書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第22回です。
いま、秋の特別公開(本館 特別1・2室、2012年9月15日(土) ~9月30日(日))で、名品が紹介されています!
その中に、書を楽しむ第5回で紹介した、
国宝「古今和歌集(元永本)」が2帖とも、展示されています。
げんえいぼん、覚えていただけましたか?
国宝 古今和歌集(元永本) 平安時代・12世紀 三井高大氏寄贈
左:元永本の上より展示箇所
右:元永本の下より展示箇所
左は、上巻から、花襷(はなだすき)の文様の料紙です。
右は、下巻から、孔雀唐草の文様の料紙です。
どちらも、雲母摺り(きらずり)された文様が、
かがやいています!
左と右の、書をくらべてみてください。
どう思いますか?
元永本下より拡大
これは、とても細い筆線で、
のびやかに書かれている感じがします。
元永本上より拡大
対して、こちらは、線が太く、
ゆっくり書いているようにも見えます。
どう見えますか?
一見すると
違う人の筆跡に見えませんか?
実は、同筆なんです。
元永本は、藤原定実(さだざね、?-1077~1119-?)が
一人で全部書いています。
元永本に使われている料紙は、
13種類もあります。
文様によっては、筆がすべってしまう場合もあり、
それぞれで字の表情が変わってきます。
もちろん、表現を多様化するために
わざと変えるときもあるのです。
最近では、2帖を一度に展示するのは珍しいので、
ぜひ比較して、ゆっくり見てください。
字の配置、
筆のスピード、
いろいろと違いが見えてくると
楽しくなってきます!
秋の特別公開、お見逃しなく!
| 記事URL |
posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年09月23日 (日)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第21回です。
いま、本館3室(仏教の美術―平安~室町)で料紙装飾の美しい写経が並んでいます。
その中で、国宝「竹生島経」(ちくぶじまきょう) をご紹介します。
国宝 法華経 方便品 (竹生島経) 平安時代・11世紀 (2012年10月8日(月・祝)まで、本館3室にて展示)
花や鳥が大きく描かれた料紙が目を引きます!
「竹生島経」は『法華経』の方便品(ほうべんぼん)で、
琵琶湖にある竹生島に伝わったことから、
この名前で呼ばれています。
平安時代、末法(まっぽう)の世が1052年に来ると恐れられて
『法華経』信仰が高まりました。
貴族たちは、『法華経』の写経をするとともに、
その料紙を美しく飾り始めます。
それを装飾経と呼びます。
「竹生島経」は装飾や書風から、11世紀初めの作品と推定され、
素紙(なにも装飾のない紙)に大ぶりの文様が描かれていて
素朴な風合いです。
このあと、装飾経は、料紙を染めて金銀箔を撒くなど、
どんどんきらびやかになります。
「竹生島経」の文字を、
奈良時代に書かれた「大聖武」(おおじょうむ)と比較してみました。
左:国宝 法華経 方便品 (竹生島経) 平安時代・11世紀 より
右:賢愚経 巻第三 断簡 (大聖武) 伝聖武天皇筆 奈良時代・8世紀(展示未定)より
右側、奈良時代の「言」と比べると、
左側、「竹生島経」の「言」は、口の角がやわらかく曲がっています。
右側、「大聖武」は、ニンベンなど、ぎゅっと力強くとまっています。
左側、「竹生島経」は、柔和な感じの線です。
「竹生島経」のやわらかく、おだやかな感じの書は、
「和様」(わよう)の書です。
「和様」は、「三跡」(平安時代中期の著名な三人の能書) である
小野道風(894~966)、藤原佐理(944~998)、藤原行成(972~1027)らによって
確立した、日本独自の書風です。
写経は、どれも同じような端正な字で書かれていると
見過ごしてしまうかもしれませんが、
じっくり文字を見てみると、違いが見えてきて面白く、楽しめます。
初心に戻って、
書を楽しむブログ第1回で紹介しましたが、
いろいろな写経の中から、自分の名前を探して、
比較してみてください。
美しい料紙も堪能しながら。
| 記事URL |
posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年09月05日 (水)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第20回です。
まずは、本館8室・書画の展開で展示中の作品の画像をご覧ください。
自画賛 良寛筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(竹内静子氏寄贈) (本館8室にて9月2日(日)まで展示)
これを書いたのは、良寛(りょうかん、1758~1831)です。
ゆるやかに見える線で書かれた文字。
右は、「貴賎老少 / 惟自知」。
左は、「良寛書」とあります。
真ん中は、朝顔に見えましたが、
ドクロ(髑髏)の絵です。
良寛はほかにも髑髏を描いていて、
禅の世界では、髑髏は情識分別をはなれたさまをあらわしています。
良寛の書をエンピツで写してみました。
エンピツで写した良寛
写してみると、絶妙のバランスがあることに気付きました。
「老」の縦線は、横線と交差する上と下の長さが違います。
適宜、空間を持たせていて、
自分自身の呼吸というか、間のとり方が上手い!
線のスピードにも変化をつけて、
字形を引き締めています。
良寛の独特の書は、
夏目漱石(1867~1916)や、安田靫彦(1884~1978)も好んだそうです。
一行書「積徳厚自受薄」(左) 良寛筆 江戸時代・19世紀
和歌(あきのひに)(右) 良寛筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵(竹内静子氏寄贈)
(ともに今年度の展示予定はありません。ごめんなさい。)
良寛は、江戸時代後期の越後(新潟県)の人です。
若いころに出家して、22歳から岡山県の円通寺で修行しました。
諸国をまわったあと越後に戻り、
托鉢をしながら人と触れ合い、書や詩をよく書いていました。
良寛は、「秋萩帖」(国宝、当館所蔵)の拓本を持っていたことが
知られています。
国宝 秋萩帖 伝小野道風筆 平安時代・11~12世紀 東京国立博物館蔵
(2013年夏の特別展「和様の書」で展示予定!)
「秋萩帖」は、古様の草仮名の遺品として有名ですが、
良寛の書のくずし方は、草仮名の雰囲気があります。
良寛が「秋萩帖」をよく学んだことがわかります。
私は、良寛の書から、
静けさと同時に、ゆらぎのない強い意志を感じます。
それは、
良寛の暮らしぶりと、その暮らしをつらぬいた姿勢を、
私が、良寛の書に重ねているのかもしれません。
書を見る。
その人の生涯を調べて、
あらためて書を見る。
印象は変わったり、変わらなかったり。
それも書を見る楽しさのひとつです。
| 記事URL |
posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年08月19日 (日)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第19回です。
いま、特別展「青山杉雨の眼と書」を開催中です!
青山杉雨(あおやまさんう)、
昭和から平成にかけて書家として活躍、中国書法の普及にも功績のある方です。
「相変」(左)、「黒白」(右)
黒白相変 青山杉雨筆 昭和63年(1988) 東京国立博物館蔵
右上の文字は、ポスターやチラシ、図録の表紙に使われています。
見たことがありませんか?
でも!
読めますか?
私は、読めませんでした…。
右から「黒白相変」(こくびゃくそうへん)と読むそうです。
そして、筆順(書き順)がわかりません…。
勝手に予想してみました。
黒白(杉雨の書)、黒白(恵美の予想)
相変(杉雨の書)、相変(恵美の予想)
これは、篆書(てんしょ)という書体です。
中国で紀元前から使用されてきた古い書体で、
日本でも印鑑の文字などに見られるものです。
篆書も、ちゃんと筆順が決まっているそうです。
正しい筆順を、青山杉雨門下の高木聖雨(たかきせいう)先生に教えていただきました!
(高木先生、ありがとうございました!)
黒白(杉雨の書)、黒白(正しい筆順)
相変(杉雨の書)、相変(正しい筆順)
私の予想は、ずいぶん間違っていました。
大きな間違いは、
まるく書いているように見える部分です。
じつは、一筆のまるではなく、何筆かにわけて書かれているのです。
たしかに、「黒」の字をよ~く見ると、
まるい部分がデコボコしています。
むずかしい。
でも、筆順を考えるのは楽しかったです!
それと、「黒」の字は、人間のようにも見えませんか?
筆順を考えたり、絵のように想像して眺めたり、
篆書もじっくり見てみてください。
カテゴリ:研究員のイチオシ、書跡、2012年度の特別展
| 記事URL |
posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年08月06日 (月)
書を見るのは楽しいです。
より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第18回です。
高野切(こうやぎれ)。
このことば、覚えてください。
Q:「仮名(かな)といえば?」
A:「こうやぎれ!」
です。
(拡大)
重要文化財 古今和歌集巻第十九断簡(高野切本) 伝紀貫之筆 平安時代・11世紀 森田竹華氏寄贈
(特集陳列「秋の特別公開 贈られた名品」2012年9月15日(土)~ 9月30日(日)にて展示)
拡大画像の右の方に見える「の」や、「ゆ」の字、 真ん中あたりの「は」の字、などなど 平仮名のお手本のように見えませんか? 高野切、とは 現存する最古の『古今和歌集』で、 平安時代の“みやび”の感性のもとで完成した仮名で、 最高水準の、美の極致とされています。 3人が分担して書いた寄合書(よりあいがき)になっていて、 その3人の書風を、第一種から第三種と呼び分けています。 上の画像は、第三種書風です。 第二種書風の筆者が、 宇治の平等院鳳凰堂(天喜元年(1053)建立)の色紙形(しきしがた)を書いた 源兼行(みなもとのかねゆき、生没年不詳)とわかりましたので、 高野切もその頃に書写されたことになります。 その第二種書風の高野切を、エンピツで写しました。 手鑑毫戦より高野切
(本館3室「宮廷の美術」 2012年7月18日(火)~8月26日(日)にて展示 ) エンピツで写した高野切 前の画像の第三種書風と比べて、個性的と思いませんか。 同じ仮名でもいろんな書風があります。 私が写した第二種書風の高野切、どうでしょうか? 特徴を上手くはつかんでいないかもしれませんが、 書いてみると、鑑賞がより深まります。 第二種書風の筆者・源兼行は、ほかに、「桂本万葉集」(御物)など、 第一種書風の筆者は、「大字和漢朗詠集」(本館3室にて展示中)など、 第三種書風の筆者は、「粘葉本和漢朗詠集」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)や 「法輪寺切」(本館3室にて展示中)などの同筆の作品があります。 3人とも、能書(書の上手な人)として活躍していたことがわかります。 総合文化展本館3室「宮廷の美術」では、7月18日(火)から8月26日(日)まで この第一種、第二種、第三種書風の作品をそろって御覧いただけます。 こうやぎれ、 巻九の巻頭が、高野山(こうやさん)に伝来したことから この名前で呼ばれています。 ぜひ覚えて、字も真似してみてください。
| 記事URL |
posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年07月22日 (日)