の欧陽詢、険しく古風な筆致を特徴とする息子の欧陽通。親子対決を2館でおたのしみください。

 

拓本のたのしみ

編集:台東区立書道博物館
編集協力:東京国立博物館、九州国立博物館
発行:公益財団法人 台東区芸術文化財団
制作・印刷:大協印刷株式会社
定価:1,900円(税込)
ミュージアムショップのウェブサイトに移動する
拓本のたのしみ 表紙画像

週刊瓦版
台東区立書道博物館では、本展のトピックスを「週刊瓦版」という形で、毎週話題を変えて無料で配布しています。
東京国立博物館、九州国立博物館、台東区立書道博物館の学芸員が書いています。展覧会をたのしく観るための一助として、ぜひご活用ください。

カテゴリ:中国の絵画・書跡「拓本のたのしみ」

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posted by 鍋島稲子(台東区立書道博物館 館長) at 2025年02月04日 (火)

 

特別展「旧嵯峨御所 大覚寺」開幕!

 開創1150年記念 特別展「旧嵯峨御所 大覚寺―百花繚乱 御所ゆかりの絵画―」が1月21日(火)より開幕しました。

 
平成館エントランスのバナー
 
本展覧会は、2026年に大覚寺(だいかくじ)が開創1150年を迎えることに先駆けて企画され、伝来の寺宝を大々的に紹介するものです。
 
大覚寺内の中央に位置する宸殿(しんでん)
 
真言宗大覚寺派の大本山であり、今から約1200年前に嵯峨天皇の離宮としてはじまった大覚寺。歴代天皇や皇族、摂関家が代々住職をつとめる門跡寺院(もんぜきじいん)として、高い格式を誇ります。
 
本展は4つの章立てからなり、第1章から第3章までは時代ごとに大覚寺の歴史をたどり、平安時代、鎌倉時代、そして南北朝から江戸時代にかけて、各時代の象徴的な寺宝をご紹介します。第4章では、本展の中心的な作品となる華やかな障壁画100面が会場を彩ります。
 
第2会場の展示風景
 
それでは、さっそく会場内をご覧いただきましょう。
 
第1会場入り口
 
第1章では、大覚寺の前身となる離宮・嵯峨院や初期の大覚寺にまつわる寺宝をご紹介します。
 
五大明王像
左から大威徳明王(だいいとくみょうおう)、軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)、不動明王、ここまで重要文化財、院信(いんしん)作 室町時代 文亀元年(1501)
続いて降三世明王(ごうざんぜみょうおう)、金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)、いずれも江戸時代 17~18世紀
すべて京都・大覚寺蔵 通期展示
 
第1会場に入ってすぐ、皆さまをお迎えするのは室町~江戸時代に制作された「五大明王像」。2メートル前後の迫力あるお像で、平成の修理時に不動明王から像内銘文が発見されたことで、今後新たな研究成果が期待されています。
 
会場内を進んでいくと、大覚寺のご本尊でもあり、平安時代後期の仏像の最高傑作のひとつ、重要文化財「五大明王像」がお出まし。
 
重要文化財 五大明王像
明円作 平安時代・安元3 年(1177) 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
作者は円派(えんぱ)と呼ばれる京都を拠点とした流派の仏師・明円(みょうえん)。皇室や上流貴族の仏像を手がけた一流仏師で、現存する作例は本作のみ。この度、東京で初めて5体そろって公開されます。
 
続く第2章では、大覚寺中興の祖と称される後宇多法皇(ごうだほうおう)の事績を通して、大覚寺の中世の様子を紹介します。出家後に大阿闍梨(だいあじゃり:最も位の高い僧侶)となった後宇多法皇は、新たに大覚寺法流を築き、弟子を育てるなど真言密教に篤い信仰心を持っていました。
 
重要文化財 後宇多天皇像
鎌倉時代・14 世紀 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
本章で公開される2点の国宝は必見。
 
 
国宝 後宇多天皇宸翰 弘法大師伝(ごうだてんのうしんかん こうぼうだいしでん)
後宇多天皇筆 鎌倉時代・正和4 年(1315) 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
空海の伝記を自ら記した本作品からは、空海を慕う思いの強さが、力強い書体からも感じられます。
 
 
国宝 後宇多天皇宸翰 御手印遺告(ごうだてんのうしんかん おていんゆいごう)(部分)
後宇多天皇筆 鎌倉時代・14 世紀 京都・大覚寺蔵 後期展示(2月18日~3月16日)
 
こちらは後期展示の作品となりますが、崩御前に大覚寺の興隆を願って記した21か条の定めで、冒頭と各条のはじめに朱で手形が押されています。阿闍梨として大覚寺はどうあるべきかを綴った、後宇多法皇の思い入れを体感してください。
 
度重なる火災や応仁の乱によって苦難の時代が訪れた大覚寺。第3章では、南北朝時代以降の大覚寺を支えた歴代天皇や門跡の功績と、それによりもたらされた宮廷文化をご紹介します。
 
源氏物語(大覚寺本)
室町時代・16 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
清和源氏に代々継承された兄弟刀と伝えられる重要文化財「薄緑<膝丸>」と、重要文化財「鬼切丸<髭切>」(北野天満宮蔵)の同一ケース内展示も見逃せません。
 
(左)重要文化財 太刀 銘 忠(名物 薄緑〈膝丸〉)(たち めい  ただ(めいぶつ うすみどり〈ひざまる〉))
鎌倉時代・13 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
(右)重要文化財 太刀 銘 安綱(名物 鬼切丸〈髭切〉)(たち めい やすつな(おにきりまる〈ひげきり〉))
平安~鎌倉時代・12~14世紀 京都・北野天満宮蔵 通期展示
 
第4章は、第1会場の終わりから第2会場全体をつかって、襖絵や障子絵などの障壁画群を一挙にご紹介します。大覚寺に伝わる約240面におよぶ障壁画は、安土桃山~江戸時代に制作されました。これらは一括して重要文化財に指定され、本展では前後期合わせて123面を展示します。
 
第1会場の障壁画展示風景
 
これら障壁画の多くを手がけたのは、狩野派を代表する絵師・狩野永徳の右腕として活躍した狩野山楽。空間を作り込む永徳の画風を引き継ぎつつ、写実性と装飾性のバランスに優れた山楽の才能は、「牡丹図」にも存分に発揮されています。
 
重要文化財 牡丹図
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
総長約22メートルにおよぶ圧巻のパノラマビューをご堪能ください。
 
 
重要文化財 紅白梅図(部分)
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
生命力あふれる優美な梅の姿を描いた「紅白梅図」は、山楽の最高傑作のひとつ。
 
重要文化財 松鷹図(部分)
狩野山楽筆 安土桃山~江戸時代・16~17 世紀 京都・大覚寺蔵 前期展示(1月21日~2月16日)
 
松の巨木の力強さに永徳からの影響がうかがえる一方、より計算されて整った山楽らしい画面づくりも感じられます。
 
いずれの障壁画も子育てをしたり、番(つがい)で飛んでいたりする鳥や花々が描かれ、夫婦円満を願うおめでたい雰囲気が感じられます。迫力ある画面の中にも調和と華やかさがあり、この場を寿ぐような祝福された空間を会場で体感してください。
 
重要文化財 牡丹図(部分)
狩野山楽筆 江戸時代・17 世紀 京都・大覚寺蔵 通期展示
 
第2会場では通常非公開の正寝殿のうち、歴代門跡の執務室であった「御冠(おかんむり)の間」を再現。障壁画とこちらの再現展示は撮影可能なので、記念撮影もお忘れなく。
 
正寝殿「御冠の間」の再現展示
 
前期展示は2月16日(日)まで、後期展示は2月18日(火)~3月16日(日)です。
なお、本展の音声ガイドは、俳優の吉岡里帆さんがナビゲーターをつとめるほか、ゲーム「刀剣乱舞」で「膝丸」、「髭切」の声を担当する声優の岡本信彦さん、花江夏樹さんがゲストナレーターとして登場します。観覧とあわせてお楽しみください。
 
音声ガイドの案内パネル
 
東博史上最大規模となる障壁画が、一挙公開となるまたとない機会。
春の訪れとともに、ぜひ大覚寺展へ足をお運びくださいませ。

カテゴリ:「大覚寺」

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posted by 田中 未来(広報室) at 2025年01月24日 (金)