こんにちは。展覧会担当研究員の塚本です。今日は特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」にようこそお越しくださいました。
いや~中国絵画って、ほんとうにいいですね!作品をずっと見ていると、理想の世界に引き込まれてしまって、現実に戻ってくるのを忘れてしまいそうになります。
えっ、良さがいまいち分からないって?そ、そんな…(泣)!
でもたしかに少しとっつきにくいかも知れません。
それでは、中国絵画をもっと楽しんでいただけるように、読み解くキーワードとなる「七つ道具」をご紹介します。
展覧会を10倍(くらい)楽しめること間違いなしです!
その1
「山水・花鳥・人物」
→中国絵画はだいたいこの三つの分野に分かれます。見ている作品が、そのうちのどれに当たるか分類してみてください。
その2
「文人の画(え)」
→中国絵画では上手い絵よりも、高い人格を持った文人(素人)が描いた絵が尊重されます。絵画は人格の表現と考えられたからです。
一級文物 青卞隠居図軸(せいべんいんきょずじく)
王蒙(おうもう)筆 元時代・1366年 上海博物館蔵
展示期間:10月29日(火)~11月24日(日)
その3
「職業画家の画」
→でも、やっぱり絵は上手いほうがいいよね。そんなあなたのために、超絶技巧の作品もあります。
滕王閣図頁(とうおうかくずけつ)(部分)
夏永(かえい)筆 元時代・14世紀 上海博物館蔵
展示期間:10月1日(火)~10月27日(日)
この部分で、縦が5センチほどの小ささ。絵が描かれている絹地の糸目と同じくらい細く緻密な線が描かれています。
その4
「詩書画一致(ししょがいっち)」
→画のなかに、作者や鑑賞した人の詩や感想が書き込まれます。それらを読んで、味わうのも、醍醐味の一つです。
一級文物 浮玉山居図巻(ふぎょくさんきょずかん)(部分)
銭選(せんせん)筆 元時代・13世紀 上海博物館蔵
展示期間:10月1日(火)~10月27日(日)
「この山水に暮らせば、世に出ることはないのだ」
元朝に仕えることを拒否した銭選の自己表明とも受け取れる詩が、右上に書かれています。
その5
清(せい)と雅(が)
→俗世間を離れた文人たちが追い求めた境地のこと。これです、私の追い求めるものは。
一級文物 石湖清勝図巻(せっこせいしょうずかん)
文徴明(ぶんちょうめい)筆 明時代・1532年 上海博物館蔵
なんて素晴らしい景色だろう。
その6
奇(き)と狂(きょう)
→でも、清いだけじゃつまらないですよね。個性を爆発させるタイプの画家の作品はこう呼ばれます。
山陰道上図巻(部分)
呉彬(ごひん)筆 明時代・万暦36年(1608) 上海博物館蔵
目がまわりそうになります。
その7
筆墨の美(ひつぼくのび)
→中国絵画では「形(似ていること)」を重視しません。
いや、正確にいえば、元時代以降、「似ていること」が悪いことになりました。
では何を描いているのでしょうか?
一級文物 漁荘秋霽図軸(ぎょそうしゅうせいずじく)
倪瓚(げいさん)筆 元時代・1355年 上海博物館蔵
展示期間:10月1日(火)~10月27日(日)
それは「筆墨」です。筆墨とは、毛筆で描いた時のかすれやこすれのことです。
人によってそれぞれ書く字が違うのは、書いた字の線も違うからです。中国人は、この線によって、無限の感情表現ができることに気が付きました。
一級文物 漁荘秋霽図軸(ぎょそうしゅうせいずじく)(左下部分)
カミソリで削ぎ落としたような、孤高を感じる筆墨。ときめきます。
一級文物 青卞隠居図軸(せいべんいんきょずじく)(中央部分)
わだかまるような複雑な感情を表す筆墨。たまらない。
このように、多種多様な「筆墨の美」にご注目ください。
どうですか?この「七つ道具」をもっていけば、もっと展覧会を楽しめそうでしょう?
西洋画とも日本画ともちょっと違う中国絵画の世界。
名品でめぐる贅沢な中国絵画の旅へ、行ってらっしゃい!
カテゴリ:研究員のイチオシ、2013年度の特別展、展示環境・たてもの
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posted by 塚本麿充(東洋室) at 2013年10月04日 (金)
本日、特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」が開幕しました!
一級文物(日本でいう国宝)が18件、全40件もの作品が、ついに日本まで来てくれました!
上海博物館とトーハクの深い交流があって実現した展覧会。こんなにたくさんの一級文物を貸し出してくださって、関係者一同感無量です。
ご尽力いただいた皆様に心から感謝いたします。
本日の開幕に先立ち、昨日は報道関係者向けの内覧会が行われました。
展示室に入ると、そこは中国文人の世界。じっと向き合っていると、その深い精神性がしみじみと伝わってきます。
報道の皆様も食い入るようにみていらっしゃいました。
真剣に見ていらっしゃいますね。どの作品かというと…
一級文物 煙江畳嶂図巻 (えんこうじょうしょうずかん)
王詵(おうしん)筆 北宋時代・11~12世紀 上海博物館蔵 展示期間:10月1日(火)~10月27日(日)
美しい水の流れと山々がとおく霞の向こうにひろがり、よく見るとその中に小さく4人の人物が描かれています。
どこにいるのでしょうか?本当に細かく、ふんわりと幻想的に描かれているので、見逃さないでくださいね。
さて、こちらの方々がご覧になっているのは…
一級文物 琴高乗鯉図軸
李在筆 明時代・15世紀 上海博物館蔵
国宝 秋冬山水図 雪舟等楊筆 室町時代・15世紀末~16世紀初 東京国立博物館蔵(2014年1月28日(火)~2月23日(日)まで本館2室にて展示予定)の作者、雪舟が師事した李在の名品。
名品が生まれるルーツは、中国にあったのですね。
また、展覧会担当の塚本研究員による熱いギャラリートークも行われました。
ギャラリートークの様子。 マイクをもっているのが塚本研究員。
ちなみに塚本研究員のトークは、10月12日(土)の講演会、11月8日(金)のリレートークだけでなく、音声ガイドでもお聞きいただけます。
担当者ならではの深い愛情が伝わってくる、分かりやすい音声ガイドです。ぜひ聞いてみてください。
このあと開会式・内覧会も行われ、上海博物館の皆様をはじめ、多くのご来賓やお客様が来館されました。
手前から3番目に上海博物館副館長 李仲謀氏、その隣に東京国立博物館長 銭谷眞美。
江戸時代の日本の文人たちも憧れた中国文人画。
当時の日本には、その正統派とされる作品が存在しなかったため、彼らは本物を見ることが出来ませんでした。切ない…
しかしいま、その名品中の名品がトーハクに来ています。日本人が憧れ続け、日本絵画のルーツともなった中国絵画を、ぜひその目で確かめてみてください。
今後、当ブログにて特別展「上海博物館 中国絵画の至宝」の見どころについて研究員がご紹介してまいります。
どうぞおたのしみに!
カテゴリ:news、2013年度の特別展、展示環境・たてもの
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posted by 小島佳(広報室) at 2013年10月01日 (火)
9月28日(土)は夜8時まで開館し、さまざまなイベントを開催します!
9月28日(土)は、「秋の特別公開」の終盤を飾る、スペシャルイベントデーです。講演会やコンサートなどのイベントが目白押し! 秋の一日を博物館でのんびり過ごしてみませんか。
まずは、トーハク収蔵品のなかでも特に人気の高い、酒井抱一筆の夏秋草図屏風をじっくり鑑賞。驟雨(しゅうう)に打たれる夏草と、野分に吹き流される秋草を描いた抱一の最高傑作です(9月29日(日)まで本館7室に展示)。
15時からは平成館大講堂にて講演会「酒井抱一筆『夏秋草図屏風』の魅力」(講師:当館研究員 本田光子)も開催します(当日先着380名)。奮ってご参加ください。
関連グッズも本館ミュージアムショップ特設コーナーに多数取り揃えました!
芸術の秋にちなんだ音楽イベントも続々開催します。
Music Weeks in TOKYO 2013 まちなかコンサートをトーハクで開催!フルートとハープのコンサートを、表慶館エントランスホールで11:00~、13:30~の2回開催します(フルート:上野由恵、ハープ:平野花子、各回先着100名)。
クラシックの優雅な調べをお楽しみください。
夕方からは、東洋館リニューアルオープンを記念して、ジャワガムラングループ ランバンサリによるガムランと舞踊(小島夕季)のコンサートを、平成館ラウンジで16:30~、18:30~の2回開催します(各回先着200名)。
青銅製の打楽器が奏でる、インドの伝統音楽 ガムランの調べとともに、幻想的なアジアの夜をお過ごしください。公演後は、ガムランの演奏体験もできます。
参考イメージ(写真:古屋均)
東洋館エントランス前では、アジアンビアガーデンを開催! インドネシアビールをはじめ、上海ヤキソバやエビチリ春巻きなど、アジアンテイストのメニューも揃えて、皆様のご来店をお待ちしています。大人気の「一番搾り フローズン<生>」もあります!
ソフトドリンクもご用意しておりますので、ご家族でお楽しみいただけます。
※ビアガーデンは15時開店、ラストオーダー 19:20 (雨天中止)
作品を鑑賞し、音楽に触れ、アジアンビールに酔う秋の一日。
皆様のお越しをお待ちしております!
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posted by 長澤由美子(総務課) at 2013年09月26日 (木)
考古学と美術の出会い「特集陳列 うつす・つくる・のこす」のみどころ(1)
10月20日(日)まで本館2階特別2室で開催中の特集陳列「うつす・つくる・のこす-日本近代における考古資料の記録-」のみどころをご紹介します。
今回の特集陳列では、考古学と美術の出会いとも言える、考古学のために描かれた絵画作品を多く展示しています。
まず、皆様をお迎えするのは、大正時代に活躍した洋画家・長原孝太郎や二世五姓田芳柳が描いた大きな油絵です。
現状の把握コーナー(遺跡を描いた油画と、関連する考古資料や写真を展示しています。)
これらの絵画は考古陳列室に展示するために、帝室博物館(昔のトーハク)から画家へ制作が依頼されました。本作に求められていたのは、遺跡の現状を伝えて理解を助ける、現代でいうところの展示パネルの役割でした。
ケース右手前の《貝塚図》では、土器片が非常に丁寧に描かれていることが眼をひきます。長原は初代東京人類学会会長の神田孝平のもとで古物の整理をしていた経験から、実際に縄文土器をよくみる機会があったのかもしれません。
細部に注目してみると、作品には画家の遊び心がちょっと顔をのぞかせています。
《貝塚図》のサインは土器片に装飾的に組み込まれています。絵画の手前には、モチーフとなった陸平貝塚から実際に出土した土器片も展示していますので併せてご覧ください。
大正時代の考古展示も、こんな風に行われていたのかも知れませんね。
貝塚図(部分) 長原孝太郎筆 大正5年(1916)頃 現地=茨城県美浦村土浦字陸平 陸平貝塚 東京国立博物館蔵
奥へ進んで、ケースの左端には《群集横穴図》を展示しています。
モチーフとなった吉見百穴は、古墳時代後期から終末期(6~7世紀)に造られた横穴墓群です。明治時代初期には先住民とされた土蜘蛛の住居跡とも考えられ、いわゆる「穴居論争」の舞台になりました。
右下には、横穴の入り口部分が別窓で説明的に描かれていますね。一枚の絵画として鑑賞しようとすると、この入り口の部分が唐突に見えてしまいますが、考古学の展示解説のパネルとしては、十分にその機能を果たしていたことでしょう。
しかも、この入り口部分はもっとも気合いを入れて(?)描かれていて、サインもこの部分にあります。そこだけ切り取ってみると、立派な秋の風景画(!)です。
二世五姓田の義理の兄・五姓田義松も明治11年(1878年)にH・V・シーボルトと吉見百穴を訪れて絵を描いたそうですが、その絵はまだ見つかっておりません。義松の百穴図はどんな絵だったのか、ぜひ見てみたいものです。
左:群集横穴図 二世 五姓田芳柳筆 大正2年(1913)頃 現地=埼玉県比企郡吉見町北吉見 吉見横穴 東京国立博物館蔵
右:群集横穴図(部分)
次に、対面する壁付ケースは、重要文化財の武人埴輪から始まります。
吉見百穴の発掘にも関わった埼玉県の素封家・根岸武香の旧蔵品で、有名な埴輪のために絵画資料もたくさんあります。本展覧会では、お雇い外国人のW・ゴーランドの著書に登場する図を併せてご覧いただきます。
外国の方が描くとちょっと外国人風…です。
こちらのケースでは、昭和初期の杉山寿栄男による色鮮やかな復原図の掛け軸を中心に、出土遺物をもとに復原された模造品を展示しています。
過去の復元コーナー(装身具や武具を身に着けた様子がよくわかる人物埴輪と復原模造品、復原図を展示しています。)
さて、進んで中央の昭和初期に制作された2幅の男子像などは、現代的なデザイン画を連想させますね。それは作者がデザインの教育を受けて、印刷業界で活躍された方だからでしょう。
これらの絵画作品の特長は、当館所蔵の考古遺物がそれとわかるようにしっかりと描かれていることです。きっと当時の研究員と繰り返し相談しながら描いたことでしょう。
たとえば、憂いを含んだ瞳が印象的な《上古時代女子図》の女性の耳には、当館所蔵の埴輪と同じかたちの耳飾りが描かれています。額(ひたい)の櫛の使い方は絵画の方がずっとわかりやすいですね。
これらの絵画作品と実際の考古遺物や模造品は一緒に展示していますので、両方を見比べて杉山の視点をぜひ実感してみてください。
左:上古時代女子図(部分) 杉山寿栄男筆 昭和5年(1930)頃 東京国立博物館蔵
右:埴輪 腰に鈴鏡をつける女子(部分) 群馬県伊勢崎市下触町出土 古墳時代・6世紀 東京国立博物館蔵
当館の所蔵するこれらの考古学に関する絵画作品を見ていくと、明治・大正時代は「現状の把握」が第一義で、遺物や遺跡をありのままに「うつす」ことが求められたようです。
次の昭和初期には、「うつす」だけでなく考古学者と造形作家が一緒に展示品を「つくり」、「過去の復元」に努めていった様子がわかります。
また会場中央の覗き込みケースや行燈ケースには、遺物を発掘された状態のままにうつす「現状模造」や、遺物が造られた当時の状態を再現する「復原模造」などを実物と比較して展示しています。これらは、仕様や素材をさまざまに変えながら、考古学者と工芸作家が工夫を重ねた模造品の数々です。こちらもぜひご覧ください。
今回展示する作品は、近代の日本における考古資料の記録であるだけでなく、文化財を後世に遺(のこ)し伝えていくために、博物館の考古学者と造形作家が協働してきた証でもあります。
それはまた、写真と油画の関係や、古物収集家と美術の関係など、日本美術の研究においても多様な広がりを含んでいます。
それぞれの立場から、さまざまな読み取り方をしていただければ幸いです。
ところで、今回の展示の油彩画3点の修理には、館内設置の募金箱にお寄せいただいたご芳志を使用させていただきました。
ご協力くださいました皆様には、心より御礼申しあげます。
このような今回の展示の準備を通じて、文化財を「のこす」活動はご来館くださる皆様によって支えられているということを感じさせられました。
140年の歴史のあるトーハクで多くの方に支えられて守られてきたこれらの作品を、皆様もぜひ実際にご覧ください。
ご来場を心よりお待ちしております。
10月1日(火)(14:00~14:30)は会場で列品解説を行います。どうぞお運びください。
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posted by 鈴木希帆(登録室) at 2013年09月23日 (月)
トーハクのWEBサイト企画、「四季花鳥図巻 あなたが好きな場面は?」
もうご投票くださいましたか?
どの場面もすてき。迷ってしまいます。
まんまるの朝顔や白菊、グラデーションが美しい蔦もみじ、
おっとりした顔の鳥、生き生き動きだしそうな虫。
それにしても、場面ごとに雰囲気が違う。いろいろな描き方が混じってる・・・?
その通り。
近づいてよく見ると、朝顔は目にもあざやかな群青が重ね塗りされて宝石のようにきらきらします。
白とピンクの菊は胡粉を盛り上げた厚みが干菓子のよう。
蔦もみじは絵具をうすくのばしてうっすら透けています。
鳥は筆数少なくあっさり、いっぽう虫は図鑑のように精緻です。
四季花鳥図巻 下巻(部分) 酒井抱一筆 江戸時代・文化15年(1818) 東京国立博物館蔵
写真では感じとれない美しさ。ぜひ実際にご覧ください。
描いたのは酒井抱一(1761~1828)。
尾形光琳(1658~1716)の絵を好み、光琳の展覧会をひらいたり、
作品を集めた本を出版したりと、光琳の良さを広く知らせるために尽力しました。
「四季花鳥図巻」の丸い朝顔や菊は、光琳の描く花によく似ています。
木の幹の、にじみを活かした「たらしこみ」も、
光琳や、光琳が好んだ俵屋宗達の絵にしばしば用いられる技法です。
抱一の「四季花鳥図巻」、とくに私が好きなのは、<はじめ>と<おわり>です。
<はじめ>は半円形の月と、その前に優美な曲線の枝を重ねる萩が
すずしげでさわやかな印象です。萩には鈴虫、その下に松虫が。
秋の夜、虫の音が聞こえてきます。
巻頭部。小鳥は左を向いて次の場面へと視線を導きます。
花鳥すなわち草木花に鳥の組み合わせは、日本でも古くから描き継がれてきました。
これに虫が加わるのは、おもに江戸時代後半からです。
ちなみに、抱一の「四季花鳥図巻」に近い時期には、
お殿様自らがたくさんの虫を描きためたアルバムも作られています。
伊勢長島藩藩主・増山正賢(号・雪斎)筆「虫豸帖(ちゅうちじょう)」です。
東京都指定文化財 虫豸帖 増山雪斎筆 江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵
(2013年10月1日(火) ~ 2013年11月10日(日)、本館8室にて展示予定)
中国の花鳥図巻にはしばしば虫が含まれています。
ただし、中国画では鳴声のきれいな秋の虫はあまり選ばれていません。
抱一は虫の音すだく、親しみ深い日本の秋を表現しているのです。
(岡野智子「酒井抱一筆「四季花鳥図巻」にみる草虫表現―中国絵画との関連をめぐって―」『MUSEUM』551号、1997年)
<おわり>は雪つもる白梅の枝に呼応しあう鶯、藁囲いをかぶせた水仙です。
白に白を重ね、香りに香りを重ねる清々しい場面です。
巻末部。まだ寒い中にも、鶯の呼び声が春の近付きを知らせます。
虫の音、花の香り。
抱一の描写からは、目に見えない季節感まで感じることができます。
色あざやかな花や紅葉より、時にいっそう四季を感じるのです。
巻物としての<はじめ>と<おわり>も見てみましょう。
巻物の内容をしるす、いわば“本のタイトル”部分。
<はじめ>の部分を見えるように展示しています。
巻物をすべて巻くと、この部分が表紙となります。
かなで「あきふゆのはなとり」と書かれています
(ちなみに上巻は「春夏乃花鳥」と漢字で書かれています)。
「文化戊寅晩春 抱一暉真写之」の署名と「雨華」・「文詮」の印。
<おわり>には、描いた人のサインが入っています。
ここから、抱一が文化15年(1818)春の終わりに描いたことがわかります。
この数年後、抱一は銀箔の「夏秋草図屏風」を描きます。
酒井抱一の「四季花鳥図巻」・「夏秋草図屏風」は、それぞれ8・7室にて展示中。
来週末、9月29日(日)までです。
トーハクで、あなたの秋を見つけてください。
この蟻がどこにいるのかも見つけてください。
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posted by 本田光子(絵画・彫刻室研究員) at 2013年09月21日 (土)