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書を楽しむ 第27回 「絵の中の書」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第27回です。

書、以外の分野でも、書はあります。
今回は、絵画の中にある書をさがして、
久しぶりにデジタルカメラを持って、展示室をまわってみました!
(デジカメの撮影なので、画像が暗くなってしまい、ごめんなさい。
東博では、「撮影禁止」マークのない作品は撮影できますが、 
フラッシュ撮影はできません。)

まずは、本館3室(仏教の美術)
国宝の「十六羅漢像」の中にありました。

国宝 十六羅漢像
国宝  十六羅漢像  平安時代・11世紀 
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(仏教の美術)にて展示

右の上の方の白い枠の中(色紙形・しきしがた)に書かれています。
とてもしっかりした書で、
平等院鳳凰堂にある色紙形の書(源兼行筆)にも似ています。

3室(宮廷の美術)では、
重要文化財「後三年合戦絵巻」の詞書(ことばがき)がありました。


重要文化財 後三年合戦絵巻 巻上  飛騨守惟久筆 南北朝時代・貞和3年(1347)
2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(宮廷の美術)にて展示

絵巻の詞書も、能書(のうしょ、書の上手な人)が書いている場合が多いです。

3室(禅と水墨画)では、
絵の上の方に、賛(さん、絵などを褒めたたえる詩文)がありました。


(左)白衣観音図  鎌倉~南北朝時代・14世紀
(右)重要文化財  蘭蕙同芳図 玉畹梵芳筆 南北朝時代・14世紀

2012年11月20日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館3室(禅と水墨画)にて展示

禅僧が書いたものが多く、
とても味わいのある書です。

さて、
本館7室、8室では、
署名を加えているものが多いです。


(左)紅白梅図屏風 山田抱玉筆 江戸時代・19世紀 長谷川巳之吉氏寄贈
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館7室(屏風と襖絵)にて展示
(右)梅鴛鴦若松春草図  田中抱二筆 江戸時代・19世紀
2012年11月27日(火) ~ 2013年1月14日(月) 本館8室(書画の展開)にて展示


左は「抱玉筆」、右は「抱二筆」です。
どちらも、酒井抱一(さかいほういつ、1761~1829)の弟子なので、
名前に「抱」という字を使っていますが、
「抱」の書き方が似ていると思いませんか?
二人とも、
師匠の抱一の署名を真似ているようです。

右の画像の、赤いまるい印章の字も、
筆の字のような雰囲気で、素敵です。
これも、師匠の抱一が押していたものと似ています。

さいごの本館10室です。

9室から入ると、
絵ではありませんが、振袖の中に、書がありました!


振袖 白絖地楓竹矢来文字模様 江戸時代・18世紀
2012年10月23日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(衣装)にて展示


左上は「若」、右下に「紫」が見えます。
源氏物語の「若紫」をモチーフにした文様です。
工芸品の中にも、書があるんですよね。
浮世絵の中はどうでしょうか?


(左)假名手本忠臣蔵・五段目 葛飾北斎筆 江戸時代・19世紀   
(右)高名美人見たて忠臣蔵・六だんめ 喜多川歌麿筆 江戸時代・18世紀
2012年11月27日(火) ~ 2012年12月24日(月・休) 本館10室(浮世絵)にて展示


女性が持っている巻き物には、なにが書かれているのでしょうか?


今回、酒井抱一の絵は展示されていませんでしたが、
抱一の絵の繊細さが好きです。
その弟子が、師匠の署名まで真似ているのがわかって
面白かったです!

好きな画家、好きな絵があったら、
その画家がどんな字を書いていたのか、
確かめてみませんか?
その人の字を見ると、
その人に近づいたような気がしてきます。

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年12月02日 (日)

 

書を楽しむ 第26回 「世尊寺」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第26回です。

本館3室(宮廷の美術)(2012年11月20日(火) ~12月24日(月・休))に、世尊寺家(せそんじけ)が大集合します!

せそんじ、
日本の書の歴史、とくに「和様の書」(わようのしょ)にとって、
世尊寺は重要です。
覚えて欲しい!!

世尊寺家については、書を楽しむ11回でも少し触れました。
藤原行成(ふじわらのこうぜい、972~1027)を祖とする
能書(書の上手い人)の家系です。

藤原行成は、
三跡(平安時代中期を代表する三人の能書、小野道風・藤原佐理・藤原行成)の一人で、
日本独自の書「和様の書」を確立しました。
書を楽しむ第9回で紹介した、
国宝「白氏詩巻」は行成の筆跡です。

世尊寺家から、次の作品を御覧ください。

(左)藍紙本万葉集切、(右)巻子本古今和歌集切
(左)藍紙本万葉集切 藤原伊房筆 平安時代・11世紀
(右)巻子本古今和歌集切 藤原定実筆 平安時代・12世紀 植村和堂氏寄贈


左は、三代目・藤原伊房(これふさ、1030~69)、
右は、四代目・藤原定実(さだざね、?-1077~1119-?)です。

この二人、親子ですが、書風を比べてみてください。
まずは、全体を見た感じはいかがですか?

次に、字の拡大を比較してみました。


左から:伊房「あ」、定実「あ」、伊房「も」、定実「も」

「あ」は、よく似てますよね。
「も」は、縦線の曲がり具合が違いますが、点を打つ位置が似ています。


左から:伊房「て」、定実「て」、伊房「を」、定実「を」

「て」は、すこし形が違って見えますが、
どちらも、横線のあと、一瞬はなれて縦線を書いています。
「を」はいかがでしょうか?

全体で見た雰囲気が違っていても、
一字一字を取り出してみると似ています。

伊房、定実、定信 三代の字
定信、定実、伊房 三代の字

これは、当館の島谷副館長が作った画像です。
右から、三代・伊房、四代・定実、五代・定信の筆跡です。
島谷は、「骨格は類似しているけれど、筋肉のつき方が違う」
と言っています。
伝統を受け継ぐ書ですが、
それぞれの創意工夫で、
新たな創造ができるのです。

今回、展示室には、
三代、四代、五代、六代・藤原伊行(これゆき、?~1149~68-)まで
並べてご紹介します。

能書の家系・世尊寺家、
代々の字を比較してみてください。
そして、
それぞれの書の個性的な魅力を楽しんでください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年11月19日 (月)

 

書を楽しむ 第25回 「うたあわせ」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第25回です。

本館3室(宮廷の美術)で国宝「寛平御時后宮歌合」が展示中です(2012年11月18日(日) まで) 。

国宝 寛平御時后宮歌合(十巻本歌合)(部分) 伝宗尊親王筆 平安時代・11世紀
国宝 寛平御時后宮歌合(十巻本歌合)(部分) 伝宗尊親王筆 平安時代・11世紀

国宝なのにずいぶん地味な作品だな~、
なんて、思いませんでしたか?
これが、よく見ると、
やっぱり仮名が美しいです!

(左)拡大、(右)筆者のエンピツ写し
(左)拡大、(右)恵美がエンピツで写しました。

エンピツで、「ゆきの」と「やまの」だけ
写してみました。
「ゆ」や「の」がゆったりと丸くて、
やわらかい、優しい気持ちになる字です。

エンピツで写しつづけて、
形は似るようになりましたが、
エンピツと筆とは大きな違いがあります。
それは、筆の弾力です。
筆の弾力で、
リズムや筆力が生まれて、
美しい線が表現されます。



この「寛平御時后宮歌合」は、
「十巻本歌合」(じっかんぼんうたあわせ)の一部です。

「十巻本歌合」とは、
平安時代、関白の藤原頼通(よりみち、992~1074)が編纂させたものですが、
これは草稿なので、
朱や墨の加筆や訂正があります。

以前、「書を楽しむ」第18回でお伝えした、仮名の王様「高野切」(こうやぎれ)。
覚えていますか?
「十巻本歌合」は、「高野切」と近い時期に書写されたので、
中に、「高野切」と同じ筆者の字もあります。

ところで、
「歌合」とは、なんでしょう。

画像に「右」や「左」と書いてあるのが見えますよね。
右の歌と、左の歌で、競い合う催しです。
一番古い記録では、仁和年間(885~89)の歌合があります。

今回展示している場面は、
冬の歌の歌合の部分ですから、
「ゆき」、「しらゆき」の字がたくさん見えます。

ゆったりと優雅な「ゆき」を探して、
真っ白い雪景色を想像してみませんか?

 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年11月07日 (水)

 

書を楽しむ 第24回 「湯!!」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第24回です。

今回はこれです。

禅院牌字断簡「湯」 無準師範筆
禅院牌字断簡「湯」 無準師範筆 中国  南宋時代・13世紀 広田松繁氏寄贈
(本館4室
東京国立博物館140周年特集陳列「広田不孤斎の茶道具」にて11月25日(日) まで展示中)

かっこいい!!すかっとしている!! と思いませんか?

サンズイの勢いのあるハネ、
右上角の鋭い曲がり(転折)、
最後の線も、力強く長い。

一文字だけど、こんなに力があるなんて、すばらしい!

これを書いたのは、無準師範(ぶじゅんしばん、1176~1249)、
中国、南宋時代の高名な禅僧です。
彼のもとで学んだ日本人僧、円爾弁円(聖一国師)(えんにべんえん、しょういつこくし)に
与えた書の一つです。

円爾は東福寺の開山第一世となりました。
東福寺の「普門院」の印が斜めに押されているのも、
いい味わいを出しています。

昭和11年(1936)に、
この「湯」を写した人がいます。


「湯」(写し)、『茶道三年』(上巻、飯泉甚平衛発行、昭和13年)より転載

写したのは、松永耳庵(まつながじあん、1875~1971)。
本名は松永安左エ門、電力王として著名で、
大コレクターでした。
その耳庵が参加した茶会の記録(茶会記)に、
この「湯」の字が紹介されていました。

たぶん、茶会が終わってから思い出して書いたのでしょう。
「普門院」の印の位置も違うし、
「湯」の字も、それほど力強くないです。

でも、わざわざ写して記録するのは、
よほど気に入ったのでしょう。
茶会で見た「湯」の感動が、にじみ出ている気がします。

「湯」という一字だけに、
茶の湯の世界でも珍重されてきました。
この作品を当館にご寄贈くださったのも、
広田不孤斎(ふっこさい、1897~1973)という茶人。
本名は広田松繁、古美術商だった方です。



当館でこの作品を管理している富田列品管理課長から
「湯」に付属品の掛幅があることを教えてもらいました。


禅院牌字断簡「湯」付属品

江戸時代の俳人、松永貞徳(まつながていとく)が、
「さん水のうへにちょぼ々々三つあるはたぎる茶釜の湯玉なりけり」
と詠んでいます。
サンズイの最初の画に、ちょぼちょぼちょぼと三つあるのは、
茶釜の湯の玉だとたとえています。

江戸時代にもこの作品は、茶の湯の世界で親しまれていたようです。

「湯」の字は、いま、本館4室(茶の美術)で、
広田不孤斎の茶の湯の道具と一緒に並んでいます。
本館3室から4室を見わたすと、
遠くからでも、「湯」!!と主張していますよ。
遠くから眺めてから、
近くへ寄ってじっくり御覧ください。

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年10月23日 (火)

 

書を楽しむ 第23回「池大雅」

書を見るのは楽しいです。

より多くのみなさんに書を見る楽しさを知ってもらいたい、という願いを込めて、この「書を楽しむ」シリーズ、第23回です。

いま、本館8室(書画の展開―安土桃山~江戸、10月14日(日) まで)に、
池大雅(いけのたいが、1723~76)の作品が
たくさん展示されています。

まずは、池大雅の作品のうち
一部分を、エンピツで写してみました!


(左) 一行書(部分)  池大雅筆 江戸時代・18世紀 植松嘉代子氏寄贈
(右) エンピツの写し(「此度」のみ)


自由な筆遣いを再現したかったので、
双鉤塡墨(そうこうてんぼく。字の輪郭を線でとって、その間を墨で埋める模写方法)の
ように写してみました。
墨のかすれ具合が特徴的です。

自由な、と言いましたが、
実際に写してみると、
上の文字「此」の空間に前の字「去」が、
下の文字「度」の空間に次の字「還」が、
それぞれ一字であるかのように書かれているのが、
わかりました。
空間をうまく使って書いています。


一行書 池大雅筆 江戸時代・18世紀 植松嘉代子氏寄贈

全体を見ると、バランスよく収まっています。
ところが、下の方、「此」の上の数文字は、とても小さいです。
能書(書の上手な人)の作品は、
変化の妙を見せながら、作品の後半が巧みです。

今回は、池大雅の書が5点もあります。


七言二句 池大雅筆 江戸時代・18世紀  植松嘉代子氏寄贈


江戸時代に、
中国文化の影響を受けて、
文人(ぶんじん)が日本各地で活躍しました。
文人は、絵も書も上手で、
中国の詩を理解し、漢詩を詠んだりしました。
ただ、中国の文人と日本の文人では、
大きく立場が異なります。

それはともかく、
池大雅は、日本を代表する文人として有名です。
描いた絵の評価も高く、
実は、今回、本館8室には、
池大雅の絵もたくさん展示されています。


六遠山水図 平遠 池大雅筆 江戸時代・18世紀

文人・池大雅の世界。
ぜひ本館8室にいらしてください。
 

カテゴリ:研究員のイチオシ書跡

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posted by 恵美千鶴子(書跡・歴史室) at 2012年10月06日 (土)